1.邂逅
──十五夜。薄い雲がかかった夜に、ぽつんと浮かぶ月が辺りを照らしている。
見慣れた筈の望月は、何故だがいつになく頼りなく感じた。
視線を戻すと、月明かりに照らされたヤツの身体がぼんやりと白く輝いていた。
月が降ってきてそのまま人の形になったんじゃないか……不意にそんな考えが頭をよぎって、ハッとする。
(……集中しろ。この日のために俺は──)
鞘から抜き放った刀を握りしめて、走り出した。
生温い潮風を振り払い、木々の間を抜け、湿った土を蹴り飛ばすように駆けた。
段々と踏みしめる土に砂利が混ざりだし、目前にはもうすぐそこまで川原が迫っている。
──ジャリッ……!
──砂利を踏みしめる音にヤツが振り向いた。
川原に服を放り捨て、裸で川の淵へ歩いていたヤツは、俺に気づくとほんの少しだけ眼を見開いた。
もしかすると、何か言葉を発しようとしたのかもしれない。あるいは抵抗し、俺を殺そうとしたのかも……しかし、そのどれをする暇も与えずに、俺の刀は振り返りざまの胸を貫いていた。
ヤツは、俺の顔をジッと見つめて、その後に自分の胸に突き刺さった刀を見下ろした。
口からぼたぼたと流れ出た血が、足元の川に落ちては流れ去って行く。
「──ああ、驚いた……」
心の臓を穿ったのに、目の前のこの女は絶命せずに言葉を発した。
それどころか、俺の顔に向かってゆっくりと手を伸ばすと、そっと頭に触れて微笑んだ。
「……これ坊。頭に木の葉が乗っておるぞ。もしやタヌキが化けておるのか?」
血をダラダラと垂らしながらクスクス笑う女を見て、俺は意識を失った──