『薔薇の王冠とロレーヌの庭』
「遥子さん!ついにシナリオここまで進んだんですよお!」
賄いを食べ終わり束の間の休憩時間に、後輩の野村さんがスマホの画面を見せてくる。
男ばかりの厨房だからか、野村さんはやけに私に懐いていた。
いつも何気ない雑談をするのだが、最近は『薔薇の王冠とロレーヌの庭』という乙女ゲームにハマっているらしく、それの進捗をいちいち報告してくる。
私自身、ゲームはやらないけれど、楽しそうにしている後輩を見るのは好きだった。
「結構長かったね」
「そうなんです!このゲーム、意外と悪役が手ごわくって、いつも妨害されるんですよー!これをうまくかわさないとすぐにバッドエンドになっちゃうから一部ではクソゲーって言われてるんですけど、でもスチルも綺麗だし何より攻略対象が最高なんですよね!全員攻略した後はハーレムエンドも公開されるって公式サイトに載ってたんで、今はそれを目指すために全員攻略中です!」
興奮しているのか早口でよくわからない単語を羅列する。
とにかく、難しいけれど面白いってことでいいのかな?
「あ、このゲーム、ミニゲームとかもあって、料理を作って振る舞うシーンとかもあるんですよ。食材も普通にうちらが使ってるみたいな食材ばっかで、焦げた状態で出したら好感度下がったりとか。アイテムもたくさんあって、恋愛そっちのけで育成メインで進める人もいるぐらいで〜」
「そうだね、確かに絵が綺麗」
「興味出たらぜひやってみてくださいね!隙間時間にできるからおすすめです!」
もう何回か誘われている勧誘を曖昧に流す。
自分でやるつもりはないけれど、野村さんがいつも説明してくれるから、大体のキャラクターというやつは理解した。
主人公がいて、普通の女子高生なのだが、聖女として異世界に召喚されるのが、物語の始まりだ。
この時点で「?」だったが、野村さんに言わせると「様式美」らしい。
その主人公を取り囲むのが6人の攻略対象である。
第一王子と第二王子、騎士団長の息子や宰相の息子、神官長の息子、そして隣国の王太子。
攻略対象ではないが、街に降りると情報屋がいて、彼のショップでアイテムを購入できたり、攻略対象の好感度がどれくらいで、何をするとおすすめかアドバイスをくれるから、定期的に街には降りなければいけないと言っていた。
「お助けキャラ」の情報屋だが、野村さんはこの人が攻略対象なら攻略したいと言っていた。
そして先ほど言っていた「悪役」というのは、第一王子の継母で第二王子の実母である「王妃」だ。
王を誑かした絶世の美貌を持ち、物語の中では主人公の恋路をとことん妨害しまくる。
王妃は全ての攻略対象において妨害をしてくるキャラらしいのだが、第一王子の攻略が特に難しく、野村さんは「最後の一人なのに何回バッドエンドになったことか!」と嘆いていた。
なぜなら第一王子攻略の際には、婚約者である「公爵令嬢」も、妨害してくるらしい。
「キャラデザだけなら王妃様も公爵令嬢も好きなんですけどね〜。でもとにかく第一王子が私の本命の推しなんで早くクリアしたい!」
そっか、と相槌を打ちながら、もうそろそろ休憩時間が終わるので立ち上がった。
「じゃあ、私は先に戻るね」
「私もあと5分したら戻ります!」
ひらひらと手を振りながら別れる。
私たちはシティホテル内のフレンチ部門で働いている。
一言でフレンチと言ってもそれぞれ厨房内での受け持ちが違うので、遥子は休憩時間以外で野村さんと絡むことはない。
一度だけ伸びをして肩をほぐした後、遥子は仕事に戻るのだった。




