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ローニン語り――ずっと前とずっと後の世の中について

ローニンの一人称語りになります。後日談的な感じですかね?




「人口が減り始めたのは、当初女性ではなく男性でした。どういうわけか男性が生まれなくなったんです。

 これは、生物学的に言っても納得のいくものです。

 逆に言えば、今の世の中のように、男性しか生まれないというのは不自然極まりないのです。だったらなぜ今は男性しかいないのでしょうか。


 女性たちは、数少なく生まれてくる男性を大切に育てました。しかし男性たちはその女性たちの心がわからなかったと言われています。

 女性は男性に尽くすもの、子供を産むだけの存在、家事は女性がするべし。そういった風潮は古代から根強く残り、働く女性に地位が与えられてからもその考えは変わりませんでした。女性たちは考えました。女性の存在価値は何であるかを。

 彼女たちの出した答えはとてもシンプルでした。世界は男と女で成り立っていて、お互いがその性を尊重しあって関係を築くべきである。

 もちろん、子供を産むのは女性の仕事。子育ても女性がするのは理にかなっているということは、彼女たちにだってわかっているのです。彼女たちが本当に考えているのは、社会進出がどうとか、子育てがどうとか、そういうことを求めているのではありません。

 単なるロボットで代わりがきくような存在ではなく、お互いがパートナーとして認めあい尊重してともに生きること、そんな心のありどころを求めていたのです。

 それで彼女たちは賭けに出ました。

 この世から女性を消し去るのです。そして男性ばかりになった時、彼らがそこに違和感を覚え“都合の良い女性”ではなく本当にもう一つの人間の性として女性に気づければ、女性が復活するようにプログラムしました・・・」


◇◇◇


 男ばかりになった世界のなりたち、執事養成員しか知らない事実をケイ殿に伝えると、ケイ殿は渋い顔をして目を瞑ったまましばらく黙っていました。

「ケイ殿?」

「あ、わりい。いやー・・・なに、その壮大で突拍子もない話。ちょっと理解できなくて」

「そうですよね。執事養成学科の人間だって最初から鵜呑みにできた人はほとんどいないんです。でも、どうやらそういうものらしいと信じたほうがいろいろやりやすいんです」

「つまりさ、ナニ? 俺たちは昔の女性が、男しか生まれないようにってプログラムしたってこと?」

「そうです」

「で、本当の男女関係だか愛だか、なんかそういうのがわかると、女も生まれてくるようになるってこと?」

「そうです。理解できてるじゃないですか」

「いや、理解、できてねえよ」

 ガリガリと頭をかきながら、ケイ殿はそれでもちゃんと理解できている表情をしていました。

「で、それが俺で証明されたと?」

「そうなんです。それで、これ」

 執事養成機関から託された箱をケイ殿に渡そうと差し出しました。でも彼はそれを睨んだまま受け取ろうとしません。

「なんで俺で証明できたってわかんのよ」

「そりゃ、由香里ちゃんのためにあれだけいろんなことをしましたし、しかも男型の由香里ちゃんをちゃんと愛しているじゃないですか」

「そりゃ、最初は驚いたけど、ていうか、お前も言っとけよ。まあ、ちょっとくらい変でも由香里のAIが残せるからな」

 ケイ殿に差し上げたサンプルロボットは、本当はサンプルではなく、本物の最高機密ロボットでした。過去に女性たちが作ったもの(を、近代にさらに改良したもの)です。。

あれから1年、ケイ殿と由香里さんは本当に仲睦まじく素晴らしい夫婦になりました。

「よくわからんなー・・・で、なにか。コレでまた俺たちのこと実験体かなんかみたいに観察するってことだろ?」

 鋭い。

 ケイ殿は理解できないとかわからないとか言ってるくせに、本当はわかってるんじゃないかと思うくらいに鋭いことを言います。

「実は、そうです。これで女の子が生まれれば・・・」

「世界が変わるってことだろ」

「そうです」

 私がうなずくと、ケイ殿は盛大にため息をつきました。それからこの箱を受け取ってくれました。

「わかったよ。やってみる。どっちにしろ俺たちは子どもが欲しいし、俺の遺伝子なんかでよければ実験にでも使ってくれや」

「ありがとうございます」

 なんだかんだ、ケイ殿は受け入れてくれました。

 渡した箱は、子づくりセットです。由香里さんのお腹に入れて、二人の自然な夫婦の営みを経て、由香里さんのお腹で赤ん坊を育て生むという、画期的な装置です。そしてコレは女の子が生まれる可能性がとても高いものです。

「それから」

 由香里さんの身体を、正しい女性型にすることもできると伝えました。絶対にすぐに手術をするかと思いきや、ケイ殿の反応は違いました。

「そうか。じゃあ、もし子供ができたら女性型にしてもらうよ。さすがにあの型じゃ子供の教育上よくないからな」

「そうですね。じゃあ、その時また連絡してください」

「おう、ありがとな」


 それから1年後、ケイ殿のところに女の子が生まれました。双子で由香里ちゃんに似ている可愛い子たちです。

 それはニュースにならず、彼らはそれからすぐに引っ越しました。彼らがどこへ行ったかはここでは秘密です。だけどケイ殿の家族は自然に幸せに暮らしています。

 恋人ロボットと結婚した男性のうち98パーセントが女児を育てることになったのは、それから間もなくのことになるのでした。




これにて完結となります。最後までお付き合いくださいましてありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ローニン語り――ずっと前とずっと後の世の中について まで拝読させていただきました。 遅ればせながら拝読させていただきました。  ムーンの方も読ませていただきましたが、結末が違ってこちらは…
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