18 立ちはだかる高き壁、オニョモ!
トップクラン《銀蝋の翼》の本拠は《銀蝋殿》と呼ばれているらしい。
屋根を縁取る銀細工が、歩くたびにギラギラ光った。
「プレイヤーネームを公開にしているな」
豪邸の前で門番みたいに立ちはだかる男の頭上に、《★オニョモんもぉ~★》という、しくじりネームが冠のごとく主張している。
《ケンゾー》でよかったとつくづく思う。
「あえてプレイヤーだと明かしているのよ。同じプレイヤーへの名刺代わりに」
「なるほど」
ネコカはずんずんとオニョモ氏に近づいていった。
「てめえ、ざーこ。また来たのかザコザコ」
門番男には愛想と品性がなかった。
オレンジ髪をライオンみたいに逆立てて、身なりは全体的にだらしない。
端的に言えばチンピラだ。
肩に立てかけている巨大な戦鎚からしてメインジョブは《戦鎚士》なのだろう。
「用件はいつも通りよ。それと私の名前は雑魚じゃないわ。ネコカだって名乗ったはずよ」
「オレはよぉ、雑魚と話すときはよぉ、語尾がザコになるんだザコザコ」
「そう。強者と話すときはどうなるのかしら?」
「普通に敬語だザコ。目上の人に失礼な奴はクソだザコ。育ててくれた親に恥かかせてるザコ。オレは親孝行なんだよザコザコ!」
「人間に上も下もないわ。私にも敬語で話せばあなたの親は喜ぶわよ」
ネコカはこのやり取りに慣れているらしい。
要塞のような腕組みとバリスタ砲みたいな目つきでチンピラに対抗している。
「じゃあ訊いてやるぜザコ。てめえのスリーサイズは?」
「な、なんて破廉恥なことを……」
「てめえ、頭まで雑魚なのか? 勘違いしてんじゃねえザコ。『オベ4』でスリーサイズって言やあプレイヤーレベルと冒険者ランクとオッパイだろうがザコ」
「あえて聞き流してあげるわ。ちなみに、36よ」
「ぷっは! チッパイ発見ギャハハ。乳児かよ、ざーこ! おぎゃーおぎゃーざーこッ!」
これはウザい。
というか、貴族街の大通りに面した門前で、この言動はないな。
さっきからご婦人方の目が痛い……。
「そんなに喧嘩腰でいいのかしら? 今日は有望な人材を連れて来たのよ」
ネコカに促され、勝算兼有望人材の俺は高級タキシードでも着たつもりで前に出る。
「よろしく。プレイヤーネームは《ケンゾー》だ」
「おー、そーかいそーかいザーコ。なら、一発ぶん殴らせろザコ!」
「ん? なぜだ?」
「男ってのはな! だいたい殴ればわかるんだよザコ! 器ってやつがな!」
めちゃくちゃな言い分なのに、俺的にはしっくりきた。
そう、一撃入れればだいたい相手のステータスはわかるものなのだ。
俺は鷹揚に腕を広げた。
「よしこい! 俺は回避もガードもカウンターもヒールも瞬きもしない!」
「いい度胸だザーコ!」
拳を握った相手と向かい合っていると、デュエルマッチみたいで燃えてきた。
一方、ネコカは氷みたいな目だ。
俺はそんな彼女をこそ冷めた目で見る。
ゲームで燃えられない奴はシケった花火だ。
ふにゃふにゃだ。
「くらえや! レンガ壁をも穿つオレの右ストレートォ!」
遠近法に従い、拳が巨大化。
ついにはピントが合わなくなった。
そして、すごい音がした。
メギッと。
「あギャア!?」
とも聞こえる。
俺のほうは少しも痛くない。
HPバーにも変動なし。
頬をぷにっ、とされただけなので、すまし顔だ。
オニョモのほうもすまし顔だ。
握られたスポンジみたいに顔中から冷や汗を噴出、自慢の右腕を押さえて震えてはいるが、すまし顔だ。
で、俺の評価はどうだ?
「や、ウッ、やや、やるじゃねえか……」
しばし悶絶したのち、オニョモは汗だくの笑みを浮かべた。
「Lv.66のオレのウッ、オレのパンチで顔色一つ変えねえとはな。お、オレも変えねえけど」
「意地でか?」
「い、意地でだ。女はオッパイ。男は意地だ。オレが教科書から学んだのはそれだけだ」
まあ、それだけ修めていれば社会ではやっていけるはずだ。
知らんけど。




