75話:プラスの成果
郊外学習はポンネットのせいで、一時はどうなるかと思ったのですが。
蓋を開けると、ポンネットの策略で、キートンとアデラは二人きりでアクアポリス・カーニバルを楽しむことになった。そして二人の距離はぐんと縮まり、友達以上の関係になっている。恋人となり、婚約するまで……秒読みではないかしら?
そしてアレクと私も本当は、キートンとアデラの四人で、アクアポリス・カーニバルを楽しむつもりでいた。でもポンネットの暗躍で、それはできなかった。だが結果としてアレク二人でアクアポリス・カーニバルを楽しむことができたのだ!
アクアポリス・カーニバルは、人出も多い。
自然とはぐれないように、エスコートではなく、手をつなぐことになる。
仮に父親がいたとしても。
この人混みで手をつなぐことに、文句はないだろう。
そうしないとはぐれる! 迷子になる!
こうしてアレクと手をつなぎ、屋台を巡り、食べ歩きをして。
夜のゴンドラ遊覧を楽しみ、ライトアップされた船着き場と夜景を楽しんだ。
それはまさに非日常で、ポンネットの悪巧みを忘れさせてくれた。
つまり。
手首足首に傷を作ったものの。
それ以外はプラスの成果しかなかった。
一方のポンネットはすこぶる不機嫌な表情で郊外学習を終えている。
帰りの船では船酔いになり、珍しくアレクが「天罰だと思うな」と辛口になるぐらい。
でも本当に。
証拠もないので何もできないが、あれだけ船酔いで気分を悪くしているのであれば。
アレクの言う通り、天罰が下ったと思い、関わらないようにしよう!と思うだけだった。
ということで帰宅すると。
「おかえりなさい、クリスティ! 聞いたわよ! 何者かに襲われ、仮装の衣装を奪われたのでしょうか!? アクアポリスがそんなに治安が悪い場所とは思わなかったわ! 可哀そうに。手首と足首に傷ができたと聞いたわ」
母親は馬車を降りた私をぎゅっと抱きしめ、心配してくれる。父親はそんな母親と私をぎゅっと抱きしめ、「無事でよかった。殿下が助けてくれたと聞いている。……殿下がそばにいてくれてよかったな、クリスティ」と言ってくれたのだ!
過保護で私を見守りたい父親からすると、アクアポリスでの一報を聞いた時は、忸怩たる思いだっただろう。心配をかけてしまった。
実際、怖い思いをしたが、アレクのおかげで楽しい思い出に上書きされている。
そのことが少しでも両親に伝わればと思い、夕食の席ではアクアポリスの名物料理のこと、屋台で食べた串焼きが美味しかったこと。観劇したオペラの話、アクアポリス・カーニバルのにぎわい、夜景、夜のゴンドラなど、楽しい話を沢山両親には聞かせた。
夕食の席にはデュークもジュリアスもいたが、この時ばかりは私の聞き役に徹してくれている。
デュークとジュリアスには、船着き場から屋敷までの帰りの馬車で、襲撃の件を話すことになった。すると二人とも「その女は何者なんだ!?」と大憤慨。犯人の予想はついているが、証拠もないのでその名を出しにくい。
ともかく襲撃の一件を、デュークとジュリアスも知っていた。そして今、私は楽しい思い出を両親に伝えようとしている。そこを理解した二人は、襲撃の件には触れず、聞き役に徹してくれていた。
ちなみにポンネットが起こしたこの襲撃事件は、公にはしていない。犯人が見つからなかったというのもあるし、証拠もなかった。何より私は大怪我を負ったわけではない。
王太子の婚約者が何者かに襲われたとなれば、アクアポリスの街も大騒ぎになってしまうだろう。まさにカーニバルで盛り上がっているところに水を差したくないということで、王家には詳しい内容が報告されているが、新聞沙汰にはしていなかった。
「どうやら事件も起きたが、クリスティはアクアポリスを満喫したようだね」
「そうなんです、お父様。あの夜景はとっても美しく、夜のゴンドラはロマンチックでした。ぜひお父様とお母様もデートで行ってみてください!」
これには母親が「まあ」と頬を赤らめ、喜んでくれた。
そのタイミングで購入していたお土産を渡す。
アクアポリスのガラス細工で作られたペンダントを母親に、カフスボタンを父親にプレゼントした。他にチョコレートや焼き菓子も購入している。それらを夕食のテーブルに並べると、両親は「こんなに沢山! すごいわ!」「ありがとう、クリスティ」と笑顔になる。
すると負けじとデュークとジュリアスも「「いつもお世話になっています!」」と、いろいろ取り出す。オリーブ味やペペロンチーノ味の、スナックとして楽しめる堅焼きパン。珈琲、トリュフ塩&バルサミコ酢。ちゃんと私の両親のために、お土産を買っていてくれたようだ。
テーブルに溢れんばかりのお土産が並び、両親はもうご機嫌だ。
行動することで、親孝行はしたいと思っていた。でもプレゼント(物)でもこれだけ喜んでくれるなら……。沢山、お土産を用意して良かったと思う。
楽しく夕食を終え、自室に戻ると、トランクの荷解きをしてくれていたメイドに声を掛けられた。
「お嬢様、トランクからこちらが出てきました」