表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪奇討伐部Ⅳ-Star Handolle-  作者: グラニュー糖*
PR
8/46

幽冥ナイトメア

第八話 閉じた翆眼




 ここはどこだろう?

 迷宮のような、草原のような。

 果てしなく続く大地のようだが、壁が見える。

 よくわからない場所だ。

 だが、なぜか安心できる。

 ずっとこのままここにいたい。


 まずは探索だ。人を探そう。

 できるだけたくさんの情報を得なければ。一番好ましいのはお兄ちゃんだが、まずは人肌が恋しい。


 向こうに人影が見える。

 手を伸ばした。

 一歩、また一歩と踏み出した。


 だが、逆に遠ざかっているような気がした。


 そこに残るのはただの寂しさ。

 誰も助けてくれない。誰も振り向いてくれない。

 そんな考えが頭をよぎった。


 ついこの間まで敵だったのに、優しく、そして嬉しそうに接してくれるお兄ちゃんが恋しい。


「はやく……会いたいよぉ……」


 思わず泣きそうな声で呟いた。

 視界がぼやける。ぼやけた世界の先でお兄ちゃんが見えた気がした。

 その影は手を差し出した。


 でも掴もうとはしなかった。


 あの手を掴めばもう二度とお兄ちゃんに会えない気がした。


 あれは『お兄ちゃんとは違うナニカ』だ。


 張りついたような笑顔。

 そして一言も喋らず、そして決まったような動きしかしない異様な生命。あれはまさに『僕をここに縛りつける者』だろう。


 周りを見てみると予想通りそいつらがウロウロしていた。

 触れれば即死のトラップ。その言葉が一番合っている。

 そして全員こちらを見た。


 目が合う。


 その瞬間、命を賭けた鬼ごっこが始まった。


「何?!なんで追いかけてくるの?!」


 僕は後ろをチラチラと見ながら前に走った。

 すると前方に岩が見えたのでそこに隠れることにした。だが、数秒も持たないだろう。その間に打開策を考えなければ。


「けほっ、けほっ……うまく走れない。それに謎の生き物……今は逃げるしかないのかな……」


 僕は岩の陰に滑り込んで息を整えながら呟いた。

 できるだけ相手から見えないように、背中をずらして後ろの方向を見る。目視できるだけで八体ほど。だが、どれもモヤモヤしていて本当にその数なのかがわからない。


 まずどうしてこんなことになったのかを思い出さないと。

 考えようとしたその瞬間だった。


『サニー……』

「!!!!!」


 驚きすぎて心臓が口から出そうになった。

 ねっとりするような、さも地獄からのような嫌悪を覚える声だ。


 横を見ると、目の部分にぽっかりと黒い穴が開いたお兄ちゃんのような何かが、歯の見えない口を下弦の月のようにしてニヤリと笑った。


「ひ、ぁ、あ……ぎゃぁあああっ!!!」


 腰が抜けた僕は前から突き飛ばされたように飛び退き、ただ本能的に逃げるという行動しかとれなくなってしまった。


「もういや!やだよ!なんで、なんで僕だけ?!ハレティ、謝るからっ……!君を消したことは謝るからぁ!!だから……だからっ!!」


 僕は走っている途中ということも、後ろから得体の知れないモノが追いかけてきていることもお構いなしに叫んだ。


「お兄ちゃんの姿を使わないで!!!」


 喉が渇いてもなお叫んだその時、少し前が光った。そして声が聞こえた。


「ふふ、安心して。あなたはもうセーフティーゾーンにいるわ」

「あなたは……?」


 答えを聞く間もなく、気づいたら森の中で眠っていた。目を開けるとツインテールをシュシュでまとめ、ワンピースを着た女の人が隣に座っていた。


「おはよう、サニーくん」

「……あの……」

「なぁに?」


 女の人は変わらずにニコニコしている。


「誰ですか?」

「ふふ、サキュバスのメノイっていうの。いつもうちのヘラがお世話になってるわね」

「……ヘラさんのお姉さん、ですか?」

「そうよ。あなた、たちの悪い魔法にかかってたわよ」

「たちの……悪い?そうだ!ノートは?!アナスタシアは?!ハレティは?!」


 僕は周囲を見渡す。だが、ただただ木が見えるだけで、そのヤバい奴らの姿は見えなかった。


「いないわよ。アナスタシアって、睡眠の神よね?あなた、彼女の世界……夢に引きずり込まれて殺されるところだったのよ。サキュバスやインキュバスが夢魔でよかったわね」


 辺りに残る魔法の残滓を調べると、確かに夢に関する魔法を使った反応が出た。


 僕の脳内をよぎったのは『タワーヘルプ』だが、それとは違うようだ。

 ただサキュバスやインキュバスの能力を使ったということか。


「……彼らは目が覚めたらヘッジさんを頼れと言ってました」

「あらあら……今は近づかない方がいいわよ。なんかピリピリしてるもの」

「ピリピリ、ですか」

「そうよ。あなた、ずいぶん寝てたみたいだけど……最近、前魔王の息子が帰ってきて、カリビアを捕まえたらしいの。それにヘッジも関わってたらしいの……」

「えぇ?!」


 カリビアさんが捕まった?あり得ない、どうして?隠れるために徹底していたはずなのに。


「驚きでしょ?私も驚いたわよ。でもしょうがないとも思ったわ。捕まえたあの子……とんでもなく強いからね」

「あの子、ですか?」


 僕は言葉的に僕やムジナさんと同じような年齢の人を思い浮かべた。


「えぇ。ヌタス・メラクっていうんだけど、相当な女ったらしでね……。魔法は主に風。でも武器は使わず、拳で語るのよ」

「女ったらし……風……拳……全然想像できないです……」


 僕の脳内の人物像が音を立てて崩れていくと共に、謎が謎を呼んでいった。まさに迷宮入り。百聞は一見にしかずというべきだろう。

 そんな僕をメノイさんはクスクスと笑いながら見ていた。


「ふふ、そう言うと思ってヘラの本を拝借してきたのよ。ほら、このページ」


 嬉々として話しながらページをめくる。確かにそれっぽい人が写っているが、これは何年も昔の写真だろう。


「うーん……これじゃわかんないです……昔の写真じゃないですか」

「あら、ごめんなさいね。じゃ、直接行っちゃう?見た方が早いし」


 メノイさんは本を異次元に押し込む。

 確かヘラさんも同じことをしていたような……。サキュバス系の悪魔の共通スキルなのだろうか。


「でも……嫌な予感がします」

「嫌な予感、ねぇ。……そうだ、レインくんの弟でしょ?なら彼を見習った方がいいわよ」

「……お兄ちゃんを?」

「彼はどんなに危険なところでも、どんなに嫌なところでも自ら突き進んでいく。そういう子なのよ。後先見ないバカじゃない。責任感が強い子なの」


 メノイさんは自然な動きで僕の体を倒しながら頭を膝の上に置かせ、頭を撫で始めた。抵抗するとそれより強い力で押し戻された。


「……責任感……」

「もっと肩の力を抜いて。重いものを背負う年じゃないでしょ?サニーくん。あなたにはヘラみたいに心を壊してほしくないの」


 メノイさんは目を伏せて言った。……それは一体どういうことなのだろうか。


「……ヘラさん、心を壊したのですか?とてもそうには見えなかったんですが……」

「……ちょっとハレティのせいでね。詳しいことは本人かレインくんかムジナくんに聞くといいわね。……ほら、行きなさい。善は急げ、よ」


 メノイさんは僕を立たせ、ウインクした。


「……行ってきます」

「行ってらっしゃい」


 僕はヘッジさんのところではなく、お兄ちゃんのところに向かうべく走り出した。


 もう僕はノートに縛りつけられない。

 僕にはお兄ちゃんたちと一緒に暮らす権利があるはずだ。


 僕は……自由なのだから。


 __________


 オレは一体誰なのだろうか。

 オレはオレ自身のことがわからない。


 オレは死んだ?大昔に?

 じゃあなんでハレティのように足が消えてないんだ?


 グルグルと思考をめぐる謎。

 オレは窓一つ無い真っ暗な部屋で目隠しをされながら考えた。


 光が無い。

 周りに何かあるのだろうか?

 少しでも動けば虫や何かがいそうで怖い。

 これなら殺された方がマシだった。


 寒い。暗い。怖い。


 誰か……。


「……はは……こんなので誰か来るわけないよな……」


 オレは乾いた笑いをこぼす。


 この目隠しは特別製で、いつもオレが作るマジックアイテムと同じようなものだ。

 まぁあれは人畜無害で、呪いなんかあっても死んだりお祓いしないといけないとかは無い。呪いを受けることで自分を強化できるが、自分の意思で呪いを無くすことができる代物だ。


 だがこれは違う。


 どこの誰が作ったものかなんてわからない。もしかすると外したら盲目になっているのかもしれない。


 まさに『呪いのアイテム』だ。


「何も見えなければ良かった。平和な世界?そんなの一欠片ほどだろう?」


 オレは上を向きながら呟いた。

 ヌタスさんなら目をくり抜きかねない。

 なのにどうしてそのままにしたのだろう。


 そうだ、そういえば兵の中で話題になったよな……。

 ヌタスさんの残虐さ。

 あれはヤバいって。

 なのに彼は強くなりすぎた。


「……ヌタスさん……いたぶり殺したいのならさっさとやってくれりゃいいのに。……寒い……暗い……怖い……」


 頭がおかしくなりそうだ。

 もう時間の感覚がない。食事は定期的にスグリが持ってきてくれるが、それでも、だ。朝?昼?夜?そんなのわかりっこない。


 冷たい鉄の扉から冷気を感じる。

 座っている石の段から冷気を感じる。

 どれぐらい高いのかもわからない天井から冷気を感じる。


 今、オレが兵の時に捕まえた悪人の気持ちがわかった気がする。

 周りからの冷たい視線。

 それを気にすることなく自分の手柄だということで運んでいく兵。

 笑われるぐらいなら、民衆の目に晒されるならいっそ死んでしまいたいと思う。


「……気が狂っちまうな」


 ノートに少しでも情報を与えないように、と目隠しをされているが、これはやりすぎではないのか?

 だが、そんな心の声は誰にも届かず、長くて暗い夜に溶けていった。

どうも、グラニュー糖*です!

現在、「怪奇討伐部完結直前・pixivと同じところまで進める祭り」を開催しております!

こっちでは表紙を載せられないことが本当に残念ですが、楽しんでいただけると幸いです。

本当はイラストを見て読むほうが良いんですけどね!


なお、pixivからそのままドンしてるのでルビやら何やかんやがpixivのコマンドのままになっている場合があります。それを見つけた際はお手数ですがお知らせしていただくととても嬉しいです。もちろんコメントなどもお待ちしております!


ではでは〜

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ