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怪奇討伐部Ⅳ-Star Handolle-  作者: グラニュー糖*
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ご飯の時間

第二話 デストロイヤー


__________



「なぁ~にぃ~?お兄ちゃん、こんな遅くにぃ……ふぁあ……」


 オレは大きなあくびをしながら綺麗に加工されたドアを開いた。

 人間たちが元の場所に帰って数ヵ月。クノリティアはそれはそれは大変なことになっていた。

 霊界が言ってしまえばゴミのようになってしまったので、お兄ちゃんのパワーフル稼働でなんとかしたのだ。もちろんパワー不足なのでカリビアさんとマリフの道具を借りたのだが……。まさに魔法と科学の夢のコラボである。


 しかしどうやってマリフが協力できたのかって?

 それはお兄ちゃんが特別に人間界のいわゆる『刑務所』に穴を開けて黒池監修のもと、作業していたのだ。


 そんなお兄ちゃんがこんな夜中に何の用なんだろうか……。


「おぉ、ムジナ。ごめんよ、眠いだろう?だが、これを見てくれ」

「モニター?いつの間に……って誰?これ」


 お兄ちゃんが差し出したモニターを見ると、そこには茶色いセパレートワンピースを着た少女が映し出されていた。


「これは巷で噂の『デストロイヤー』だよ」

「えぇ?こんなちっちゃな子が?」

「しょうがないだろ、そういう情報なんだから。こっちも見てくれ」


 お兄ちゃんが画面をスライドする。そこには破壊された岩……ではなく、建物が映っていた。


「まさか……この子が壊したの?」

「あぁ。怪我人の他に死者まで出ている」

「でもなんで見せたの?」

「それが……この紙を見てくれ」


 そう言って机の引き出しから一枚の紙を出した。そこには『お兄ちゃんはどこ?ワタシのお兄ちゃん……ここにはいなかった。引き裂いちゃったみんな、ごめんね』と書かれていた。


「……『お兄ちゃん』?」

「この少女がもしかするとレインたちの妹かもしれないという可能性が出てきたんだ」

「えぇ?力のバランスがめちゃくちゃじゃん。あり得ないって。違う人の妹じゃないの?」

「そうか……そう、だよな。あのレインがこんなかわいい子を放っておくわけないもんな」

「うんうん!あとお兄ちゃん、その発言はヤバイよ」

「すまん……。とにかく!夜道と一人での外出には気をつけること!いいね?」

「……もしかしてお兄ちゃん、これだけのために起こしたの?」


 もしそうなら一発殴らせてもらわないと……。

 いやいや、眠すぎるからできないや。

 なかなかの策士だなぁ、お兄ちゃん……。


「だってさ、ムジナってば朝早くからヘラんとこ遊びに行っちゃうじゃん……」


 と言いつつお酒をあおる。

 これは定期的に黒池が持ってきてくれる日本酒だ。お兄ちゃんは日本酒の透き通る感じが好きだと言っている。オレにはよくわからないけどね。


「それはお兄ちゃんが遊んでくれないからだよ」

「俺だって忙しいのぉー!ねぇムジナぁ、遊んでぇ」

「うわわっ、書類が落ちてるよ!」


 書類だらけの机にぐでぇーっと力なく倒れ込むお兄ちゃん。……いつからこんなダメ人間……いや、ダメ死神になったのだろうか。


「いいじゃない、ムジナ。たまには遊んであげても」

「リメルアまで……」


 天井の方でリメルアがクスクスと笑っている。リメルアはお兄ちゃんと結婚し、オレの義姉になった。なぜリメルアが独房から出ることができたのかというと、オレの義姉だからという理由だ。


「呼び方が違うわよ。ママ、でしょ?」

「そうだぞ。立場的には義姉だけど、俺はお母さんを作ろうとしていたからね」

「うぅ……お、お姉ちゃん……」

「ふふ、まだまだね」


 いつの間にか復活していたお兄ちゃんとリメ……お姉ちゃんはオレを優しく見つめる。何というか……心がほわほわする。吸血鬼の魔力なのか、それとも……。


「ほら、お姉ちゃんが寝室まで連れてってあげるわ」

「お兄ちゃんは寝ないの?」

「お兄ちゃんは半分吸血鬼だから寝ないのよ。ね?」


 オレと手を繋いだお姉ちゃんはお兄ちゃんの方にウインクする。お兄ちゃんはまたお猪口を手に持つ。……いつまで呑み続けるのだろうか。


「……そうだな。ムジナ、おやすみ」

「うん……おやすみなさい」


 お兄ちゃんはドアが閉まる直前まで、オレに向けて笑顔で手を振り続けた。それだけでオレは……嬉しかった。


__________


「ヘッジ様」


 ムジナが部屋を出てすぐのことだ。

 バルディが暗闇から姿を現した。


「バルディ、お前も早く寝なさい」

「……また渡しそびれたのですか?」


 バルディは書類と書類の間に挟んでいたチケットを指差した。


「黒池にもらった水族館のチケット……ムジナはヘラと行った方が良いんだろうな……」

「そんなことないですよ。さっき、嬉しそうに笑っていましたからね。お兄ちゃんと話せたって」

「本当か!?」

「もう、書類バラバラにしないでくださいよ。でも、元気を取り戻したみたいで良かったです」


 バルディは落ちた書類を拾ってまとめながら笑った。

 つい勢いで立ってしまった……。この癖、直さないとな。


「……いつもありがとうな、バルディ。こんな俺についてきてくれて」

「当然です。私はどこへでもついていきますよ」


 俺とバルディは互いに笑いかけ、そのあと俺はお猪口を見た。

 そこには月が照らし出されていた。


「ふふ……。月を飲む、か。バルディ、お前も一杯どうだ?」

「……付き合いますよ、ヘッジ様」



__________



「うぅ……うーん……」


 ここはどこだ?

 それが最初に頭に思い浮かんだ言葉だ。

 青い空、白い雲。そしてザワザワと葉を擦る音……。間違いない、ここはアメルにある丘だ。しかし……オレ、寝てた?


「おはよう、レイン。こんなとこに一人でどうしたの?サニーは?」


 グワングワンする頭に耐え、横を見るとスクーレがバスケットを持って心配そうに見ていた。


「……サニーは?」

「いや、そう聞き返されても!……レインはここで一人で寝てたのよ」


 オレは首をかしげながら思い出していった。


「……オレはサニーとピクニックを……確かこのクッキーを食べたら眠くなって……それで……」

「あぁ、それが原因ね、絶対。薬でも盛られたのよ、きっと」


 スクーレは散らばっているクッキーを見ながら言った。


「薬か……でも誰が何のために?」

「そこまではわからないわ。とにかくサニーを探しましょう」


 オレはサニーのことをどう思っていたのだろうか。少し前まで敵だったのに。

 でも今も昔もオレの弟。きっと寂しくて泣いてるはず。


「そうだな」


 オレは立ち上がり、体とマフラーに付いた草を払った。


「まずは相談ね。えぇっと……」

「そういや手紙は届いたか?リストに渡したんだが……」

「ん?あぁ、アレ?あるけどまだ読んでないわ」


 ほら、とポケットから取り出した。

 常備してるくせに読んでないのか……。


「なんで読んでないの……」

「困ったときに元気をもらおうと思ってね」

「なるほど」



 ……そして数日間、アメルでお世話になることになった。


「おや、スクーレちゃん、お友だちかい?その姿は……」

「あ……近所の……」

「やっべ、バレた!」


 スクーレの近所のおばさんの言葉にオレは身を翻した。

 アメルにはまだ反悪魔派がいるから気をつけないと……。


「悪魔だね?……でもスクーレちゃんが悪魔と仲良くしてるのはいいことだと思うよ」

「「え?」」


 意外だった。まさかそんなことを考えている人がいるなんて。


「ここに来なさい、そこの悪魔。もうちょっと顔を見せておくれ」

「……どうしよ……」

「大丈夫よ。レイン」

「ほう、レインというのかい。いい名前だね」

「……こ、こんにちは……」


 オレは家の陰から出た。

 するとおばさんはニッコリと笑い、オレの頭を撫で回した。


「ははは、綺麗な金髪だねぇ。こんな優しそうな男の子が悪魔だなんて思えないよ」

「どうも……わわっ」

「それは昔スクーレちゃんが持ってたマフラーかい?もしかしてあげた悪魔ってレインくんのことだったんだね」

「ひ、引っ張るなぁ!ぐえっ」

「おやおや、ごめんねぇ」

「うぐぐ……」


 オレは涙目ながらにおばさんを見る。

 悪気がないのはわかるけど……わかるけどぉ!


「さ、レイン。私の家はもうすぐよ。行きましょう」

「あら、スクーレちゃんの家に泊まるの?仲が良いのね。待ってて、それなら料理をおすそわけするわ」

「え、ちょ、話が____」

「レインくん、悪魔のお友だちはいないの?」


 友だちと言えばリストとかムジナ、ヘラにカリビア、ヘッジがいるけど……。

 リストは人間界に行っちゃったし、ムジナはヘッジと家にいる。ヘラはどこかわかんないし、カリビアは忙しいだろうし……うーん……。


 ____ムジナ、かな。


「……いる。一人、人間好きな悪魔が」



「こんにちはー!」

「ムジナ!バルディさんもいらっしゃい」


 スクーレがエプロンを外しながら出迎える。

 ニコニコしながら手を振るムジナの後ろにはバルディが控えていた。


「バルディも来たんだ」

「はい。最近物騒ですから。一人では行かせられない、と」

「何かあったのか?」

「えぇ。でも心配ありません。この問題は私たち大人が解決します」

「そ、そうなのか」


 バルディの気迫に気圧される。

 それほど危ないんだ……。それなのにオレってば寝てたんだな。


「それでは。私はスクーレさんたちの手伝いをしてきます」


 バルディは一礼をし、キッチンに向かっていった。


「あはは、赤くてちっちゃくてかわいいね!」


 声に反応し、テーブルの方を見るとムジナが無邪気にプチトマトを見て喜んでいた。

 ……こいつはこいつで何をしているのだか。


「それはプチトマトだ。こんなのもわからないのか?」

「うん!あまりこういうのは食べないからね」

「食物繊維もしっかり摂れよな。腹壊すぞ」

「あはは、忠告ありがとうね」


 ムジナはにへらぁと笑う。

 こいつ完全に緩んでるな……。


「あら、ムジナ、プチトマトが気になるの?食べていいわよ」

「あ、スクーレ。料理作ってたんじゃ……」

「そろそろ終わるわ。今オーブンで焼いてるとこ。レインもプチトマト食べる?」

「いただこう」


 オレもプチトマトに手を伸ばす。

 スタンダードな赤や珍しい黄色、黒などのプチトマトがある。

 オレはその中の赤を手に取った。

 ちなみにムジナは黒を持っている。


「んー、美味しいね、レイン!」


 ムジナはヘタを片手に幸せそうな顔をしている。


「もう食ってんのかよ!……はむ……んぁ、美味しいな。もぐもぐ」

「急がなくてもいっぱいあるからね」


 スクーレはお盆を持ちながら笑った。

 しばらくして皿がヘタでいっぱいになったころ、料理が完成してテーブルに並んだ。

 スパゲッティやオムライス、サラダなどがあった。

 それをムジナは身を乗り出し、目を輝かせながら見ている。


「わぁ、どれも美味しそう!人間の食べ物って悪魔のよりずいぶん美味しそうだね!」

「そう言ってもらえると作った甲斐があるわ」


 スクーレは手を拭きながら後ろを見て笑う。

 あぁ、なんて平和な世界なんだろう。


「じゃ、いっただっきまーす!」

「オレも食べる!いただきます!」


 ムジナとオレは手を合わせ、フォークを使いながら食べ始めた。

 まずはスパゲッティ。

 やはり人間の食べ物は美味しい。


「あらあら、良い食べっぷりね。悪魔は皆こうなのかね?」

「はは……この二人が変なだけですよ」


 先程のおばさんのリアクションに、スクーレは苦笑いする。てか変ってどういうことだ。

 一方バルディはコップに冷えた麦茶を注いでいる。


「二人とも、喉を詰まらせないでくださいね」

「バルディも食べる?」

「仕事中ですので遠慮します」

「まあまあ、お兄さんも食べていきなさい」


 おばさんは作りたてのハンバーグをテーブルに置き、バルディの背を押して座らせた。当然バルディは困惑している。そして根負けしたのかナイフとフォークを使いながら食べ始めた。


「ぁ……美味しい……!とても美味しいです!一体どうやったらこんなに美味しいものが作れるんですか?!」


 バルディはこれまで見たことない表情を浮かべた。

 ……なんだ、いつもみたいな堅苦しい表情以外もできるじゃん。


「やっぱり愛情だね」

「愛情、ですか。執事の立場である以上、難しいことですね……。あの、つまり人間のあなたが私たち悪魔にも愛情を注いでくれた、ということでしょうか?」

「それ以外何があると言うんだい?たとえ執事さんでも、死神さんや呪術師さんでも愛情を注ぐ対象にはなるんだよ。それが悪魔であってもね」

「おばさん……!」


 いつしかバルディだけでなくムジナやオレ、スクーレまでもが手を止めておばさんの方を見ていた。

 種族の垣根を越えたその思考……オレも大事にしたい、そう思った。


「ごちそうさまでした!!」


 どれほど経っただろう。

 テーブルには空の皿が積み重なっていた。

 もはや一日の食事分を優に越えている。


「美味しかったぁ」

「ふふ、ムジナってば本当にプチトマトが気に入ったのね」

「うん!黒池に送ってもらお!えへへー、楽しみだなー」


 ムジナは麦茶を飲みながらニコニコとしている。

 オレは……お腹いっぱいすぎてヤバい……。よくプチトマトの話なんかできるなぁ……。いや、美味しいけどさ!


「ムジナくんも泊まっていくのかい?」

「ううん。お兄ちゃんが待ってるから帰らないと」

「おや、じゃあこっちのお兄さんにレシピでも渡しておこう。ムジナくんのお兄さんに作ってあげてね」


 おばさんはバルディに四つ折りにした紙を渡す。

 そこにはさっきまで食べていたもののレシピが書かれていた。


「これは……!いいんですか?!」

「ムジナくんのお兄さんは噂に聞く死神王なんでしょう?護ってもらうために日本酒を渡しに行っているようだから、日本酒に合うもののレシピも書いておいたよ」


 おばさんの話を聞いたバルディは驚き、レシピをポケットに入れ、口を開いた。


「……ヘッジ様のこと、ご存知だったんですね」

「いい人ってことで有名ですからねぇ。それに、こんなにかわいい弟くんがいるのなら尚更だよ」


 おばさんはムジナの頭を撫でる。オレよりまだ幼いムジナはうとうとし始めた。

 ……言われてみればかわいいかもな。


 そして同じぐらいの年齢のヘラ……あいつの精神年齢、すごい高いんだな。今度あまり無理すんなって言ってやらねぇとな。

 ……ってことはヘラもこの場にいたらムジナと同じようにうとうとしてたのか……?

 イメージしにくいが……それはそれでなかなか面白い結果だったかもな。


「では、私たちはここで。暗くならないうちにお暇します」

「気をつけてね」

「はい」


 バルディはムジナをお姫様だっこし、起こさないようにドラゴンのような翼を広げて星空の方へ飛んでいった。

 人間界やアメルではなかなか見られない光景だ。それもスクーレがオレたちと交友関係を結んだからだ。


「……今日はありがとうございました。みんな喜んでもらえましたね」

「えぇ。悪魔でも良い子ばっかりで嬉しいわ。こっちもさっきの二人みたいに暗くならないうちに帰らないとね」

「お気をつけて!ほら、レインも!」

「あ、あぁ。ありがとうございました!美味しかったです!」


 オレたちはおばさんが帰ったあと、さっさと二人で片付けをし、床に就いた。

 オレはお腹いっぱいで一刻も早く寝たかったからである。



 その夜だった。天地を揺るがすような事件が起こったのは。

 被害は計り知れない。

 死者多数。死神も総動員するような事態だった。

 被害に遭ったのはアメル。

 そして犯人は『デストロイヤー』と呼ばれる者だった。

どうも、グラニュー糖*です!


ご飯食べるのが嫌いなんで、登場人物に食べさせたいだけです。(?)

お昼ご飯、春雨食べたあとなんでめっちゃうとうとしてしまってます。

今回予約掲載みたいなのを使って出そうかと思ってます。


おやすm……ダメだ、これからバイトなんだ!


では、また!

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