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9.ハッピーエンド

『ちょっと、兄上、瑤子、いい雰囲気禁止!』

慌てて手を離す。ちょっと寂しい。

これが恋なの?


「なんだ、邪魔するな」

『こっちで準備出来たら呼べと言ったのは、兄上だ。それがちょっと邪魔したい時であっても、問題ないはずだよね?』


上の話し方が本当のアレクサルトらしい。どれだけ偽っていたのか。

「そうだな。で、瑤子はいつ行けばいいのだ?」

『明日にでも来てよ。みんな待ってるからさ』


「え、明日?早くない?」

『地球とこちらでは時間の流れが違うからね。瑤子にすれば3カ月は経ってるよ』

「そんなに!あたしにとって、昨日のことなのに」

『みんな、頑張ってる。だから使徒として、見届けてあげて』

「うん、わかった。会えるのを楽しみしている」

『じゃあ、瑤子、明日迎えに行くから』

「我が連れて行く、お前は教皇としてちゃんと仕事しろ」


兄弟のなれ合いを聞きながら、もう3カ月も経ったことに驚く。

明日の結婚式、楽しみ!絶対にクリスティーネ綺麗だと思う。

折角スマホもビデオも持ち込みOKにしてもらってるんだから、絶対に式もお披露目もバッチリ撮るぞ!




クリスティーネの親族扱いで、あたしは教会のチャペルでクリスティーネの登場を待っている。

アレクサルト神が教皇を務める教会だけあって、とても素晴らしいところだった。


ステンドグラスがこの国の在り方を示すかのように、物語となっていた。

光あるところに闇がある。闇を恐れてはいけない。闇は混沌も呼び起こすが、同時に夜という安らぎと癒し、安寧を与える。そして朝の光で人はみな希望を持つのだ。

進め人の子よ。光で希望を闇で安寧を約束しよう。


「いい物語ね」

小説ではわからない。本物の人の営みや世界の在り方、それらを知るたびにこの世界が好きになる。

リューウールそのもののようだ。


大きく鐘が鳴り響く。

幸せなカップルを祝福するように。

ドアが開き、新郎新婦が入場となった。


ベールに包まれた花嫁は表情が見えない。だけどあふれ出してくるオーラが幸せを皆に伝える。

先ほどまであたしがいることで緊張で静まり返っていた参加者だが、優しい愛のオーラで笑顔になっていく。

「おめでとう。クリスティーネ!」

「おめでとう。優梨愛さん」

二人の花嫁に幸あれ!


歓喜極まって叫んだとき、チャペル内に花が舞い降りた。

ピンクのバラ、ピンクのチューリップ、タンポポ、アゼリア、どれも幸福を意味する花たちだ。


歓声が大きくなる。

小説であろうと、それが現実だろうと、ハッピーエンドが一番だ!

幸せにね。


きっと皇帝は皇妃の尻に敷かれながら、執務に励むことになるのだろう。

だからこそ、この国は大丈夫だと思えた。


「瑤子さん、色々ありがとう」

そう言って、先ほどチャペル内で舞っていた花をかき集めて優梨愛はあたしに渡した。

「ありがとう」

花嫁から花束を貰うのって、自分で拾って花束にするよりご利益がありそう。


「今度は瑤子さんの番ね」

優梨愛は舌をちょっと出して、はにかんだ。

そうね、いつか。


『さようなら』


見送られるのは苦手だから、ひっそりと帰るね。




家に戻ると、リューウールが待ってくれていた。

戻った時に誰かがいるって、いいね。

こんな時だからこそ、聞いてみたい。

何故、あたしだったのか。そこがスッキリしないとあたしは多分進めない。

アラサーのあたしは、正直美人ではない。10人いれば10人普通と答えそうなぐらい平凡な女だ。その証拠に誰かからアプローチを受けることもなく、一人だ。

神という人を超越している存在の者が、目にとめることが不思議なのだ。


「ねえ、リューウール。なんであたしなの?」

この答えによっては、もう会えない。

「どうしたんだ、急に」


訝しげにあたしを見るが、別に急に思ったわけじゃない。いつも思っていることだ。

だからこそ、答えによっては会いたくない。

―――ここにいることが当たり前になってきたから。

臆病なあたしは、答え次第では逃げる。


何かを感じたのか、リューウールは言葉を探すように目を彷徨わせる。

ピッタリな言葉が見つからなかったのか、独り言のように言葉を紡いだ。


「そうだな。こいつだ、って思ったから、か」


「直感みたいなものだと言っていい」

「直感・・・」

「例えが悪いかもしれないが、瑤子が買い物をしている時に、これ欲しい!と一目で気に入った時のような感じと言えばわかるか?」

「うん」

「使徒を探そうとしたとき、部下が見つけてきた候補は10人以上いたんだ。その候補を見て決めたいと思っていた我は、5番目に瑤子を見た。それはもう衝撃だった。こっちの小説などの言葉を借りれば、一目ぼれというやつだ」


顔が赤い。それだけでなく、リューウールの声が脳内に響くたびに、脳がピンクに染まっていく。

染められている、という自覚がある。

なんて破壊力だ。

自分で聞いておいて、なんだけど。思っていた以上に真っ当に答えてくれるリューウール。

神なんだから、それぐらい分かれよ、と驕ることなく、丁寧に。

続きを聞きたいような、心臓が持たないから、止めて欲しいような。


「それからすぐに行動を開始した。面白かったぞ。イメージとは少々違ったが、掛け合いは楽しかった。今まで一度もあのような扱いを受けたことがなかったのでな。いつもしかめっ面している我が声を上げたのを見て、部下も固まっておった」


それはごめんなさい。

ちょっと病んでたのかも。仕事の疲れが溜まってて、正直どうでもよくなってた。


「部下も応援してくれている。ものにするまで帰ってこなくてもいいとまで言われた。我は神なのに、な」


あたしが重くならなくていいように、笑いを取ってくれるところも好き。


「瑤子の時間は有限だが、我には無限に近いほどある。だから時が刻み終える前には、答えを出してくれ」


そうやって、あたしを気遣って時間をくれるのも好き。

頭を撫でるしぐさも、手を繋ぎながら様子を見る癖も、隙あらば抱きしめようとするところも。

「あたしが、好き?」

「ああ、誰よりも、どの世界に居ても瑤子だけだ」


ああ、もうだめだ。

この声が好き。

神がどの世界に居ても、なんて・・・。

あたしの心臓止めるつもりに違いない。

止めを刺されたからには、――もう逃げられない。逃げる気もなくなった。

掴まってしまった。

全てが好きなんて思うとか、恋に囚われて愚かになったとしか思えない。

だけど、そんなあたしもいいって思えるなんてね。

この責任は一生かかって取ってもらおう。

「リューウール」

「なんだ?」

「あのね、あたしも、・・・リューウールのこと、好き」



神の使徒になって悪役令嬢救ったら、恋人が出来ました。



題名と共に、中身も迷走しながら書き上げました。

読んで頂きありがとうございました。

暇つぶしになったなら、嬉しいです。


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