第三章 蕾ほころぶとき 3
二階のルキウスの部屋を訪れると、彼は予想通り星辰図と難しそうな書物を広げてはリシュナの来訪にも気付かなかった。
「ルキウス、お昼まだでしょ?」
食事を机の上に置いて、肩に触れて呼びかけると彼はようやく現実の世界に戻ってきたようだった。
「リシュナ様……わざわざ来られなくても、私のことなど放っておいてくださって構いませんのに」
「そんなこと言わないでよ。わたしの居場所がなくなるじゃない」
リシュナは口を尖らせたが、ここに来たもう一つの目的も思い出した。
「そうだ、パイの作り方を書いた紙も探しにきたのよね。多分ルキウスの部屋にまとめて置いてたような……」
「あなたの字で書いたものですか?」
「そうよ」
「あまり不用意に持ち歩かない方がよろしいかと。騎士殿の目に触れないとも限りませんので」
ルキウスの表情がいつもより厳しくなったことに驚いて、リシュナは聞き返していた。
「どうして?」
「あなたとあなたの友人の字は似てはいますが、やはり違います。詳しく鑑定されれば別人だと見破られてしまうと思います」
「鑑定なんて、そこまでするわけ……」
「鑑定しないまでも字だけで繋がってきた間柄です。あなただって騎士殿の字をよくご存じでしょう? 彼も同じだということです」
とたんに背筋が冷えた。この村に来てからルキウスがリシュナの書いたものをこの部屋に全て留めていた理由がようやくわかった。
「そうね……ただでさえ、ちょっと変に思われてるかもしれないのに」
「気をつけてください。疑わなければそうそうばれることではありませんが、一度ばれてしまえば、取り返しがつきませんから」
「うん、わかったわ」
のどかな村で気を許していたリシュナだが、今一度表情とともに気を引き締めなおした。
「ところで」
ルキウスはそう切り出すと、じっとリシュナを見つめた。
「な、なに……?」
正面から見つめられると、不必要にどぎまぎとしてしまう。確実にマリオンの言葉のせいだ。
「髪飾りはお気に召しませんでしたか? そうなら、また作り直しますが……」
どことなく申し訳なさそうにそう言われ、リシュナはルキウスにもらった日を最後に、髪飾りをつけていない事実に気づかされた。
「ち、違うの! すごく気に入っているんだけど、その、マリオンが……」
からかわれるような気がしてつけるのを躊躇っていたのだ。でも、それは言い訳でしかない。
「あの少女がどうかしましたか? 同じものを身につけていないと友好関係に亀裂が入るというのなら、もう一つご用意しますが」
「そ、そういうんじゃないけど……でも、そんなことしなくていいわ」
リシュナはきっぱりと言った。せっかくルキウスがリシュナのために作ってくれた髪飾りなのに、それと同じものをマリオンが持つというのは何となくおもしろくない。
「ごめんなさい。わたし、ルキウスの気持ちも考えないで……本当に気に入っているの。だから、大切に身につけるわ。ありがとう」
そういえばヘリオスも指輪をはめていないリシュナを見て不安そうにしていた。全く共通点のなさそうな二人だというのに、こういうところは変わらないのだと思うとなんだかおかしい。ヘリオスの指輪は自分に贈られたものではないが、ルキウスはリシュナがプリマヴェーラでないと知ってなお贈ってくれたのだ。だから、これは身につけても構わない。いや、身につけるべきなのだ。
「僅かかもしれませんが、あなたを護るよう魔力を込めています。身につけていただけると……大変ありがたいです」
髪に飾ってはいなかったものの、ずっと大切に持ち歩いていた髪飾りを取り出して早速つけると、その様子を見ていたルキウスは小さな声でそう呟いた。
表情に変化はないが、ひょっとして照れているのかとリシュナはしげしげと見つめてしまった。
髪飾りをつけると、なんとなく力がわいてきたようなそんな気持ちになった。
食堂に戻ったリシュナはあれこれ考えたあげく、パイを上手に作りすぎても下手に作りすぎても不信感が募りそうなので、わざと手を抜いて作ってみた。しかしヘリオスにしてみればそれは想像以上の出来だったらしい。一体親友は、手紙にどんなことを書いたのだろう。
「ほら、リシュナはお菓子作りも料理作りも上手なのよ」
マリオンは得意気に焼き上がったパイを切り分けては皿に並べていた。
「驚いた……こんなに上手だったなんて。なんだ、じゃあやっぱり謙遜だったんだな」
ヘリオスが本気で驚いているので、リシュナは首を傾げてみせた。
「食べた人全員が謎の腹下しを起こしたとか言ってなかった?」
その言葉に、唐突にその悪夢が蘇った。あった、確かにあった。
「……あの時は古い牛乳を使ってたみたいだったの……」
苦しい言い訳にも、ヘリオスがそれ以上どうこういうことはなかった。
「失敗して成長していくものだからな」
くしゃりと頭を撫でられ、重苦しさがお腹の底にたまっていくようだった。彼は疑ってなどいない。これからも必死で彼を騙し続けなければいけない。
「そういえば、その髪飾りよく似合ってる」
「ルキウスさんに贈ってもらったのよね」
すかさず入れられたマリオンの補足に、リシュナもヘリオスも表情を硬くした。
「ふうん……」
「ずっと前からお願いしてたの。星術師は琥珀が作れるって……だから……」
「身につけたくなるくらい気に入るもので、良かったじゃないか」
どこか苛立ちが込められたその声にリシュナは言葉をなくす。指輪をはめないのは、気に入っていないからというわけではないのに。
「あいつは女の子に贈り物をする種類の人間じゃないと思ってたんだけどな。そうか……」
なにやら考え込むと、ヘリオスは頷いた。そして出来上がったパイにかじりついた。
「リシュナ、とっても美味しいよ。俺のために練習してくれたから余計に」
それからさっさと林檎と交換条件のパイを届けると言っては食堂をあとにした。
「……なんていうかさ」
マリオンはリシュナを非難がましい目で見ると、ため息とともに言葉を吐き出した。
「見込みがないんなら、はっきり言ってあげた方が彼の為でもあると思うわ」
その日の夜、リシュナはルキウスの部屋でいつものように紙に文字を書き付けながら何度目ともつかないため息をもらしていた。
「リシュナ様の料理の腕は確かなのですから、腹下しを引き起こす菓子を作ったという汚名を着せられたことをそんなに気に病まないでください」
ルキウスの励ましにリシュナは首を振って見せた。
「そのことは気にしてないんだけど……ねえ、プリマヴェーラと騎士の結婚ってよくあることなの?」
「リシュナ様の前に誕生したプリマヴェーラも自分の騎士と結婚したようですし、過去に何例もあるそうですから、そう珍しいことではないのではないですか」
「マリオンの言っていたことは本当だったのね……」
リシュナはそれが作り話などではないことを確信すると、ますますそわそわとし始めた。
「それがどうかしたのですか?」
「だ、だって、もしヘリオスもそのことを知っていたとしたら……わたしが彼を選んだことで誤解するかもしれないじゃない」
「誤解だというのなら勝手に誤解させておけばよろしいのです」
興味なさそうに流そうとするルキウスにリシュナは食い下がった。どうしても客観的意見が欲しいのだ。
「で、でも……。ねえ、ヘリオスは本当にわたしのことを、その……す、好きだと思う?」
言ってから恥ずかしくなったリシュナは両手で自分の頬を押さえた。赤くなっているのはそんなことをしても丸わかりだというのに。
「またそんなことで悩んでいるのですか」
「そ、そんなことって!」
リシュナにとっては大事なことなのだ。彼を好きになってはいけないと思うのに、彼を傷つけてもいけないと思う。もし本当に自分のことを想ってくれているのなら、マリオンの言うように、はっきりした方がいいのだろうかとも思う。
「彼は目の前にいるリシュナ様が本物でないということにも気付いていないのですよ。その気持ちが本物だと思いますか? だとすれば、それはあなたでなくてもいいのです。リシュナと名乗る人間なら誰でも」
「……そうね……」
辛辣ともとれるルキウスの言葉だが、確かにその通りなのだ。彼は目の前のリシュナが好きなのではなく、長年手紙を交わした少女だからこそ好意を寄せているに違いない。
「それにリシュナ様は、そんな彼を気の毒だと思っているだけです。それは恋心ではなく、同情に過ぎません」
リシュナはそれには答えずうつむいた。でも、そうだとするならば、なぜマリオンと親しげに話すヘリオスを見て、複雑な気持ちになったのだろう。マリオンとヘリオスがいい仲にでもなれば、この罪悪感からも解放されるはずだというのに。
何も答えないリシュナに、ルキウスはため息を漏らしながら近づいてきた。
「頭で理解できても、納得は出来ませんか。だから私を好きになってくださいと言ったじゃないですか。とりあえず、紙に百回、私が好きだと書いてください。あなたは形から入るのが一番です」
リシュナは勝手なことばかり言うルキウスに口を尖らせた。
「そんなこと言われても……だって、あなたに全然その気もないのに、無理よ。こういうのは雰囲気も大事なの。ぬいぐるみ相手に恋をしろって言ってるようなものじゃない。反応がなかったら、寂しいのよ」
ヘリオスと一緒にいる時に感じる種類のときめきをルキウス相手に感じた試しがない。おそらく同じような言葉を囁かれても、感情がこもっていなければ何とも思わないに違いない。
ルキウスはしばし考え込み、座っているリシュナと視線を合わせるようにかがみ込むと、真っ直ぐに見つめてきた。
「では、あなたは私に何をしてほしいのですか? あなたが望むようにしましょう」
「な、何って……」
どくん、と唐突に心臓が跳ねる。言ってみたものの、まさかそうくるとは思わず言葉に詰まった。
「恋人のように振る舞えばよろしいのですか」
そう言ってさらに近づいてきた真剣な瞳に射すくめられたように、動けなくなる。ゆっくりと伸ばされた指先が、頬に触れた。情熱など感じさせないただ理知的な瞳だというのに、見つめられ続けることに耐えきれず、目を閉じてしまった。
(え、この状況って──)
今更目を開けることが出来ずにリシュナが固まっていると、絶妙な間合いで扉が開いた。
「……何してるんだ」
恐ろしく不機嫌な声にリシュナは閉じていた目を急いで開ける。戸口に視線をやると、声以上に不機嫌そうなヘリオスがこちらを──主にルキウスを睨んでいた。
「甘いものを食べ過ぎたから顔に吹き出物ができたというので、診ていたのですよ。幸い今宵は月の力が強く、星魔術で抑えることが出来ました」
しれっとした顔と声でそれだけ呟くと、ルキウスはさっさとリシュナから離れた。
「彼女に用事があるようなら、私はこれで」
口を挟む隙を与えないまま、ルキウスは姿を消した。
「……あいつの言ったことは本当なのか?」
主のいない部屋に取り残された二人は、長い沈黙の後、ようやく言葉を交わした。
「う、うん」
うつむいたままのリシュナを見て、ヘリオスはばつが悪そうな顔をして言い訳のように呟いた。
「なら、いいんだ。俺、妙に勘が冴える時があってさ。なんとなく嫌な感じがしたから、ノックもせずに扉を開けたんだけど……」
本当は開けてくれて感謝したいぐらいだった。あのままだったらどうなっていたのだろう。いつもは感じたことのないものをルキウスにも感じてしまって、リシュナは自分が浅はかだったと思わずにはいられなかった。彼を異性と意識しなかったのは、明らかに自分に対して好意をもっていないと思っていたからだ。けれど、あの一瞬。ひょっとしたら、彼はほんの少しばかりなら自分に好意を持ってくれているのではないかと錯覚してしまいそうになったのだ。
自分自身が情けなくて、リシュナが落ち込んでいると、ヘリオスが心配そうに気遣ってくれた。
「リシュナがルキウスを信頼しているならいいんだ。でも、リシュナがいつも困ったような顔してるから気になって。本当は何か弱みでも握られてるんじゃないのか? だったら、俺に言ってくれよ。俺はいつだって君の味方なんだ。……それに、あいつに触られるのはとにかく気に入らない」
まさか弱みを握られていると思われているなどとは想像もしていなかった。リシュナは慌てて取り繕った。
「ルキウスは本当に信頼できる人よ。それに、さっきのも他意はないのよ。彼は、そういうこと、あんまり気にしないから……」
「俺は気にするんだけどな」
「……ごめんね」
何を謝っているのか自分でもわからなくなったので、リシュナは話題を変えてみた。
「そういえば、ルキウスに用事があったの?」
「ああ、そうそう。インクがなくなったから借りようと思って」
太陽の騎士の任務の一つとして、この村での生活の様子やプリマヴェーラが行ったことを国王まで報告する義務がある。その作成をしていたということだろう。
「マリオンに言えば良かったのに。二人は仲が良いんだから」
思ってもいなかったことまで口をついて出てしまったため、リシュナは自分でも驚いた。それはヘリオスも同じだったようだった。
「……それって、ひょっとしてやきもち?」
リシュナは顔を真っ赤にして全否定した。
「そ、そんなつもりで言ったんじゃないよ! でも、今日の二人はなんだかとっても親しげだったから……」
「なんだ、それは残念……」
そう言いながらも、どこか嬉しそうにヘリオスは笑っていた。
「本当に違うから!」
むきになるリシュナがそんなに面白かったのか、ヘリオスは勝手にインク壷を拝借すると空いている方の手でリシュナの髪をなでた。
「リシュナも頑張りすぎないようにな」
書き物の途中だったことを思い出し、リシュナは慌てて不自然でない程度に文字を隠した。よく見なければ筆跡などわからないはずだが、ルキウスの警告を思い出し、念のための措置だった。
去っていったヘリオスを確認して、リシュナは大きく息を吐き出した。
「……やきもちなんかじゃない……はずよ」
二人との間にいろいろあったものの、リシュナが思い悩んでいようと毎日は繰り返されていく。ただ、二人ともいつもと変わりないように見えるので、リシュナはずるいとさえ思うのだった。
午前中にヘリオスと一緒に村を回っている途中に、彼は今日はやけにリシュナの口からダーナの村の話を聞きたがった。リシュナも昨日の話やマリオンのことを話題にされるよりずっといいと、懐かしさも手伝ってダーナの村や村人たちの思い出話をしたのだった。
「それで、そろそろ聞いてもいい? リシュナが俺に会って伝えたかったこと」
リシュナはぎくりとして動きを止めた。祝宴の時にも言っていた、親友が彼に宛てた手紙にあった約束。おそらく親友は目の前の彼に気持ちを伝えたかったのではないかとリシュナは思うのだが、そうだとしてもそれを自分が言うわけにはいかない。かといって、何か手頃な嘘をつくのも気がひけた。
「……ごめんなさい、まだそれを言うには気持ちの整理がつかなくて……」
しどろもどろでリシュナがそう呟くと、ヘリオスは半ばそれを予想でもしていたかのように、あっさりと頷いた。
「いいんだ。急ぐことでないのなら。別に忘れちゃったわけじゃないんだろ?」
リシュナの肩がびくりと震えた。忘れているのではなく、知らないのだ。けれど、それがどの程度違うというのだろう。
「大事なことだもの。忘れるなんてことはないわ」
「そうだよな」
そう呟きながらも、ヘリオスはどこか寂しげに微笑んでいた。
マリオンに野いちごを摘んできて欲しいと頼まれていたリシュナは、マリオンに聞いてこの時期にもなっているという場所へと向かった。一見してわかりにくい藪の中にあることが多いというので、リシュナは茂みをかきわけて、小さな野いちご探しに夢中になっていた。
「これじゃないのか?」
別の茂みを探していたヘリオスがしばらくしてから声を上げた。急いで確認に行ったリシュナは目を輝かせて頷いた。
「ええ、そうよ。ようやく見つかったのね!」
生まれ育った境遇を考えると、おそらく野いちご探しなどしたことがなかったのだろうヘリオスは、興味深そうに野いちごと喜びに顔を輝かせるリシュナを交互に見ていた。
「そんなに喜んでもらえると見つけ甲斐があるな」
「もっとヘリオスも喜んだらいいのに……あっ」
藪を探っていたリシュナは、先の尖った枝で指先を傷つけてしまった。傷口から血が滲み出し、痛みに顔をしかめる。
「見せて」
ヘリオスがすぐさまリシュナの手を取って引き寄せた。
「これぐらい大丈夫よ。なんともないわ」
強がりでもなんでもなくそう言ったリシュナだが、ヘリオスは自分の荷物からいろいろと取り出し始めた。それは消毒液や包帯のようだった。
「わたしが怪我するって思って用意してたの?」
どれだけうっかり者だと思われているのだろうと恥ずかしく思いながらそう問いかけたリシュナだが、ヘリオスは苦笑して言葉を返した。
「こう見えても、俺も医者の卵なんだけど」
「あ、そっか……」
ついつい忘れそうになるが、ヘリオスはレアード家の跡取り息子なのだ。
手際よく消毒をして包帯を巻いてくれたヘリオスを見て、リシュナは小さく呟いていた。
「ヘリオスなら、テオのこと相談に乗ってくれたかもしれなかったのかな……」
「え?」
問い返され、リシュナは我に返って首を振った。
「ううん、なんでもないの。ありがとう」
ヘリオスが本物のリシュナに出自を明かさなかったように、彼女も彼には弟の病気を伝えていなかったはずだ。どちらかが伝えていれば、運命は変わったのだろうか。
「よし、じゃあ今日は俺がリシュナの分も働くから、リシュナはそこで休んでてくれる?」
野いちご探しに張り切る目の前のヘリオスを見て、リシュナは思いを振り切った。
過去を悔やんでも仕方ない。“もしも”はないのだ。彼女はもう二度と帰ってこないのだから。
ヘリオスが見つけた野いちごを受け取っては籠に入れていたリシュナだが、やはりじっとしていることに耐えきれず、結局は自分も野いちご摘みに参加していた。
「まあ、これだけあれば充分かな」
「充分すぎるくらいじゃないかしら」
籠いっぱいになった野いちごを嬉しそうに眺めながらリシュナは微笑んだ。自分が抱えているものの大きさや罪の意識を忘れさせるほど、楽しいひとときだった。
「あ、これがレアルの葉?」
宿へ引き返す途中に道ばたに咲いている植物を見ては、ヘリオスはリシュナにそう問いかけた。
「ええ、そうよ。この季節に咲く花なの。葉っぱは薬用としても重宝するの」
薄紫色の花弁が筒状に花冠を包んでいる控えめな印象を与える花だった。リシュナの作る特製のお茶にも茶葉として使われている。
「疲れに効くんだったっけ」
「そうよ。ヘリオスよく知ってるのね」
あまり一般的に知られていないレアルの葉の効能を言い当てたことに驚いたリシュナは尊敬の眼差しでヘリオスを見つめた。しかし、ヘリオスは虚をつかれたとでも言うようにリシュナを見つめ返した。
「……どうかした?」
「あ、いや、何でもないんだ……」
小首を傾げたリシュナに対し、ヘリオスははっとしたように我に返ると、小声で呟きながら目を逸らした。
「帰ったらマリオンと一緒に早速ジャムを作らなくちゃ」
「そうだな。早く戻ろう」
ヘリオスがそう言いながらリシュナの手を握ると早足で歩き出したので、リシュナは野いちごのように頬を赤くしながらも黙ってついて歩くことにした。




