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15 シスター、ぶっ飛ぶ


「たーまやー、はーなやー」


「鍵屋でしょ」


「花火なら花屋のほうがいいと思ってな。おはよう、ネコカ」


「おはよう、ケンゾー。それと、今すぐその違法花火大会をやめなさい」


「そうしよう。掴まれ、逃げるぞ!」


「ひゃぁわ……!?」


 俺はネコカを抱き上げ、オベリスク前広場を突っ切った。

 ひとっ跳びで屋根に上がる。


「は、速ええ……!」


「逃げたぞ! 追え!」


「こら待てえ! 花火野郎!」


 衛兵たちの怒声はすぐに風の音に呑まれて後方に消えた。


 昨日、ネコカと「また明日」と約束をした。

 しかし、待ち合わせの場所も時刻も決めていなかった。

 オベリスクの入り口で待っていればいずれは来るだろう。

 でも、ゲーマーはせっかちだ。

 1分1秒を砂金の1粒がごとく惜しむ。


「だから、火魔法で花火を打ち上げていたんだ。狼煙的な」


「どこの馬鹿が街のど真ん中でバカンバカンやってんのかと思ったら、知ってる顔で焦ったわ……」


 冒険者ギルドの前でネコカを下ろす。

 すんげえ睨んでくるが、仕方ないだろう。


「まさかパーティー内でもメッセのやり取りができないとは思わなかったんだ」


「連絡を取り合う手段が軒並み廃止されているのよね。一番メジャーな連絡手段が人に言伝を頼む、よ」


「スマホ、欲しいな」


「スマホ、欲しいわね」


 双頭の猫がニャアゴと鳴いた。


「その点、花火通信は便利だ。町のどこにいても見えるし、聞こえる」


「そうね。でも、二度とやらないでちょうだい。理由は簡単よ」


「大騒ぎになる」


「そういうこと」


 話は変わるが、ネコカの装備は砂や泥で汚れている。

 昨晩は遅くまでスマホと一緒に連携攻撃の確認をしていたのだろう。


「陰で努力するのは優秀なゲーマーの条件だ。いいね」


「陰で努力ってゲーマー自体、日陰者じゃない。もちろん私は陽キャよ。話しかけないでちょうだい」


「陽キャはゲームしないんだよ。俺の定義じゃ」


「私の定義じゃするわ。そして、得てして長時間やり込んでいる陰キャより上手いのよ」


「それ、俺が一番嫌いなタイプの陽キャだ」


「光栄だわ!」


 で、と俺は再度話を変える。


「今日はどうする? 階層主爆撃して怒りだしたら逃げて、ほとぼりが冷めた頃にまた爆撃する遊びでもするか?」


「そんな月面並みに不毛な遊び、人類はやらないわよ」


「人類は何する日なんだ?」


「ついてきなさい。今日は向かうべきところがあるの」


 火矢のような日射しの下、大通りを歩く。

 足元は砂地だ。

 ともすれば夏のビーチにいるような錯覚を覚える。

 が、前を歩く猫耳少女は水着とは程遠い姿で長い尾を振っている。

 革鎧だ。

 そして、武骨なロングブーツ。

 交互に前後する絶対領域の白がまぶしい。


 それにしても、


「妙にプリプリしてないか?」


 俺の目は誘惑するように振られる小さなヒップを追って忙しく左右している。


「モデルウォークと呼びなさい。それと私の後ろを歩かないように」


「プリプリを横目で見ろと?」


「プリプリ言うな! 見るの自体禁止よ!」


 俺の頬に人差し指を突き刺して横を向かせ、ネコカはたぶんプクーッと頬を膨らませた。


「これは尻尾をうまく使う練習よ。あなたがそうするように言ったんでしょ」


「そうでした」


「尻尾って便利ね。舵でありバランサー。猫の耳も人間には聞こえない音まで聞こえるわ」


 獣人クラスは魔法面が貧弱な代わりに運動能力・知覚能力が高く設定されている。

 だが、それも獣の部位を使いこなせて初めて真価を発揮するのだ。


「いいなあ。俺もサブ垢でケモ耳っ子やりたい」


「人生にサブ垢なんてないのよ。いい加減、ゲーム気分は――」


「あ、あの! 少しでいいんです! どうかお話を聞いてください……!」


 悲鳴じみた声がしてネコカの猫耳がびくんとする。

 声の主は修道服の少女。

 かなり切羽詰まった様子で冒険者たちの間を駆け回っている。

 走るたびに固定が甘い積み荷のように胸元が揺れる。

 涙で濡れた垂れ目がなんとも庇護欲をそそった。


 だというのに、だ。


「しつけえよ! ほか頼んなァ!」


「ンどけ、オラァ!」


「きゃ……」


 冒険者たちは冷たい。

 食卓のハエを払うような素っ気なさだ。


「すみません……! 冒険者さんですよね!? 助けてください、父が!」


 そして、俺の番が来た。

 シスターはなんとしても俺を止めようとしがみついてくる。

 すると、密着度が増す。

 あどけない顔と凶暴なまでのボリュームのギャップが俺を見上げていた。

 俺は液状化する自分の顔の原型を留めるのに多大な努力を強いられた。


「どきなさい!」


 ドン。

 俺のシスターさんが吹っ飛ぶ。

 いや、俺のではないな。

 とにかく吹っ飛ぶ。

 突き飛ばしたのは、なんとネコカだった。

 砂上に転がり、黒い曲線美をさらすシスター。

 いろいろ起こりすぎて頭がついてこない。

 俺はメニュー画面を開いた。

 一時停止ボタンを探す。


「……」


 なかった。

 これだからリアルは……。


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