第二章 淡い芽生え 3
すぐさま救護室に運ばれたルキウスは、あれから一度も目を覚ましていない。リシュナはずっとそばにいて、医師の診察が終わるのを待っていた。ヘリオスもそのそばにいて、ルキウスの顔を見つめながらしげしげと呟いた。
「明るい場所で見たら改めて驚いたよ。これほどまで若い星術師だったなんて」
自分より年若い星術師を前に面食らっていたヘリオスだが、それ以上にリシュナが彼のそばを一時も離れようとしない様子を複雑そうな表情で見つめていた。
「わたし、ルキウスがいたからここまで来れたの。彼が、し、死んじゃったらどうしよう」
ルキウスが横たわる寝台の横で彼の手をぎゅっと握りしめたリシュナは今にも泣きそうだった。それを見ていた医師は励ますように、リシュナの肩に手を置いた。
「大丈夫ですよ。魔術師にはたまにある現象です。命を落とすことはまずありません。ところで彼の星魔石はどこにありますか? 身につけていないようですが……」
「王様が持っていると思います。ルキウスは自分の身の証をたてるために、星魔石を早馬で王都に送っていたから。今度の式典で返してくれるって、そう……」
「ああ、それで。星の影響を強く受ける時、星魔石が身を守ってくれるのです。それを持っていないとなると、ここまでひどいのもうなずける」
「そんな……」
ルキウスがそのことを知らなかったはずはない。だとすれば彼はわかっていて王の申し出を了承したのだ。そしてそんな酷い状況にもかかわらず、自分のわがままを聞かせて無茶をさせてしまった。
「ルキウスはずっと具合が悪そうだった。それなのに、わたしが無理を言ったから……ごめんね、ルキウス」
「いや、本人も大丈夫だと思っていたのでしょう。本当にここまで強い影響を受ける人は私も初めて見ましたから」
医師の励ましにもリシュナの心は晴れなかった。そして彼がいつも自分に何も言ってくれないことを寂しく思った。
「白魔術師を呼んできます。そうすれば少しは楽になるでしょう」
医師が退室し、室内にはルキウスと彼を見守るリシュナとヘリオスだけになった。
「こんな夜更けに、あんな場所で二人きりで何してたんだ?」
ヘリオスの声が少し不機嫌そうなことに気付いたリシュナは驚いて振り返った。
「ルキウスが天体の観測をするっていうから、見せてもらうはずだったの。でも、ルキウスは初めから言っていたのよ。新月になると体調が悪くなるって。それなのに、平気だからって……でも、わたしが止めれば良かった。あんなに苦しむなんて……」
壁にもたれていたヘリオスは、寝台のそばの椅子に腰掛けていたリシュナに近づくと、幾分柔らかくなった声で囁いた。
「君を助けてくれた優秀な星術師なんだ。そんなことになるなんて誰も思わないさ」
「ヘリオス……」
気遣ってくれたことが嬉しくて、リシュナはようやく少しだけ微笑むことが出来た。
「でも、俺がダーナまでリシュナを迎えに行けたら良かったのに。そうすればリシュナを怖い目に遭わせることも、彼に頼る必要もなかったのに」
「え……」
ふてくされたようにそう呟くヘリオスの視線は、リシュナがずっと握りしめたままでいるルキウスの手に注がれていた。
(……やきもち?)
そう思い至ったところで、急に気恥ずかしくなった。ヘリオスはともかく、リシュナにとってルキウスはそういう対象ではなかったからだ。
「う、うん。でもね、ルキウスは星のお告げとかでプリマヴェーラを護る運命とかなんとか……」
「プリマヴェーラを守護するのは、太陽の騎士ただ一人でいいはずだ。それは俺の役目だと思っていたけど……違うのか?」
常若の騎士団の中からプリマヴェーラが自ら選ぶ、自分を守護する騎士──それが太陽の騎士だ。花に力を与える存在であり、世に光をもたらすことからそう名付けられている。
「旅の間は彼に頼ってきたのかもしれないけど、これからは俺もいる。最近知り合った彼より、昔からの馴染みの俺を頼って欲しいと思うのは、俺のわがままなのか?」
視線を同じ高さに合わせ、やけに真剣な瞳で見つめられたものだから、リシュナは一瞬呼吸するのも忘れた。彼にそんな風に言ってもらえるのは自分ではないはずなのに、それなのに嬉しくて、自分だと錯覚してしまいそうで、ぐちゃぐちゃになった心が助けを求めていた。
「わ、わたし……あの場所にルキウスの道具を忘れてきたままだったの。取りに行かなきゃ……」
都合が悪くなると、すぐに逃げ道を探してしまう。彼に正面から向き合うことが出来ずにいた。
「……困らせたのなら、ごめん」
哀れなほど動揺したリシュナのせいか、ヘリオスはそれ以上の追及を諦め、薄茶色の髪を優しく撫でた。リシュナはびくりと身体を震わせると、今度は固まった。
「うん、よくわかった。俺も思い上がってはいけないってことだな」
彼は納得したように頷くと立ち上がった。
「ルキウスだっけ? 彼の道具は俺が回収しておくよ。こんな夜遅くに君を行かせるわけにはいかないし。彼のそばにいてあげたいんだろう?」
躊躇いながらも確かに頷くリシュナを見て、ヘリオスは一瞬寂しそうな顔をしたが、それでも明るく手を挙げた。
「おやすみ、リシュナ」
「お、おやすみなさい……ごめんね……」
「そこはありがとうと言って欲しかったんだけど」
ヘリオスは苦笑する。そしてリシュナは自分が一度も彼への感謝を口にしていないことに今更気付いたのだった。
「あの、ありがとう、ヘリオス」
扉の向こうに消えゆく背中にそう声をかけると、彼も振り返った。
「リシュナ、俺は信じてるから。運命とか……いろいろと」
その言葉を最後に扉は閉じられた。まるで二人を分かつように。
リシュナにはわかっていた。彼に対して謝罪しか出てこないのは、負い目があるからだ。
「……あなたに信じてもらえるようなものを、わたしは何一つ持っていないのよ……」
首からさげたペンダントが今日はやけに重く感じられ、ため息がこぼれる。
「う……」
寝台からルキウスの苦しそうな声が聞こえ、彼に向き直ったリシュナは額に浮かぶ汗を布で拭くと、乱れた前髪をなおした。白魔術師が治療してくれるまで、もう少しだけなんとか彼を支えたかった。
苦しさのあまりか、ルキウスは何かを掴もうと腕を伸ばした。ちょうどそこにあったリシュナの手首を掴むと、彼はうわごとのように何かを呟いた。
「……俺の、アフェタ……」
リシュナはそれが自分に向けられた言葉のような気がして思わずじっとルキウスを見つめた。でも、意味がわからない。
「人の名前かしら……でも、俺のなんて言う? というか俺って言った?」
なんとなく意外で、じっとルキウスを見つめる。けれど、彼は何も言ってくれないのだ。リシュナは自分がルキウスのことを何も知らないことと、いかに彼に頼り切っていたかということを今になって思い知った心地だった。
「目が覚めたら、もう少し教えてよ、あなたのこと……」
リシュナは祈るような気持ちで、掴まれていない方の手をルキウスの手に重ねた。
心も重なるように願いながら。
「ふう……」
新月の夜から一晩明けた今日、所用で王都を離れていた常若の騎士が戻り、全員勢揃いしたということで、急遽今晩にプリマヴェーラを歓迎する祝宴が催されることになった。
朝からドレスの衣装合わせをするからと、リシュナはお針子たちに囲まれ、身動きできずにいた。
「ルキウスはちゃんと目覚めたのかしら」
意識が戻るまではと昨晩遅くまで救護室にいたが、自分たちがきちんと看るから大丈夫だという医師の説得で、リシュナはしぶしぶ自室へと戻ったのだった。
お針子たちは、ドレスの裾のフリルをつけるやつけないで揉めていて、どちらがいいか相談にでも行ったのか部屋を出ていった。一人残されたリシュナは、衣装部屋の一室でついたてに囲まれ、まだ完成していないドレスを来たまま身動きひとつとれずにため息をついて時間をつぶすより他にすることがなかった。
いい加減待ちくたびれたので、こっそり抜け出してルキウスの様子を見てこようかとリシュナが真剣に考え出したとき、誰かが衣装部屋に入ってきた。
「ああ、頼んでた上着きちんと仕上がってる」
「また新しいの仕立てたのか。何着目だよ」
ついたての向こうから二人分の若い男の話し声がした。ついたてに阻まれて見えないのか、リシュナの存在には気づいていないようだった。
「父親がうるさいんだよ。プリマヴェーラに会う時は新しくしとけって言われてたんだ。まあ今日の祝宴に間に合って良かった」
プリマヴェーラと聞いて、リシュナの心臓はどきりと跳ねた。自分がここにいるなどと知らない彼らは、おそらく本人を前にしては絶対に言えないような話をし始めた。
「お前、本気で狙ってるのか?」
「そう言うお前は違うのか?」
「太陽の騎士、ねえ……確かにプリマヴェーラが誕生したときだけ、しかもたった一人にのみ授けられる称号なんてこの上ない名誉だとは思うが、五年とはいえ、王都を離れて暮らさなきゃいけないなんて俺には耐えられないな。お前だってプリマヴェーラを見ただろ? 言われなきゃプリマヴェーラだってわからないような普通の女の子だったじゃないか。まあ、ダーナっていえばど田舎だからな。そんな田舎娘に五年もの長い間付き従うなんて俺はごめんだな」
「確かにお前の言いたいことはわかる。没落寸前のお家事情があるのなら、名誉のために飛びつきもするだろうが、栄えある名誉はあっても中身だけ見るなら田舎に左遷されるようなものとも取れる。俺だって父親に言われなければ……でも、どうせ今回はあいつで決まりなんだろ? なんでもプリマヴェーラと旧知の仲らしいから。どうして田舎娘と接点があるのかは知らないが、あいつが王都を離れてくれれば、次の馬上槍試合で結果が残せそうだし。まあ悪くはないかな」
「そういやプリマヴェーラが左翼塔に会いに来てたんだったな。もう相手が決まってるなら、祝宴を開く必要って本当にあるのか」
「気が変わるってこともあるかもしれないぞ。とりあえずエルナトはそんなことお構いなしに今夜に全てを懸けてたからな」
「まあ、あいつは名誉を金で買ってでも欲しい状況だろうからな……」
おそらく常若の騎士であろう若者二人の声が遠ざかっていく。
リシュナはドレスの裾を固く握りしめたまま動けなかった。
「……綺麗なドレスで着飾ったって、自分が可愛くもない田舎娘だってことぐらいわかってるわよ」
リシュナにもそれぐらいの自覚はある。王都に来て、何もかもがダーナと違うことも本当に衝撃的だった。でもダーナを馬鹿にされるのだけは腹立たしい。生まれた場所ではないにしろ、自分を育ててくれた大切な村なのだ。誰にだって故郷はあって、それは心のよりどころであるはずなのに。
しかしリシュナにとって、田舎だと誹られたこと以上に衝撃を与えたものがあった。
常若の騎士団にとって、プリマヴェーラは無条件で愛され、ほめそやされる存在だと思っていた。それなのに、今の会話を聞くに、騎士となる候補の青年に厄介者のように思われているではないか。セファリアではここ三十年間プリマヴェーラが誕生しなかった。年若い者の間では、それらはもはやおとぎ話で、時代遅れだというのだろうか。
プリマヴェーラは自分の騎士を選んだ後、まず本当にその力を活かすことが出来るのか、数ヶ月ほどどこかの村や町に送られる。そうしてその力が認められればようやく正式にプリマヴェーラと認められる。そして騎士の方は、太陽の騎士として叙任を受けた日から五年間はプリマヴェーラに付き従わなければならないことになっている。
五年という長い年月。プリマヴェーラは確かにそれを自分の騎士から奪うのだ。その重みを改めて思うとリシュナは不安になった。本当にヘリオスを選んで良いのだろうか。
本物でない自分が彼を選ぶなど勝手な思い上がりなのではないか。しかし、自分が本物でないと悟られてもいけない。だったら、本物のリシュナとして一番相応しい行動を取らなくてはいけない。そうなればどうなったって彼を選ぶより他はない。
「でも……」
身も心もリシュナになると決めたのに、その選択が親友を裏切るような気がして、ヘリオスの顔を思い出す度にリシュナの胸は痛んだ。
決心がつかないまま、宴の夜は容赦なく始まっていくのだった。
夕刻に案内された部屋で、晩餐と称して国王と三十名の常若の騎士と一緒の席に着いたリシュナだったが、食事の味は全くわからなかった。国王や騎士たちの質問に答えたり、話に耳を傾けたりしている内に時間は流れていったが、緊張のあまり一度も心から笑えなかった。
晩餐の後は広間で祝宴の続きが行われることになっていた。先程の晩餐での会話を参考に、もっと話をしたい騎士を五名ほど選ぶようにと言われ、リシュナは戸惑った。
「あの、別にわたしからどなたということはないので……」
「では、こちらで決めさせていただきますね」
侍女は頷くと立ち去っていった。それを確認したところで、リシュナは一つ息を吐き出した。
確かに全く知らない人々の中から自分の騎士を決定するというのなら、気になる候補をあげて、もっと話をして選ぶのは合理的だと思う。けれどリシュナはろくに騎士の名前も覚えていないし、かといってこの段階でヘリオスだけ指名するのもどうかと思う。
けれど最終的には誰かを選ばないといけない。そのことが重く心にのしかかった。
「プリマヴェーラ、こちらへ」
先程の侍女の案内で広間へと向かうと、常若の騎士団の者だけでなく、王侯貴族なのだろう人々と、常若以外の騎士たちもそこにいた。給仕たちが飲み物や軽食を配り、人々は着飾った風体で、それぞれに話をしていた。
「プリマヴェーラ歓迎の祝宴の為に集まった人々です。けれど、プリマヴェーラは自分の騎士を選ぶことが一番重要ですから。常若の騎士と話している間は他の人々はあなたに話しかけてはいけないことになっていますので覚えておいてください」
本当に歓迎されているのかよくわからないが、そちらの方が気が楽だった。リシュナが広間に姿を現すと、集まった人々から遠慮がちに視線だけが投げかけられる。けれど侍女の言うとおり、話しかけることはおろか近づいてくる者もいない。
リシュナが居心地の悪さを感じながら視線を彷徨わせている時だった。
「プリマヴェーラ、まずは私があなたのお話し相手を務めさせていただいてもよろしいでしょうか?」
背後から唐突にそう声をかけられ、リシュナは驚いて振り返る。見ると、目の前に跪き、許可を得るように手を差し伸べている常若の騎士がいた。
「え、ええ……」
「ああ、良かった」
歳は二十代半ばぐらい。金色のさらさらした髪は首筋を覆う程度の長さで、長い睫に縁取られた瞳は菫色をしていた。通った鼻筋と柔和な笑みを絶やさない口元は、上品さと女性を虜にしそうな甘さが湛えられている。平生であれば、忘れることなどないくらいの美貌の持ち主なのだが、常若の騎士の皆が皆、容姿端麗すぎるので、誰が誰だか名前が覚えられなかったのも事実だった。
「そんなかしこまらないでください。ええと……」
未だ跪いたままでいる目の前の騎士を何と呼んで良いかわからず口ごもると、察した騎士は待ちかまえていたように自ら名乗った。
「エルナト・バークレーです。あなたの優しさに感謝致します」
立ち上がりざまに手を取られ、その甲に当然のように口づけられ絶句する。ヘリオスが特別なのではなく、常若の騎士は皆こうなのだろうか。
そんなリシュナの反応を見るなり、エルナトは口元に笑みを刻んだ。
「プリマヴェーラはとても奥ゆかしい方なのですね。……いえ、誉めているのですよ。王都の奔放な娘たちよりずっと素敵だ」
「そ、そうですか……」
推測は確信に変わった。騎士という者は皆こうに違いない。だったらきっとヘリオスの今までの言動も他意はないのだ。リシュナはそう思いこむことにした。
「プリマヴェーラ、あなたはお優しい方だ。だからどうか私の願いを聞いてくれませんか」
「なんですか?」
エルナトはリシュナの手を握りしめると、真摯な眼差しながら愁いを帯びた表情でひたりと見据えては懇願した。
「私はどうしても太陽の騎士にならなくてはならないのです。だからどうか、私をあなたを守護する騎士としてお選びください」
「ちょっと待ってください。今ここで結論は出せませんから……」
正直まだ決めかねているのだが、頼まれたからといってそう簡単に頷ける話ではない。
しかしエルナトはリシュナがそう言ったのは別の理由からだと思ったようだった。
「お優しいプリマヴェーラは私が傷つかないようにそう言ってくださるのですね……本当はもう心は決まっている。そうなのでしょう?」
「そういうわけではありませんけど……」
「本当ですか? あなたはヘリオスを選ぶとばかり思っていたのですが」
「……それは……」
口ごもったリシュナに、エルナトは実に優しい口調で語りかけた。
「もしまだ迷われているのなら、彼のためにもあなたにお教えしておきましょう。ヘリオスは太陽の騎士になるべきではありません。彼の父親がそれを許しませんから」
「……どういうことですか?」
突然に父親の存在が話に出てきたものだから、リシュナは思わず聞き返していた。
「ヘリオスは長男ですから、家業を継ぐべきなのです。五年もの間、王都を留守にするなど許されるわけはありません」
「そうなの……?」
「ええ。しかし私はどうしても太陽の騎士にならなくてはいけない。祖父の 遺言で、立派な騎士になるまでは実家に足を踏み入れてはいけないと……そして、プリマヴェーラ誕生の知らせを受け、今度は太陽の騎士にならなくてはいけないと、そう父に宣告されたのです。おかげで騎士になって三年、一度も実家に帰っておりません……」
「まあ、そうなんですか……」
帰るべき場所に帰れないという心境がやけに胸に迫り、急に目の前の騎士が気の毒になってリシュナは思わず真剣にその話に聞き入っていた。彼の言うとおり、ヘリオスにとって太陽の騎士になることが良くないことなら、エルナトを選んでもいいとさえ思った。
「あなたならわかってくださると思っていました。どうかお約束ください。私を太陽の騎士に選んでくださると」
「今ここでは約束できないわ。まだ話を聞かなくてはいけませんから……」
「プリマヴェーラ、私をお見捨てになるのですか……」
「そうじゃないけど……」
手を握りしめられているため、逃げるに逃げられずリシュナは途方に暮れた。彼は気の毒だと思うし、助けられるものなら助けてあげたい。でも最終的にどうするかを決めるのはルキウスに相談してからだとリシュナは思っていた。
「そろそろ代わってもらえないか、エルナト。リシュナはお前だけのためにここに来たわけじゃない」
唐突に背後から声がして、驚いたのかエルナトはリシュナの手を放した。その隙にリシュナは彼から離れることに成功した。
「ヘリオス……」
恨めしげにその名を口にしたエルナトを涼しい顔で見返すと、ヘリオスはリシュナの手を取ると、さっさと歩き出した。