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怪奇討伐部Ⅳ-Star Handolle-  作者: グラニュー糖*
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とある動物の昔話

第七話 獣人族




 昔々、あるところに獣人族といわれる魔物たちが住む村があった。

 周りからは「化け物だ、逃げろ!」だの「獣は獣らしく言葉を喋るな!」だの言われてきた。

 だが、彼らは復讐など考えることはなかった。なぜなら、これは何よりも特別な自分達に与えられた試練と思っていたからだ。

 もちろんそんなことはなく、耐えていても何もない。しかし彼らは信じ続けた。


 ある日、とある男がその村を訪れた。

 彼らは当然警戒した。

 大剣を背負い、全てを敵と見なすような鋭い眼光。そして軍の者だと証明するバッジと服。どう見ても敵だ。なのにどうして敵とは思えないのだろう。


 それは彼の行動にあった。


「村を守りたいならついてこい」


 彼は民に背を向けたまま言った。

 その言葉に一人、また一人と手を上げた。


 ……彼は後に魔王となる者だった。

 誰もがそのカリスマ性にひれ伏した。

 だが、一人だけそれを良しとしない者がいた。


 彼……いや、彼女というべきか。その者の名はアイザー。アイザーもまた獣人族で、猫と魚のハイブリッドだ。オンの時の一人称は「ウチ」で、オフの時は「オイラ」らしい。彼は釣りが好きな男の子だ。


 彼は訓練に勤しむ村人たちを横目にいつも木の上などで昼寝をしたり好物の魚を食べたりしていた。


 そんなある日、獣人族をよく思わない人間たちが村を襲いかかってきた。

 もちろん訓練をしていたので対抗することができたが、狡猾な人間たちの頭脳戦により次第に押し返されていった。


「このままでは負けてしまう。アイザー、お前の力が必要だ」


 男は言う。顔や腕、足にまで怪我を負っていた。だが、アイザーが首を縦に振ることはなかった。


 そして数日が経った。動ける獣人族は数えられるほどだ。


 人間が猟銃を構える。

 バァン!!という音が響く。

 腕が吹き飛ぶ。

 血飛沫が上がった。


 それは正反対の方向からだった。


「……ウチの三又槍を受けたモンは立っていられないよ」


 そう言ってニヤっと笑ったのは他でもない、アイザーだった。


 それからアイザーも戦いに参加し、ついには勝利に導いた。

 戦いが終わり、男はアイザーに向かって笑顔で話した。


「アイザー。見事だった。お前は英雄だよ」

「……水が汚れるのが嫌だっただけ。汚れたらウチの好きな魚が棲めなくなる」

「それでも協力してくれたことに感謝するよ」


 男はアイザーの両手を取り、握手した。アイザーは少し戸惑ったが、周囲の仲間たちの顔を見、手の力を少しだけ強めた。


 数日後。男は荷物を整理し、旅の続きをしようとしていた。もちろん皆がその旅に祝福があるようにと祈っていた。

 しかしそこにはいつものようにアイザーの姿はなかった。


「またいつか会えるように」


 その言葉を最後に男は村を後にした。

 村の真横には大きな川がある。下手すると湖に見えなくもない。そこには波止場のような場所があり、アイザーが釣りをしていた。男は当然のように近づき、肩を叩いた。


「……魚が逃げちまうだろ」


 アイザーは振り返らずにルアーを見つめながら口を開いた。

 男は肩を竦めたあと波止場に荷物を置き、アイザーの隣に座った。


「アイザー。どうだ、ついてこないか?」

「何の冗談なんだ?ウチはただの釣り好きだ。戦いになんか興味ない」


 呟きながら魚を釣り上げる。


「お前の槍さばき、どう見てもただの釣り好きじゃないだろう?どこで教わった?」

「素潜りしてりゃ槍ぐらい使えるようになる。モリが少し大きくなっただけだろ」

「そうか。ならお前には軍の隊長になってもらおうか」


 突然の言葉にアイザーは目を丸くする。それと同時に水の中からバシャン!という音がした。どうやら魚が逃げてしまったらしい。しかし今のアイザーにはそんなことどうでもよかった。


「はぁ?!どういうことなんだよ!どうして急にそんな話になるんだよ!?」

「お前の力を認めたってことだ。どうだ?」


 男はアイザーを見つめ続ける。

 しばらく経ってアイザーはため息をつき、餌がなくなった釣り竿を回収した。


「わかった。わかったよ!たまには体を動かすのも大事って言いたいんだろ?村おこしのために頑張ってやるよ!」


 アイザーは猫のように細い目を更に細くし、不敵に笑った。


 __________


「……これが『英雄アイザーの物語』だ」


 そう言って本を棚に片付ける。

 椅子にもたれさせるように立て掛けられている廻貌(エガタ)は不服そうに呟いた。


「ふーん。面白そうな奴だな。でもそう昔の奴じゃないんだろ?しかもつまらないときた。王道って感じ、嫌いなんだよな」

「おいおい……なら寝てても良かったんだぞ。それになんで急に軍の話が聞きたいって言い出したんだ?しかもカリビアさんに見られたくないって……お前、元からとは思ってたけどおかしいぞ」


 俺は腕を組んで廻貌の隣の椅子にドカっと座り込んだ。衝撃で廻貌が滑り落ちるがお構いなしだ。


「おかしくない!それと元に戻せ!」

「はいはい。お前がどう思ってるのかはわからないが、とりあえず刃こぼれとかしてないかを確かめに行くぞ!」

「嫌だ!離せ!」


 手元で暴れ狂う廻貌。まるで歯医者に行きたがらない子供のようだ。まぁここにはそんなものはないが。

 俺は思いっきり柄を引っ張り、真っ黒な異次元にぶち込んだ。


「……はぁ。バノン、行くかぁ」


 俺はポケットに手を突っ込み、ドアに向かうとチャイムが鳴った。


「すいませーん!ヘラさんいらっしゃいますか?」

「……誰だ?」


 俺はちょうどいいと思い、ドアを開けるとそこにはスクーレの仲間であるフローラとウィルがいた。


「あ、ヘラさん!あのですね、お話があるのです」

「すまないがこれから出かけるんだ」

「どこ行くんですか?」

「カリビアさんのところ」


 俺が彼の名を口にすると、二人は顔を見合わせて困った表情をした。まさかカリビアさんに何かあったのだろうか。


「そ、その……言いにくいんですが……あの鍛冶屋……いえ、カリビアさんは魔王城に囚われてしまいました」

「何だって?!」


 予想を遥かに越えた答えに俺は叫んでしまった。

 カリビアさんが捕まった?あんなに強い人が?でもあそこはバレないはず……誰が情報を漏らした?


「それでヘラさんにカリビアさんを助けていただきたいと思ってやって来ました」

「そうだったのか……こんな森の中までご苦労だったな。……それなら用事は無くなった。作戦会議のついでに家に上がってくれ。紅茶でいいよな?」

「お心遣い感謝します」


 二人はお辞儀をし、アラクネのフローラは蜘蛛の足を拭き、人狼のウィルはモフモフの尻尾についた汚れが床につかないようにゴムで縛った。


「ほらよ、洋菓子、ここに置いとくぞ」

「どうも」


 俺は慣れた手つきでパパッと用意した。ムジナが来たらいつもやることだからだ。


「で、誰が依頼したんだい?君たちが来るということは……スクーレ?」

「いえ。でも内緒なんです」

「そ、そうか……」


 丁寧に返事をするフローラの隣で昔から無口なウィルは紅茶を飲んでいた。

 世間話をしたあと、話させっぱなしのフローラに飲むように促す。


「ではいただきます」

「むぐ……マフィン、何年ぶり……」


 マフィンをひと口食べたウィルを見て俺はクスクスと笑った。


「ウィルはヨーロッパの人かい?」

「……もう戻れない街の話しはしない」

「すまない。つい知識欲が出てしまった」


 俺はにへらと笑った。

 フローラを見ると興味深そうに本棚を見ていた。


「……あっ。ごめんなさい。気になってしまって……」

「いいんだ。……俺は人間界に憧れていた。見たことない物、知らない技術。それらをこの手で実現してみたい」


 俺はいくつかある本棚のうちから数冊取り出した。全て人間界についての考察や英雄譚だ。大昔に活躍した人間の話も何度読んだだろう。

 俺はそれを机に置く。

 ウィルは本を一瞥したあと、一冊を手に取った。そこには『カエサル』と書かれていた。カエサル……ということは彼はイタリア人なのか。

 一方フローラは『フランシス・ドレーク』という本を手に取る。なるほど、彼女はイギリス人か。


「叶うといいですね」

「ふふ、それが皇希のおかげで叶いそうなんだ」

「そうなんですか!?」


 フローラは腰を浮かす。


「あぁ。今度ヘッジさんに頼んで穴を開けてもらおう……ってね」


 俺は椅子に腰を下ろす。

 するとマフィンを食べていたウィルは本を机に置き、俺の目を見た。


「で、本題だ。どうやって助けるか、だが……」

「まずは城まで行かないとな。そうだな……テレポートでいいか」


 俺はメモ帳に羽ペンでメモをしていく。


「入ったあとはどうするんですか?」


 紅茶を飲みきったフローラも質問してきた。


「カリビアさんの居場所を突き止め、助けるだろう。幸い、俺は部屋割りとかを多少だが覚えてる。二人はどこに捕まってるかを知ってるのかい?」

「……それが、あの人のために新設された独房なんです」

「めんどくさっ!」


 俺は頭を抱えた。

 新設って……知ってるわけないじゃないか!

 ……独房はリメルアが閉じ込められていたことは知っているが、それ以上のものだろう。


「だからなんです!でも私たち、娯楽室で遊んでたらスグリさんがカリビアさんを運んでて……だから娯楽室の近くだと思うのです」

「娯楽室か……なら行けるな」

「では、明日出発しましょう!」


 フローラは立ち上がって拳を握る。だが、俺の脳は違う考えを持っていた。


「いいや、今から行こう。闇討ちだ!」


 俺は驚く二人を尻目に紅茶を一気飲みした。


 __________


 しんしんと降る雪。一年中のことなのでもう珍しいとは思わない。でもこの気持ちはなんだろう。

 早く外に飛び出したい。ドアの先に出たい。そう思う。


 ここはクノリティアの奥にある屋敷。

 死神の館。ここでオレは暮らしている。


 死神の館と言っておきながら住んでいるのは死神の方が少ない。

 純粋な死神はオレだけ。お兄ちゃんは半分吸血鬼で、マ……お姉ちゃんは完全に吸血鬼だ。そしてお兄ちゃんの従者であるバルディさんはまず種族がわからない。言えるのはヘラと同じドラゴンソウルの持ち主ということだ。


 オレは降り積もる雪を見てため息をついた。

 ざわつく心。嫌な予感。焦燥感。

 これは何だろう。


「ここにいらっしゃったのですか」


 声に反応して振り向くと、毛布を持ったバルディさんが立っていた。


「……ヘラ、今どうしてるかなぁ……ってさ」

「いつも仲がよろしいようで羨ましいです」


 バルディさんは笑ったあとオレに毛布をかけた。

 オレンジ色でモコモコしている。


「そりゃ昔からの友達だからね!」

「さようですか」

「ねー、会いに行っちゃダメ?」

「ダメです。一人では行かせられません」


 バルディさんは目を閉じ、手を胸の前でクロスした。……バルディさん、最近疲れでおかしくなってる……。


「むー」

「むくれてもダメです!……ムジナくん、これはね、ヘッジ様の心遣いなのですよ?」

「心遣い?禁則じゃなくて?」

「禁則て……。ムジナくんを失いたくないからなんですよ?」


 バルディさんは苦笑いした。だがオレに向けられる視線は真剣そのものだ。


「……ほんとに?」

「えぇ。だから何も責めないであげてください」


 バルディさんはニッコリと笑った。

どうも、グラニュー糖*です!

現在、「怪奇討伐部完結直前・pixivと同じところまで進める祭り」を開催しております!

こっちでは表紙を載せられないことが本当に残念ですが、楽しんでいただけると幸いです。

本当はイラストを見て読むほうが良いんですけどね!


なお、pixivからそのままドンしてるのでルビやら何やかんやがpixivのコマンドのままになっている場合があります。それを見つけた際はお手数ですがお知らせしていただくととても嬉しいです。もちろんコメントなどもお待ちしております!


ではでは〜


ちなみにこの回から後書きはコピペとさせていただきます。

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