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オカルとニート  作者: ダイノスケ
第一章 こっくりさん編
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こっくりさん⑦

俺が、まだ「僕」だった頃の話だ。


お父さんは転勤族だった。せっかく家を建てたのに、親父は単身赴任になって、家にいることはほとんどなかった。だから、その分お母さんと姉ちゃんが近くにいてくれたけど、俺は昔から、とても寂しがり屋だったらしい。


美央と出会ったのは、三歳の頃だったってお母さんが言っていた。俺はほとんど覚えてない。でも、昔のアルバムを見ると、美央と並んで写っている写真が何枚もある。


美央は俺に絵本を読んでくれた。俺が適当に描いた怪獣の絵を「上手だね」って褒めてくれたり、自分で描いた絵を見せてくれたりもした。


そのうち、美央はピアノまで弾けるようになった。俺が「この曲弾いて」と頼むと、練習して弾いてくれた。俺には難しくて何がすごいのかよく分からなかったけど、美央がピアノを弾いている姿を見るのは好きだった。


俺は、人の輪の中に入るのが怖かった。


お父さんは、仕事のためにすぐいなくなってしまう。大好きな人でも、いつかどこかへ行ってしまうんじゃないか。そんなことを子どもなりに考えていたんだと思う。


だから、お母さんや姉ちゃんにしがみついていた。


美央は、そんな俺にとって初めての「家族じゃないのに、離れていかない人」だった。


ずっと一緒にいてくれたし、美央は俺にたくさん友達を紹介してくれた。


「輝くん、一緒に遊ぼ!」


「……うん」


最初は、美央の後ろからついていくだけだった。


でも、鬼ごっこをして、ボール遊びをして、一緒に校庭を走り回っているうちに、外で遊ぶのがどんどん楽しくなっていった。


そこで初めて気づいた。


俺、運動が得意なんだ。


逆に、美央は意外とそんなに運動が得意じゃなかった。鬼ごっこをしても、すぐ俺に追いつかれるし、ボールを投げても俺のほうが遠くまで飛ばせた。


「輝、速い!」


美央が笑いながら言う。


その言葉が嬉しかった。


気づけば俺は、校庭の真ん中で友達とはしゃいでいた。転んでも泣かなくなったし、泥だらけになって帰っても平気だった。


そんな俺を、美央は少し離れたところから優しく眺めていることが増えた気がする。


家が近かったから、家族同士も仲が良かった。


バーベキューをしたり、川で遊んだり、遊園地に行ったり。美央と一緒にいる時間は、本当に多かった。


ただ、一つだけ不満があった。


姉ちゃんが、美央をよく独り占めするんだ。


「美央ちゃん、こっち来て!髪結んであげる!」


「うん!私三つ編みがいいな!」


姉ちゃんと美央が楽しそうに話している。

俺は少し離れたところから、その二人を見ていた。

美央と遊びたい。

でも、姉ちゃんには逆らえない。

怒るとすげー怖いから。


小学校三年生になると、俺と美央は別々のクラスになった。


それまで毎日のように一緒に帰っていたのに、ある日、クラスの男子が俺たちを見て笑った。


「あー、輝が女子と一緒に帰ってるー!」


「お前ら付き合ってんの?」


「違うし!」


顔が熱くなった。


ほんとは美央と一緒に帰りたかった。でも、みんなにからかわれるのが恥ずかしくなった。

それに、男友達と遊ぶのも楽しかった。


放課後、校庭で思いっきり走り回る。サッカーをしたり、鬼ごっこをしたり、ボールを追いかけたり。

美央と一緒に遊ぶ時より、激しい遊びができる。


美央と運動すると、俺が勝つことが多くなっていた。それが、なんとなく嬉しくなかった。


たぶん、俺は「美央よりできること」が増えていくのが嫌だったんだと思う。

それに、昔は友達を作るのが怖かった俺が、いつの間にかたくさんの友達に囲まれていた。

もう美央に守ってもらわなくても大丈夫。


むしろ、


「俺が美央のお兄ちゃんなんだぞ」


って、見せつけたかった。

だから、その頃から自分のことを「僕」じゃなくて「俺」って呼ぶようになった。


そんなある日、姉ちゃんがニヤニヤしながら聞いてきた。


「最近、美央ちゃんと遊んでないじゃん。何かあった?」


「別に」


「もしかして、振られたとか?」


「そんなんじゃねえし!」


姉ちゃんは楽しそうに笑った。


「あーあ。まあ美央ちゃん可愛いもんなー。このままだと、他のかっこいい男子に取られちゃうかもなー」


「……」


その言葉が、妙に胸に刺さった。

別に、美央とはただの幼馴染だ。

ずっと友達だ。

そう思っているはずなのに。


それから、美央と廊下ですれ違っても、上手く挨拶できなくなった。


「……お、おはよう」


「……うん。おはよう」


それだけ。なんで声をかけるのに緊張するんだろう。

昔なら、もっと普通に話せたのに。


だから、美央の親に誘われて、姉ちゃんと一緒に久しぶりに美央のピアノの演奏会を観に行った。


久しぶりに聴いた美央のピアノは、とても綺麗だった。


昔、俺が「弾いて」とお願いしていた頃とは比べものにならない。指の動きも音も、全部がすごくて、俺には何がどうすごいのか説明できない。


でも、上手いことだけは分かった。

「美央、すげえな……」

そう呟きながら、ステージを見つめていた。


ところが。

演奏の途中で、美央の指が止まった。

一瞬、音が途切れる。

そして次の瞬間、ピアノの音がぐしゃっと崩れた。


会場の空気が変わった。


大人たちが小さくざわつく。


美央はそのまま演奏を続けた。でも、顔が真っ赤になっていた。


俺は息をするのも忘れて、ステージの上にいる美央を見つめていた。


その時、美央と目が合ったような気がした。


胸が、ぎゅっと苦しくなった。


美央って、何でも完璧にできる子だと思っていた。


勉強もできる。絵も上手い。ピアノも弾ける。友達もたくさんいる。

俺なんかより、ずっとすごい。


なのに。


最近の美央は、なんだか辛そうだった。

俺が観に来たせいなのかな。

俺が昔みたいに話さなくなったからかな。

もし俺のせいで、美央があんな顔をしているんだったら。


「……ごめん」


小さく呟いたけど、ステージには届くはずもなかった。


そして五年生になった。


クラス替えの日。


掲示板に貼られた名簿を見て、俺は目を疑った。


佐久間輝。


そのすぐ近くに、


三条美央。


「……同じクラスだ」


思わず声が漏れた。

その瞬間、後ろから友達の声が飛んできた。


「輝!今年も俺ら同じクラスやん!」


「……ああ。うん」


返事はした。


でも、その声はほとんど耳に入ってこなかった。


俺の視線は、ずっと美央を追っていた。

久しぶりに見る美央は、嬉しそうに笑っていた。


その笑顔を見た瞬間、胸の奥が少しだけ軽くなった。


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