第75話 クラウスは魔王?
「ミストラルさん、僕さらに強くなりました」
「クラウスさんは既に十分強いかと思うのですが、これ以上強くなってどうするんですか? 世界征服でも?」
「そんなわけないでしょう。また一緒にダンジョンに潜りますが、驚かないでほしいのと、絶対口外しないで下さいね」
「それを破るつもりは毛頭ないんですが、わざわざ宣言するなんて珍しいですね。その強さに期待しておきますよ」
◇◇◇
というわけで、次のダンジョン『メイズフォレスト』(全120階)に向かう。
ここは、【探知】系スキル必須。
持っている【探知】系スキルのレベルに応じてダンジョンの難易度が変化する。
僕は【ステルスサーチ】を持っているから、多分あんまり苦労しないはずだ。
中に入ると、鬱蒼とした森が広がる。
【探知】スキルを使うと、森の中の獣道が見えるようになり、それを進んでいけばいい。
僕のスキルを発動すると、緩いS字カーブの道が示されたので、その道を進んでいく。
途中で出てきたのは茶色で毛深いマイティコング。
すぐさまディメンジョンボックスからメタルブレードを出して、横に両断する。
うん、魔法剣で上から包んでいるだけあって切れ味抜群だ。
クロエ様の言葉を拝借して魔法剣と呼ぶことにしたが、攻撃力は腕力と知性の合計に依存しているからね。
メタルブレードを魔法剣の媒介にすると、剣の生成時のMPが少なくてすむし、見た目にはメタルブレードで押し通せる。
「クラウスさん、ドラゴンブレイドはどうしたんですか?」
「ちょっと無くなってしまいました。スタン侯爵様にも報告済みです」
「そうなんですか……」
ミストラルさんが何か考え込んでいるが、まあ次へ行こう。
今度は上空からヘルコンドルが襲いかかってきた。
降りてきたところを魔法剣のメタルブレードで一閃する。
落ちた魔石がディメンジョンボックスに回収される。
「クラウスさん、私の目がおかしくなければ魔石がひとりでにマジックバッグの中に入っていったのですが……」
「はい。魔石やドロップ品を自動で回収する機能をつけました」
【時空魔法】レベルが最大なので、ディメンジョンボックスに空間操作を応用して自動回収魔法を付与したのだ。
魔石の回収って、地味に面倒だからね。
あと、最悪見られてもいいようにディメンジョンボックスの見た目をマジッグバック風にしてみた。
「……もしかして便利な方向に強くなったのでしょうか」
一匹目のヘルコンドルを倒したが、まだ2体のヘルコンドルが上空を旋回していた。
こちらの様子を伺っているようだ。
「ちょっと倒してきますね」
「はい。ん? 倒しますね、ではなくて?」
僕はメタルブレードを持って、上空までスーっと浮遊していき、ヘルコンドル2体を斬り裂く。
下を見てみると、森の広がりが見えていて、連続するS字の道がうっすらと見える。
いいこと思いついた。
ゆっくりと降りてきた僕に、ミストラルさんが聞いてくる。
「あの、私の目がおかしくなければクラウスさんが浮遊していたように見えたんですが……ヘルコンドルのレアドロップの『ヘルコンドルの羽根』を使えば誰でも短時間浮遊できますけれど……」
「【風魔法マスター】と【地魔法マスター】を持っていれば浮遊魔法を使えますよ。移動にすごい便利ですね。あと、ヘルコンドルの羽根ってこれですかね?」
ディメンジョンボックスからヘルコンドルの羽根1枚を取り出すが、ミストラルさんは固まっていた。
「……すみません、もうクラウスさんについて驚くことはないと思っていたのですが、砂糖菓子よりも甘かったようです。それは間違いなくヘルコンドルの羽根ですね。滅多にドロップしないのでコレクター貴族が高値で買っていく代物です」
「ということは、上空にいる間に直接攻撃で倒すのがレアドロップ率上昇の条件なんでしょうか?」
「そうとしか考えられません。この情報をギルドに売れば相当な高値が付きそうですが、信じてもらいにくそうですね。何せクラウスさん以外にできる人がいそうにありません」
「それともう一つ試したいことがあるんですがいいですか?」
「もう驚きませんよ。見せて下さい」
「じゃあ。『ファイアボール』」
僕は【初級火魔法】で一番基本のファイアボールを放つ。
放たれた火の玉は、火柱を巻き起こしながら進路上の左右3メートルほどの木々と魔物を焼き払い、威力を落とすことなく突き進む。
しばらくして遠くで爆発音がし、少し遅れて地響きがした。
「見通しがよくなりましたね。真っ直ぐ進みましょう」
「……【上級火魔法】の『バーニングフレア』を無詠唱で?」
「今のはバーニングフレアじゃなくてファイアボールです」
「魔石とドロップ品が次々とクラウスさんの手元に吸い込まれていきますねー。便利ですねー」
ミストラルさんの目にハイライトがない。
だから驚かないでね、って言ったのに。
一応【ステルスサーチ】でこの階に人がいないことは確認済みだ。
「クラウスさん、人間なんですか? 魔王か何かでは?」
目にハイライトが戻ってきたミストラルさんが聞いてくる。
「僕のスキルだと 種族:人間 ってなってます。さあ、行きましょう」
こんな感じで森を焼き払いつつ、40階ほど進んだ。
ちなみに宝箱は燃え尽きず、しっかり残っていた。
そうでなければプレイスメントが手に入らないもんね。
◇◇◇
「ミストラルさん、いったん帰りましょうか」
「プレイスメントをここで使いますか?」
「また転移してきますので気にしなくていいですよ。僕が『ゲート』を開くので着いてきてください」
僕はゲートを開き、中に入っていく。
ミストラルさんは少しためらっていたが、ゲートに飛び込んできた。
移動先は、僕たちが借りている宿舎の前だ。
「これで夜はお布団で寝られますよ。野営はしんどいですもんね。疲れが残るし。明日はゲートで40階からまた進みましょう」
「あの、クラウスさん。なぜかクラウスさんが単独行動をするたびに滅茶苦茶強くなって帰ってきますよね。今度は一体なにがあったんですか? あ、やっぱり答えないで下さい。巷によくある物語だと、知った人間は死んでしまうパターンですね。私は何も知りません。では、明日も普段通りよろしくお願いしますね」




