最終話 きらめく星の恋人達へ
「早くしないと見逃しちゃうよ!」
「ほら、急いで広場へ向かうんだ!」
王都の街中では、人々が嬉しそうに声を掛け合いながら、慌ただしくどこかへ急いでいた。
老若男女問わず、誰もが晴れやかな笑顔を浮かべて向かう先は――アストリア聖王国の象徴である王城の大広場だ。
今日は、アストリア聖王国の第一王子ユリアン殿下と、その婚約者となった新たな姫君との結婚式が行われる、国を挙げた祝宴の日だった。
◇
王城内の一室。
眩いばかりの純白の正装に身を包み、ユリアン様が身支度を整えていた。その立ち姿は神々しいほどに気品に満ち溢れている。
その傍らには、レオン様、カイル様、ノア君、そしてフェリクス様が付き添っていた。
「へっ……やっぱり王子の気品ってのは段違いだな」
レオン様が感嘆の息を吐きながら言った。
「レオン。君は今日、ユリアン殿下の護衛騎士だろう?気を抜かないでくれよ」
カイル様が少し呆れたように苦笑する。
「心配しなくても、こんな目立つ場所で王子に手を出そうとするバカな奴なんていねぇぜ。なぁ、フェリクス」
ノア君がニシシと笑う。
「そうですね。ゼノヴィア王国からも、公式に祝福の言葉を贈らせていただいておりますから」
フェリクス様が優雅に微笑んだ。
「みんな、ありがとう。……君たちがいてくれたからこそ、俺は今日のこの日を迎えることができたんだ」
ユリアン様が深い感謝を込めて微笑むと、レオン様がニッと口角を上げた。
「さーて、あとはお姫様のお披露目だな!」
レオン様のその言葉と同時に、重厚な部屋の扉が静かに開いた。
そこに立っていたのは――ユリアン様と同じ、幾重もの刺繍が施された美しい純白のドレスに身を包んだ私。
「アリス。とても綺麗だ」
ユリアン様が優しく目を細める。
「ユリアン様……」
生まれて初めて着る豪華で仕立てのいいドレスに、足元が追いつかず歩きづらそうにしながらも、私はゆっくりとユリアン様の方へ歩み寄った。
ユリアン様がそっと優しく手を差し伸べる。
私がその手を掴もうとした――まさにその瞬間。
「っ……あ!」
ドレスの長い裾を踏みつけてしまい、派手に前へ倒れそうになった。
「きゃっ!?」
勢いよくよろけた私だったが、地面に叩きつけられる前に、強く温かい腕がしっかりと私を抱きとめてくれた。
「おっと!……大丈夫かい?」
至近距離でユリアン様が顔を覗き込み、心配そうに声をかけてくれる。
「す、すみません……!ドレスに、まだ慣れなくて……っ」
顔が一瞬で真っ赤になり、俯いてしまう。
「おいおい……平民、じゃなくてお姫様。しっかりしろよな?」
ノア君が呆れたように肩をすくめた。
「どうだ、アリス。俺がおぶっていこうか?」
「お二人の門出を邪魔するつもりですか?野蛮ですね」
からかうレオン様に、フェリクス様が冷ややかにツッコミを入れる。
「さあ、ユリアン殿下、アリス。国中から君たちを一目見ようと、大勢の人々が集まっているよ」
カイル様が促すように、外のバルコニーへと続く大きな扉を開け放った。
◇
城の広大なバルコニーへと足を踏み出した瞬間――。
地鳴りのような、凄まじい歓声が大空へと突き抜けた。
「すごい人の数……!」
広場を埋め尽くす大観衆を目にして、私はあまりの光景に息を呑んだ。
「みんなが俺たちを祝福してくれているんだ。……さあ、手を振って応えよう」
ユリアン様が優しく囁き、大観衆に向けて大きく手を振った。
「「「ユリアン殿下――っ!!」」」
「「「きゃあぁぁぁっ!!」」」
地響きのような大歓声が巻き起こる。特に女性たちの黄色い歓声が凄まじい。
ユリアン様と平民の私が結婚するなんて……もしかしたら、女性たちの怒りを買ってしまっているんじゃないかしら。
華やかな熱気の中で、急に不安が押し寄せてくる。
そんな私の内心を察したように、ユリアン様がそっと私の手を取った。
「大丈夫だよ、アリス。君も手を振って」
「は、はい……!」
私は緊張でガチガチになりながらも、たどたどしく観衆に向かって手を振りかざした。
すると次の瞬間――。
先ほどまでを遥かに上回る、耳を突くほどの割れんばかりの大歓声と拍手が広場全体に響き渡った。
「「「アリス様――っ!!」」」
「「「お幸せに――っ!!」」」
「なっ……言っただろう?」
驚く私を見て、ユリアン様がくすっと嬉しそうに微笑んだ。
「はい……!ユリアン様……!」
溢れ出そうになる嬉し涙を堪え、私はユリアン様と正面から向き合った。
「ユリアン様。……私、今とっても幸せです」
「俺もだ、アリス。そして……これからもずっと、君を幸せにしてみせる」
ユリアン様が私の腰を抱き寄せ、静かに顔を近づける。
二人の唇が重なった瞬間、この日最高潮の歓声と祝福の拍手が、アストリア聖王国の青空へどこまでも高く響き渡ったのだった。




