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2.八熊


「──いいか。お前は俺の代わりだ。俺が死んだらお前が俺の後を継ぎ、お役目を果たさねばならん」


 それは、先代の口癖だった言葉だ。

 

 流行病はやりやまい)で父母が死に、孤児となった俺はまだ幼く、しかし両親の死因を忌避きひされ誰に手を差しのべられることもなかった。


 そんな中、俺を引き取ったのは名も知らぬ老人だった。老人は八熊やくまと名乗り、俺を八衢やちまたという荒れ果てた島へと連れ帰った。


 八熊を名乗る老人は、俺に久方ぶりの飯を振る舞うと淡々と話を始めた。


 俺の命を救ったのは、気まぐれでもなく慈悲でもない。自分の()()()をさせる為だと。


 俺が何をすればいいのか問うと、八熊は腰に挿していた刀を抜いて、俺に手渡した。

 刀はとてつもなく重い代物で、枯れ枝のような俺の腕では持ち上げることも叶わなかった。


「……まずはお前を鍛える」


  八熊は来る日も来る日も俺を鍛えた。日が登っている間は、身体を痛めつけるようにひたすら鍛錬し、日が沈むと飯をかき込んで泥のように眠る。


 死んでしまいそうに苦しい毎日だったが、逃げ出そうとは思わなかった。逃げ出せばそれこそ本当に野垂れ死んでしまうと分かっていたからだ。


 月日が経ち、飯を食った後すぐに気絶するように眠らなくなった俺は、ある晩八熊に話を聞かされた。

 いったいどうして、誰を殺すために鍛えているのか……内容はそんなものだった。


 八熊 いわく、この八衢やちまたは元々八人の天女が暮らす島だったらしい。そこへある日、戦に負け、国を追われた一族が命からがら流れ着いた。


 八人の天女は島へ流れ着いた人間をどうするか話し合った。七人は反対したが、一人が強く望んだ為に結局は受け入れることにした。


 命を助けられた一族は、受け入れてくれた一人の天女に子々孫々に至るまで仕えると誓いを立てた。


 しかし戦乱の世には常に勝者と敗者がいる。

 ある日、またもや戦に敗れた一族が八衢やちまたへ流れ着いた。


 天女は再び話し合い、今度は全員が人間を受け入れることに賛成した。前回の件で、人間を受け入れた天女が助けた人間の一族にあがめられるのを、皆 内心羨ましく思っていたからだった。


 そんな風にして、天女は流れ着いた人間を次々と助けては島へ住み着かせ、自分たちに仕えさせた。


 やがて一人の天女につき一つの一族が仕えるようになり、その頃にはようやく戦も収まりを見せ始めた。


 ()()は、その八番目の一族だった。


「……八人の天女と八つの一族はどこへ消えたんだ」


 話の途中で俺が訊ねると、八熊はしゃがれた声で静かに「死んだ」と答えた──

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