最終章 柵の外
第七章 柵の外
面談室は、思っていたよりも狭く、冷たい部屋だった。
施設長に付き添われ、俺はその部屋に足を踏み入れた。中央のテーブルには、スーツを着た初老の男が座っていた。監査官だ。施設長は俺を紹介すると、事務的な説明を始めた。処遇状況、生活環境、健康管理──すべてが、あらかじめ用意された台本のように、滑らかに読み上げられていく。
「何か、こちらから伝えたいことは。」監査官が形式的にそう尋ねたとき、施設長の目に一瞬、鋭い緊張が走るのを俺は見逃さなかった。
これが、唯一の機会だった。
「はい。」俺は言った。声が震えないよう、腹に力を込めた。「この施設で行われていることについて、お伝えしたいことがあります。」
施設長がすぐさま口を挟もうとした。「TS6、あなたは──」
「待ってください。」監査官が手で制した。「発言する権利は、彼女にもあるはずです。」
その一言で、俺はわずかに開いた扉を、逃さず押し広げた。
「ここで行われているのは、更生ではありません。」俺は一息に言った。「罰と褒賞という名目の下、収容者の尊厳を組織的に踏みにじる制度です。私はここで、法律の名の下に、人としての扱いを受けられませんでした。それは私だけの問題ではありません。この施設にいる、あるいはこれから収容される、すべての者に起こりうることです。」
施設長の顔から、血の気が引いていくのが分かった。
「詳細な記録を、私はすべて記憶しています。日時、関わった人物、行われたことのすべてを。もし必要であれば、いつでもお話しします。」
面談室に、重い沈黙が落ちた。監査官はしばらく黙って俺を見つめていたが、やがて静かにペンを取り、手元の書類に何かを書き込んだ。
「……その申し出、正式に記録させていただきます。」
それだけだった。だが、俺にとってその一言は、この一年で受けた何よりも重い言葉だった。
面談室を出たあと、施設長に強く腕を掴まれた。「余計なことを──」その声には、これまでにない焦りが滲んでいた。俺はただ、まっすぐにその目を見返した。
「あなたたちが『合法』だと言い張ってきたものが、本当に正しいのか。それを決めるのは、あなたたちじゃない。」
その日から、施設の空気は目に見えて変わった。監査から数週間後、俺は看守に呼び出され、告げられた。
「……お前の処遇について、外部の調査委員会が動くことになった。当面、通常業務からは外れてもらう。」
それが何を意味するのか、俺にはまだ正確には分からなかった。だが、少なくとも、俺の告発は、記録として、この施設の外に残されたのだ。
その後の展開を、俺はすべて詳しく知っているわけではない。制度が完全に廃止されたのか、あるいは形を変えて存続したのか、それは俺の知るところではない。ただ、俺が知っているのは、俺という一人の人間が、沈黙を選ばなかったという事実だけだ。
俺が犯した罪は、消えてなくなるものではない。それは俺自身が、これからも背負い続けなければならないものだ。だが、償いという名の下に振るわれる暴力もまた、正されなければならない。そのふたつは、決して矛盾するものではない。
柵の外に、俺はまだ完全には出ていない。だが、俺の声は、確かにその柵を越えた。
それだけで、俺にはもう十分だった。
──了──
これにて完結です。お読みいただきありがとうございました。




