第一章:誘蛾灯(ゆうがとう)と甘い毒(日常からの静かなる逸脱)
◆ あらすじ(第1話〜第5話)
降りしきる雨の中、僕は親友の翔太にノートを届けるため、静謐に包まれた君嶋邸の門を叩いた。出迎えたのは、彼の母親である美穂。豪奢なアンティーク家具、完璧な温度で供されるダージリンティー、そして彼女が纏う蠱惑的な残り香。その邸宅は、息が詰まるほど洗練されていながら、どこか決定的な「歪み」を内包していた。
不自然に修正された家族写真、夫の書斎で見つけた「VEC-359」という不可解な文字列。微かな違和感は、深夜にかかってきた一本の電話によって決定的な亀裂へと変わる。受話器越しに震える美緒の声と、彼女の白い肌に刻まれた暴力の痕跡。それは、決して交わるはずのなかった「僕」と「美穂」という境界線が融解し、共犯関係へと足を踏み入れる静かな号砲だった。
甘い毒のような彼女の引力に抗えず、僕は少しずつ日常という名の足場を失っていく。彼女の隠す真実と、深まる疑念。後戻りできない暗闇の入り口で、僕は誘蛾灯に群がる羽虫のように、その瞳の奥底へと魅入られていくのだった。
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親友の母という「絶対に触れてはいけない領域」への侵犯をトリガーに、ブルジョワ家庭に隠された凄惨な秘密と企業の闇に巻き込まれていく大学生の堕落と葛藤を描く。
光の当たり方一つ、革張りのソファの軋み、紅茶の温度変化まで空間と心理のディテールを徹底した描写が、あなたに息苦しいほどの没入感を与える。




