サタナエル編2-5
曇りの日、サマエルは塔の上に現れた。この高い塔からは、ツヴェーデンの街並みが一望できた。
「さあ、第三幕の始まりだ! 魔界の魔物よ、この町で思う存分暴れるがいい!」
サマエルは魔界の魔物を召喚した。異形の犬シャドウハウンド、鎧を着た闇黒生命体シャドウサーヴァント、翼ある悪魔ガーゴイルなどが突如町中に出現した。
ツヴェーデン市民はパニックに陥った。市民はひたすら魔物たちから逃げまどったり、家の中に隠れたりした。それを見てサマエルは楽しんでいた。
「第三幕はさながらオーケストラだからね。市民たちには思う存分楽しんでもらいたいね」
サマエルは妖しく笑いつつ、ツヴェーデンの町を見おろしていた。
市民の中に逃げ遅れた人たちがいた。父・母・娘の三人であった。
この家族はシャドウハウンドに追い詰められていた。三匹のシャドウハウンドがゆっくり近づき、一斉にこの家族に襲いかかった。
ふとその時、一人の人影が立ちふさがった。人影は雷の刃でシャドウハウンドを薙ぎ払い、吹き飛ばした。
「大丈夫か? 今のうちに逃げるがいい」
家族はお礼を言って、その場から立ち去った。スルトは魔物たちの前に歩み出た。
「さあ、来い。この私がおまえたちの相手をしてやろう」
周辺の魔物たちが一斉にスルトのほうを向いた。まずは三体のシャドウサーヴァントがスルトに斬りかかってきた。スルトは敵の剣ごとシャドウサーヴァントを打ち砕いた。スルトの豪剣は三体のシャドウサーヴァントを粉砕した。
ついでガーゴイルが上空からスルトに急襲してきた。
「はっ!」
スルトは豪剣を持つと、ガーゴイルを一刀両断にした。
魔物たちはスルトの力におののいた。
「来ないのか? ならばこちらから行くぞ!」
スルトは魔物たちに攻撃を仕掛けた。魔物たちはスルトの力強い剣で次々と斬り裂かれた。
「どうやら、町中に魔物があふれかえったようだ」
その場にアンシャルが現れた。
「サマエルの仕業か。今回は前回よりもより、規模を増したようだな。我々だけではとても手におえん」
「なら、魔物を操っているサマエルを倒すことが鍵だ」
アンシャルはスルトと隣り合った。アンシャルにシャドウハウンドが跳びかかった。アンシャルはきらめく光の剣で、シャドウハウンドを斬り裂いた。
「今は市民たちを守らねばならん。セリオンはまだ帰ってこないのか?」
「ああ、まだ帰ってきていない。今しばらくは私たちだけで、魔物どもを始末するしかないだろう」
そう言うと、アンシャルは魔物たちのあいだを滑走した。魔物たちはアンシャルの斬撃で次々と倒された。
スルトとアンシャルは魔物の群れを屠っていった。
「へえ、やるじゃないか。あの二人だけで多くの魔物たちが倒されてしまうよ」
サマエルはスルトとアンシャルを見て、論評した。
「でも、そういうわけにはいかないんでね。少し早めに大物に登場してもらおうか」
サマエルは手を天に上げた。
「いでよ、邪龍アンティミモス Antimimos !」
突如、空に巨大な存在感が現れた。
「なんだ!?」
「これは……」
スルトとアンシャルはすぐに気づいた。空から何か圧倒的な存在感を感じる。アンシャルは空を見上げた。
「空から、何かが来る!」
「はっははははは! 邪龍アンティミモスよ、思うぞんぶん暴れるがいい!」
空に大きな闇が現れた。闇はしだいに形を成して龍となった。
圧倒的な体躯、異形の姿、たくましい両腕、大きな両脚、それに翼。
邪龍アンティミモスは空にその姿を現した。アンティミモスは空を飛び、口から魔力の球をはいた。
たったこの一撃で市街地が吹き飛んだ。
「まずいぞ! あんな奴に暴れられたらツヴェーデン中が廃墟にされる!」
アンシャルがアンティミモスを見上げて叫んだ。
すると、アンシャルとスルトの周囲に魔物が近づきだした。
「我々の邪魔をするつもりか」
とスルト。
「くそっ! このままでは!」
アンシャルは焦燥感に駆られた。
邪龍アンティミモスは広場に降り立った。そして咆哮をあげた。
ふと、アンティミモスの前に一人の女性が立ちはだかった。
「私が相手よ」
それはエスカローネだった。手には斧の刃が取り付けられた槍「ハルバード」を持っていた。
エスカローネはハルバードを構えた。アンティミモスの圧倒的で巨大な体がエスカローネの前に立っている。エスカローネは光の刃をハルバードから出すと、アンティミモスを斬りつけた。さらに連続で突きを繰り出す。
アンティミモスはエスカローネに目を留めた。アンティミモスは大きな腕を、エスカローネに振るってきた。エスカローネはそれをかわした。
エスカローネは槍のような光を、何発も発射した。アンティミモスはたじろいだ。エスカローネは積極的にアンティミモスに攻撃を仕掛けた。ハルバードの斧部で打ち付ける。
アンティミモスは口から黒い球をはき出した。黒い球がエスカローネに迫る。
エスカローネはハルバードに光を纏わせた。光輝くハルバードで黒い球を弾き飛ばした。
黒い球は建物に当たり、その建物を吹き飛ばした。
エスカローネは邪龍アンティミモスと距離を取った。
エスカローネは光の魔力を収束した。ハルバードの先端に光が集まる。
「くらいなさい!」
エスカローネは膨大な光をビーム砲のように発射した。光はアンティミモスに直撃した。
アンティミモスは大きなうなり声を上げた。
アンティミモスは口に闇の魔力を集め出した。そして口から黒い闇の球をエスカローネに向けてはき出した。黒い球は正確にエスカローネに飛んできた。エスカローネは大技の反動でいまだに動くことができなかった。エスカローネに黒い球が迫った。まさにその時、誰かがエスカローネを抱き上げてその場から移動させた。エスカローネがいた場所に黒い球は当たり、大きな爆発を巻き起こした。そこには小さなクレーターができていた。
「遅くなったな」
「セリオン!」
エスカローネを抱き上げたのは、セリオンだった。
「シエルとノエルは無事だ。聖堂で母さんが面倒を見ている」
セリオンはアンティミモスに向けて大剣を、神剣サンダルフォンを構えた。
「あいつの相手は俺がする。エスカローネはさがっていろ」
「ええ、気を付けて、セリオン」
セリオンはアンティミモスの頭に斬りかかった。セリオンはアンティミモスの頭に何度も打撃した。
そしてセリオンは蒼気を纏い、蒼気の刃でアンティミモスに斬りつけた。青白い気の刃がアンティミモスを押し倒した。アンティミモスはうつぶせに倒れた。アンティミモスは体をばたつかせながら、起き上がった。
アンティミモスは口から黒い球をはき出した。黒い球には闇の魔力があった。セリオンは蒼気を出すと、黒い球を斬り捨てた。
「はああああああああ!」
セリオンは駆けだし、アンティミモスの体を大剣で打ち付け、連続で攻撃した。そして、全力で蒼気をアンティミモスに叩きつけた。アンティミモスは吹き飛ばされ、倒れた。
アンティミモスはもがきながら、起き上がった。
セリオンはアンティミモスの頭を攻撃した。セリオンの大剣がアンティミモスを打ち付ける。
アンティミモスは両腕を振るって、セリオンを叩き落とそうとした。
セリオンはアンティミモスに渾身の一撃を叩きこんだ。
アンティミモスは悲鳴を上げて倒れ込んだ。
「セリオン……」
エスカローネは遠くからセリオンとアンティミモスの戦いを見守っていた。エスカローネは信じていた、セリオンは必ず勝つと。
なぜならセリオンは暴龍ファーブニルを倒した英雄、すなわちドラゴンスレイヤーなのだから。
アンティミモスは起き上がった。口から大きな咆哮を上げた。
アンティミモスはその巨体で疾駆してきた。アンティミモスがセリオンに迫る。
アンティミモスは右腕を上げ、右手でセリオンを押しつぶそうとした。
セリオンはジャンプをしてそれをかわすと、大剣でアンティミモスの頭を打ち付けた。
セリオンはアンティミモスを打撃していく。
アンティミモスは口から黒い息をはいた。黒い炎の息が空中に出された。
セリオンはアンティミモスの頭を蹴って、黒い息をかわした。セリオンは地面に着地した。
アンティミモスは黒い息をセリオンに吹き付けた。
セリオンは大剣を光輝かせた。セリオンの大剣は黒い息を受け流した。
セリオンは光輝く大剣で、アンティミモスを斬りつけた。アンティミモスは悲鳴を上げた。
そのままセリオンは追撃した。光の刃でアンティミモスを斬りつけていく。さらに、セリオンは光の大剣でアンティミモスを打ち付けた。アンティミモスは倒れて、地すべりを起こし建物に激突した。
ちりやほこり、煙が巻き起こった。セリオンは着地し、武器を構えた。
煙の中からアンティミモスが顔を出し、立ち上がった。セリオンは光の刃を大剣から、二回放った。
光の刃はアンティミモスに当たり、ダメージを与える。
アンティミモスは翼をはばたかせた。アンティミモスは空中に飛翔した。
セリオンはアンティミモスを見上げた。
アンティミモスは上昇すると、口から巨大な黒い球をはき出した。
セリオンは跳びあがった。セリオンの光輝く大剣は闇を打ち払った。セリオンと巨大な黒い球がぶつかった。光と闇が対立し、激突した。セリオンの大剣が黒い球を霧散させた。
「はああああああああ!」
セリオンは全力で光の大剣を展開し、光の刃でアンティミモスを斬りつけた。
光の刃はアンティミモスを斬り裂いた。アンティミモスはうつぶせに落下した。アンティミモスの体は黒い霧と化し、消滅していった。
セリオンは空中で一回転すると、広場に着地した。邪龍アンティミモスはセリオンによって倒された。
「やったわね、セリオン! 私信じていたの。セリオンなら必ず勝つって」
エスカローネがセリオンのもとに近づいた。
「エスカローネ、けがはないか?」
「ええ。特にけがはないわ。セリオンが助けてくれたからよ」
「まさか、あの邪龍アンティミモスが倒されるとは思わなかったよ」
そこにサマエルとアナトが現れた。二人は空中に浮遊していた。
「サマエル! アナト!」
セリオンが言い放った。
「どうやらぼくは君の力を見くびっていたようだね。さすがは『英雄』ってことなのかな」
四人のあいだに緊張が走った。
「おまえたちの行動もこれまでだ」
「そうよ。これ以上あなたたちの好きにはさせないわ」
「いいや、まだ終わりじゃない。ぼくたちが戦うよ。ぼくはセリオン、君と戦おう。アナト、君はあちらの娘を頼む」
「はい、お任せください」
アナトはエスカローネの前に移動した。
「こんにちは、愛されている人。今度こそあなたを血で染めてあげるわ」
そう言うと、アナトは銀の槍を出した。
「セリオン、ぼくが君の相手をするよ」
サマエルはサーベルを出した。
「場所を変えよう。ここはいい舞台ではないからね」
「エスカローネ、アナトの相手を頼む。俺はサマエルと戦う!」
「分かったわ!」
「ぼくが君をふさわしい舞台に連れて行ってあげるよ」
セリオンの足元に六芒星の魔法陣が出現した。気が付くとセリオンは凱旋門の上にいた。
「フッフフフフフ! さあ、ここがぼくたちの戦いにふさわしい舞台さ! ここで心おきなく戦おうじゃないか!」
サマエルは魔法を唱えた。セリオンはとっさに後ろに下がった。足元から爆炎が噴き上がった。
一方、広場ではエスカローネとアナトが対峙していた。
「いくわよ!」
アナトがエスカローネに接近し、槍で突きを繰り出した。エスカローネはななめ後ろに下がって回避した。
さらにアナトは槍で薙ぎ払った。エスカローネはハルバードで受け止めた。
アナトは槍を上から下に振り下ろした。エスカローネはその攻撃を、ハルバードの刃で防いだ。
エスカローネはハルバードでアナトを攻撃した。エスカローネの攻撃は宙を斬った。アナトは上空に逃れて、攻撃をかわした。
アナトは右手から赤紫の弾を放った。何発もの弾が、エスカローネに迫りくる。
エスカローネはハルバードで弾をはじき飛ばした。
再びアナトが槍を構えて接近してきた。エスカローネは滑空してアナトに近づいた。エスカローネとアナトの武器が相互にぶつかり、高い金属音を発した。
アナトは槍の先端に魔力を集め、突きと共に撃ち出した。鋭い赤紫の突きがエスカローネに放たれた。
「うっ!?」
エスカローネはきらめくハルバードの刃でそれを受け止めた。
「フフフ、まだ、まだこれからよ!」
アナトは同じ突きを何度も放った。エスカローネは地を滑って、二度の突きを回避し、もう一撃をハルバードで受け止めた。
アナトが上空から、エスカローネに突きつけた。エスカローネは身をそらしてかわした。
エスカローネはハルバードを振るって反撃した。アナトは槍で防いだ。エスカローネはハルバードでアナトに突きを繰り出した。
「くっ!?」
エスカローネの攻撃がアナトを追い詰める。
「ああ!?」
エスカローネの刃がアナトの右肩にかすった。アナトの右肩から血が流れた。
エスカローネはハルバードでアナトを打ち付けた。アナトは槍でガードした。エスカローネとアナトは互いに突きを出して攻撃しあった。途中、アナトは後方に下がった。
「……どうやら武器を使っての戦いではあなたが上のようね」
アナトは空中からエスカローネを見おろした。
「でもね、悪魔の真の力をみせてあげるわ!」
アナトは槍をしまうと、両手に膨大な魔力を集めた。赤紫色のきらめきがアナトの手からほとばしる。
エスカローネはハルバードをアナトに向けた。そして、光の魔力をハルバードの先端に収束させた。
「これで吹き飛びなさい!」
アナトが大きな赤紫の球を撃ち出した。
エスカローネは光の粒子を収束し終えると、膨大な光を発射した。
赤紫の球と光のビームがぶつかった。
「ううっ!?」
エスカローネは押された。
「私は、負けない!」
エスカローネはビームの出力を上げ、フルパワーで砲撃した。
「!? なんですって!?」
エスカローネの光がアナトの球を打ち破った。膨大な光のビームがアナトに直撃した。
「ああああああああああ!?」
アナトはエスカローネの光を受け、空中から地面に落下した。アナトはばたりと倒れた。
戦いはエスカローネの勝利で終わった。