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バグズ・ノート  作者: 御山 良歩
第四章 最古の恐怖
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四十八話 断章―悲劇の始まり

それでは始まりました新章でございます。

どうぞ、長くなりますがよろしくお願いします。

―――あなたは、幸福ですか?


 この質問は、胡散臭い宗教家がよくする質問だ。

 幸福かどうかと曖昧な質問を問いかけ相手を混乱させ、自分の思いどうりに思考を誘導する。

 それが彼らの手口だ。

 だがしかし、この質問は胡散臭い詐欺師だけでなく企業の、それも社長がすることもある。

 入社試験の面接時に、その社長は必ずこの質問をしたらしい。

 社長の気まぐれではない、この質問に対する返答一つで合否が決まるといってもいい。

 この質問の意味は、日ごろの周囲の人間からの支えを認識しているかどうかである。

 幸福であると答えたなら、家族が自身を支えていることを感謝しており、不幸であると答えたのならば、そのことを認識していないと判断される。

 

 だからこそ、である。

 問いたならば、必ずこう返ってきたはずだ。

 少女は幸福であった(・・・)、と。

 



          *




 舞い散る火花に、飛び散る赤色の花。

 空に広がる黒と大地に広がる白を背景に、白の鬼が暴れ狂う。

 鬼に立ち塞がるのは、黒の鬼。

 必死に白の鬼を封じ込めようとするが、理性を捨て自身の肉体の限界をも考えず繰り出される一撃に、黒の鬼は次々に吹き飛ばさていく。

 白の鬼は全部で五体、対して黒の鬼は五十以上。

 数の差では圧倒的であった、しかし、戦力差は絶望的であった。

 白の鬼が腕を振るえば黒の鬼は赤い花を散らし、黒の鬼が拳を叩きつけようが白の鬼は倒れない。

 しかし、これだけの絶望を見ても黒の鬼は逃げはしない。背を向けようとしない。

 己が命を犠牲にしてでも、たった少しの時間でも稼ぐ。

 そんな覚悟を感じさせるように、黒の鬼達は白の鬼に立ち向かう。


 鬼と鬼が暴れ狂う戦場を背に、一匹の小さな鬼が走っていた。

 白の鬼と戦う黒の鬼の混じった黒とは違い、一片の混じり気の無い墨色の髪をした鬼。

 鬼は腰まである墨色の髪を風に遊ばせ、目標もなく走る。

 遠く、遠く、この地獄から少しでも遠くへと。

 

 墨色の鬼は理解できなかった。

 何故、今まで友好的な関係を築いてきた白の鬼が襲ってきたのかを。

 何故、正気を失っているのかを。

 何故―――頭に奇怪な金属をつけているのかを。

 

 小さな頭に納まった脳を限界まで捻ろうと、答えは出ない。

 だが、それも意味の無いことであった。

 答えは、自ら現れたのであったから。

 

「いやはや残念、ここまで堕ちているとは思わなかった。あれならまだ最初の検体のほうがましだ」


 全身を白で覆った、妙に若々しい声をした老人が声をあげる。

 墨色の鬼は悟った。あれが黒幕だと。

 墨色の鬼は爪を伸ばし、一気に距離をつめて老人の喉下へ一閃する。

 鬼の爪は、意外にも呆気なく老人の喉を突き刺した。

 しかし、老人は何もなかったかのように笑っていた。


「おやおや、随分とお転婆な鬼がいるかと思ったら・・・これはいい、実にいいじゃないか。ここまで純粋な黒が残っていたのは嬉しい誤算だ。フェーズ2の主要検体は君にしよう」


 明るく、朗らかな笑みで老人は優しく墨色の鬼の頭を撫でる。

 墨色の鬼は、まるで背筋に冷たい氷を入れられたように錯覚した。

 こいつはやばい、逃げないと、そう思考を走らせる。

 恐怖で硬直した体に必死に逃げろと命令を下すが、逃げられない。爪が、外れない。

 老人は笑顔のまま首元をはだける。

 そこにあったのはしわがれた肌・・・でなく、冷たい印象をもたせる金属の塊であった。

 鬼の爪は、金属の塊の隙間に挟まるように固定されていた。


「逃がす気は無いよ。でも安心してくれたまえ、君の命を脅かすつもりは無いし、全て無駄にするつもりは無い。ジョーカー、行ってきてくれ。これ以上やらせると、大事な実験材料に破損が出てしまう」


 老人が命令すると、紺色で全身を覆う仮面の男が飛び出た。

 それを見た墨色の鬼は、咄嗟の判断で自分の指を切り落とした。

 言葉にならないほどの痛みが脳を貫き、とびでかけた悲鳴を必死にかみ殺す。

 逃げなくては、それだけが鬼に残された唯一の思考。

 だが、運命はそれを許さない。

 バチッと空気が弾ける音と共に、墨色の鬼はいつのまにか大地に転がっていた。


「非殺傷用のスタンガンさ。大丈夫、死にはしないよ」


 黒の鬼たちの悲鳴と怒号と共にバチッと再び破裂音が鳴り、墨色の鬼は暗闇に意識を落としていった。

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