喪失の楽園
グレイは真っ暗な闇の中を歩いている。
平衡感覚が全くなかったが。次第に地の感触を感じ歩く。
(気持ち悪いな。平行感覚がないだけでこうも気持ち悪くなるのか)
ライトニングを放ってみたり重力を操ってみたりしたが効果はなかった。何もしないよりは状況把握に努めた方がいいだろうと一先ず歩き出していた。
すると眼の前から明かりが見える。その明かりが広がりだしやがてグレイの元まで走る
広がった光がやがて周囲すべてを包みグレイはあまりのまぶしさに目を閉じた。
徐々に目を開けるとそこには村が広がっていた。
「ここは……」
――身覚えがある……
「……ト」
名を呼ばれた気がした。
「――――こんな所でどうしたの?家へ戻るわよ?」
「母上!」
――俺は今なんて言った?
「ほら――――行くわよ」
「はい!」
母と呼んだ人の手を掴む。
おかしい体が小さい。
いやこんなものだったか。
分からない…分からないが心が浮き立っている。
「今日は――――の好きなお肉の日よ。楽しみにしていなさい」
「やった!」
手をつないで家へと帰ると母は夕飯の支度を始める。俺――――僕は妹の相手だ。
「お兄ちゃん!」
妹の――――は僕を見ると笑顔で飛び着いてくる。そうだ、――――は4歳になる、僕は確か5歳。一つ下の妹が可愛くて仕方がない。
そのまま僕は夕飯まで妹の相手をする。妹に絵本を読んであげると妹は僕にひっつきながらふんふんと可愛らしく首を動かしながら聴いている。
「今帰ったぞ。お前達、今日も利口にしていたか?」
「父上!」
「パパ!」
父上を見た僕と妹は飛び着く。
僕たち二人を抱えても父上は余裕そうだ。
「ほらみんな、ご飯にするわよ」
「はい!」
「は~い!」
家族四人で食卓を囲む、この時間が一番好きだ。
「おい――――今日もちゃんとお勤めがんばって来たのか?」
「はい!村の為にも頑張ってます!」
「そうか、良い子だ。さすが父さんの子だな」
「私の子でもありますからね」
「母さん」
「ふふふ」
父上と母上は仲が良い。
家族で団らんする空気が暖かい。
父上がまじめな顔を作って僕に告げる。
「頑張っているようで父さんは嬉しいが、もう――――はお前一人だけなんだからな。恐らくお前が最後の一人になるかもしれない。今後はもう生まれないかもしれない。お前にとっては父さんも母さんも村のみんなも、村の外の人たちもみんなか弱い存在に見える事もあるかもしれない。だけど虐げたりせずにお前が守ってあげないと駄目だぞ」
「はい!」
「そうだ、父さんと母さんの子として誇りを持って生きろ」
「はい!」
父上はいつもこの話しをする。僕は最後の――――だから。間違えないように何度も教えてくれる。
食事が終わり僕と妹は寝る時間だ。僕が布団に入ると妹も布団の中に入ってくっついて眠る。
「お兄ちゃん」
「なんだい?」
「どこにも行かないよね?」
「どこにも行くわけがないよ。お勤めがあることも知ってるだろ?」
「うん!」
そう言って妹は僕にしがみつき、眠る。
妹の言葉を聞いた時なぜか胸が苦しくなった。
僕は今神殿にいる。ここで誓いの言葉を告げるのが僕のお勤めだ。
「――――は最後の――――として気高き魂と慈悲の心をもって――――」
誓いの言葉を終えると僕は神聖なナイフで指を切る。
指から滲んだ血が神殿の水場に一滴零れる。
これでお勤めが終わる。
後は遊びに行く時間だ。
広場に出て僕は遊ぶ、いつも妹がここで遊んでいるので妹の面倒を見る為でもある。
妹は友達と遊んでいる。僕は力が強いから周りの子達と一緒になっては遊べないけどみんなの遊んでる姿を見るのが好きだ。
広場には円柱の柱に石像が一つ。
僕たちを見守ってくれる先代の――――僕はこの人の後任だと思うと誇りに思う。
今日も平和だ。この日々が毎日続けば良いと思う。こんなに幸せなんだから。
でも昨日から僕は少し変だ。時々胸が苦しくなって不安になる。
「帰るわよ~」
母上が呼びに来た。今日のご飯は何だろう?
そうして幸せな日々が続いていく。
次の日も、次の日も次の日もまた次の日も………
幸せな毎日が続いていく。
でもまだ胸が苦しいのは相変わらず。何かの病気なのかな?
少しずつだけどなんだか体が重たくなってるような気がする。
広場の中心、石像の前に腰を下ろし僕と妹は話している。
楽しそうに笑う妹の雰囲気が変わり僕へと告げる。
「お兄ちゃん?」
「うん?」
「なんだか泣いちゃいそうな顔してるよ」
「そうなのかな?自分では分からなかったよ」
「あのね、お兄ちゃん」
「うん?」
「ここから出たい?」
「え?」
よく分からない。
「お兄ちゃんはね。凄いんだよ」
「――――だからね」
「ううん。違うの」
「お兄ちゃんの心がね。これは幸せじゃないって言ってるの」
「僕の心が?」
「うん、普通はね。心が痛くなんてならないの。ずっとずっと幸せでいっぱいなの」
胸が苦しい。楽しい日々を壊そうと僕の心は僕自身を貫く。
「お兄ちゃんが忘れてもね、幸せはここには無いって言ってるの」
「ここには……ない?」
「お兄ちゃんは悪いまほーで夢を見てるの」
「どうしてだい?」
「敵さんのじゅっちゅ~にはまってるの」
「そうなのかい?敵さんの魔法なのにそれを言っちゃうの?」
「うん、このまほーはね、お兄ちゃんの一番の幸せを再現してるんだよ」
「うん」
「でもね、お兄ちゃんの心がね一番の幸せは後ろにはないんだって。前にしかないんだって言ってるの。だからまほーがじょ~ずにきのうしないんだよ」
「そうなんだ」
「だからね。お兄ちゃんはここを出るのが一番の幸せなの」
「だから出られるのかい?」
「うん」
「だからね、お兄ちゃん。私はもういないけど、パパもママももう居ないけど」
「うん」
「お兄ちゃんに幸せになって欲しいの」
「ありがとう……」
気がつけば俺の体は元の14~15歳位の体へと戻っている。
「なぁ」
「何?お兄ちゃん」
「守れなくてごめん」
「うん」
「名前も忘れてしまってごめん」
「うん」
「俺は行くよ」
「うん」
「いつか思い出す。本当の村を探し出す」
「うん」
「お兄ちゃん?」
「うん?」
奴隷となって以来初めてであろう満面の笑みを妹へ向ける。
「もう行っちゃう?」
「ああ、やらなくちゃ行けない事がある」
そう言って立ち上がると妹へ背を向けて歩き出す。
「お兄ちゃん」
その声に振り返ると妹が笑顔を向けてきた。
「いってらっしゃい」
周囲が光りに包み込まれ。
村が光へと消える。
すべてを光りが包見込み………
最後に残った妹が光の彼方へと消え去った。
何かが割れる音を聴いた。
「グレイ!」
レティシアは叫んだ。
グレイが消えた足下、消えても尚残っていた影からガラスが割れるような音が響き、突如グレイが現れたからだ。
グレイはそこに佇んでいる。
胸にあるは寂寥。
グレイは天を仰ぎ見る。
既にここは戦場だ。
上を向くのは心を零さない為か。
手をそっと頬へとやると――
その手には一粒の雫がついていた。
何人かの方にお気に入りにして貰え、評価もいただけました。
なんだか応援されてる気がして嬉しいものですね。
拙い文章ですがお付き合いいただけて幸いです。
もう少しで1章(2章とも?)も終わりです。
よろしくお願いします。




