セレスティアの願い
グレイ達が家へと少女を連れ帰るとレイスは不在だった。
居間は静けさが漂い人の気配が無い。
だが気にする必要もなく、居間にあるソファーに座らせ対峙する形でグレイも座る。
アイシャとレティは席を外して貰っていた。二人とも目がややジトッとしていたが説得すれば渋々引き下がってくれた。
「それでセレスティアだったな、レイスは今出かけている様だがすぐに戻るだろう。それまでくつろいでいてくれ」
「はい! ありがとうございます。こんなに親切にして頂いて」
そういって頭をさげ、無邪気な笑顔で表情を明るくする。
この少女――セレスティアはグレイ達より2つ程年上でマーマンやマーメイド一族の長の娘と言う話しであった。
だがグレイが話した印象では箱入りお嬢様と言った様子でどうも世間知らずと言うか人を疑うような事が無い様に見受けられる。そもそも見ず知らずの者の家に連れられるままに上がり、こうしてお礼まで述べるのだからグレイの感覚もあながち間違っては居ないのだろう。
良くここまで何事も無く来れたものだ。そうグレイが思うのも束の間、レイスが戻ってくる。
「おぉ、帰って来て追ったか。そろそろ食事の支度をするでの。そのお嬢さんは?」
執事服に身を包み食材を入れた籠を手に持ったレイスはどこからどう見ても英雄……なんて姿な訳は無くできる執事と居った格好だ。
面識が無ければこれが英雄だ、そう言われても納得しようが無い姿だがセレスティアは喜色を顔に表しレイスへと挨拶する。
「初めまして、私はマーリンの子セレスティアです。父からの遺言に従いロズウェル卿にお願いがあって参りました」
「ほぉ、マーリンの娘さんかの。それにしても遺言とは……あやつは逝ってしもうたのか」
そうレイスは応え、どこか遠い目をする。
「わしより長生きするマーマンの戦友が先に行ってしまうとはの……」
そうぽつりと嘆くと肩を落とした。
詳しい話しは食事を取った後にするとなり、4人にセレスティアを交えた5人で食事をした。
最初はグレイをじっとりとした目で見ていたレティとアイシャだったがセレスティアと話しをしている内にその目も無くなった。既に友人となってしまったようで食事中和んで話しをしている。
「それでわしに願いがあって来たと言うことじゃが……?」
食事が終わり一息ついた所でレイスが訪ねる。グレイを含む他の者は黙って聞いている。
「はい、ロズウェル卿のお力を貸していただきたいのです」
「その名は既に捨てたなじゃからの。わしの事はレイスと呼んでほしいの」
「分かりました。レイス様。それでですが……、我がマーマン、マーメイドの一族は今人間から攻撃を受けているのです」
「やはりか」
「小競り合い程度の事はずっと続いていたのですが、最近人間の軍が大勢で攻めてくるようになり、我が父マーリンも凶刃に倒れてしまいました」
グレイの表情に変化はないがレティの顔が沈み、アイシャは手を強く握りしめる。
二人共過去を思い出しているのだろう。
「無くなった父の無念を晴らす為にもどうかご助力頂けないでしょうか?」
そういってセレスティアは頭を下げる。
それを見たレイスは……
「ふむ、グレイ、お主はどうすれば良いと思う?」
「俺が決めるのか?」
「そうじゃ、お主が決めるべきなんじゃ」
「あの、グレイ様は……?」
セレスティアは困ったように首をかしげる、そうだろう。英雄を差し置いてグレイが口を挟む事ではない。
「セレスティア殿、グレイはうちで一番の戦力でしてな、そしてリーダーでもあるのです。ここに居る三人はグレイに助けられここに居るのです」
そう聞いたセレスティアは表情を明るいものへと変える。
「英雄を救うような方なのですね! 先ほどは失礼しましたグレイ様。どうか我が一族を助けて貰えないでしょうか?」
「しかし判断材料が少なすぎる、もっと話しを聞いてから決めたいが」
「駄目じゃ、今手元にあるものだけで決めるのじゃ」
レイスの意図が見えないグレイは訝しむ、だがレイスがそういうのならと身の内の天秤に任せるように告げる
「行く」
心の臓が強く叩き、そう告げろと急かした。
「良いのか?」
「助けを求めて差しのばされた手を払い除けるのは夢見が悪い、何ができるか分からないがな」
「そうか」
「ありがとうございます!」
セレスティアがグレイの手を取り感謝する。レイスは目を細め笑い。アイシャとレティは亜人を守る為と気合いを入れるのだった。




