74話:犯人は……
つまり犯人の予想は立つ。だがアレクも私も肝心な犯人のその素顔を、見ていないのだ。
しかも短剣を持参して動いたぐらいだから、周到に動いていたと思う。
証拠など残すはずがなかった。
実際、私が治療を受けている間、近衛騎士はバスルームを調べていた。口にかまされていた布やロープも証拠として回収していたが、それで犯人が分かるかというと……。
無理だと思う。
前世のような科学捜査はできないのだから。
それでも犯人は誰なのか。
想像はできてしまう。
そう。
ヒロインだ。
ポンネット・クラフティー・フィーリス。
目的は……ずっと相手にしてくれないアレクと、どうしても仲良くしたかったのでは? イチャイチャして、いい感じになれたら、キスの一つでも迫ったかもしれない。もしそんなことになれば、一大事だ。婚約者以外とスキンシップをとり、キスまでしたなんて。しかも未来の国王、王太子が。
この不祥事をフックに、私がアレクに幻滅し、またアレクの目を自分に向けさせようとでも思ったのかしら?
それにしても乙女ゲームをプレイし、ヒロインに扮していた時。
無理ゲーですよ~という、高難易度のイベントは確かにあった。
つまりヒロインは無理をする気質が……“花恋”にはあったということ。
それが今のポンネットなのだろう。
誘拐や監禁、殺人及び殺人未遂……そこまでのことはしていない。
ロープで結わき、バスタブに転がしたが、大怪我を負わせたわけではない。
ギリギリ、ヒロインとして許される範囲だった……わけがないですよねー!
やりすぎですよ、ヒロイン!
目を覚ませ、ポンネット!
ゲームの抑止力に打ち勝て!
悪役令嬢が断罪回避に燃えるなら、ヒロインもゲームの強制力に負けるな!
何が何でも王太子攻略ルートで、アレクと結ばれないとダメ!と考える必要なし!
なんて言いたくなるが、言ったところで理解できないだろうし、気持ちは変わらないだろう。
「クリスティ。証拠はない。だが犯人はあの令嬢だと思う。これからはより一層注意する。近衛騎士はメイド服に仮装して仮面をつけたあの令嬢を見て、すっかりクリスティだと信じてしまった。そこは甘かったと思う。彼らには今回の件を教訓にして、二度と過ちを繰り返さないよう、きちんと言っておく。それに僕もすぐに」「殿下!」
話を途中で遮るのはよくないと分かっている。
それでも伝えられずにはいられない。
「殿下が気づいて助けてくださったのです、私を。殿下に落ち度はありません!」
「クリスティ……」
「お腹、空きましたよね。薬品の効果が切れたようで、元気になりました。せっかくなのでレストランへ行きましょう……あ……。もう仮装はできないですね。予備で一着ワンピースを持参しているので、それに着替えようと思います」
自分がバスローブ姿であることを思い出していた。
するとそこにノックの音がする。
「廊下に近衛騎士が二人待機している。怪しい者ではないはずだ。僕が出よう」
そう言ってアレクが扉を開けると、そこいたのはホテルの従業員。
今がアクアポリス・カーニバルだからだろう。
白いハーフフェイスの仮面をつけているが、白シャツに黒とグレーの縦ストライプのベストにズボンと、ちゃんと従業員の制服を着て、ネームプレートもつけていた。
「騒動について、お聞きしています。女性用の仮装衣装、仮面、履物を用意しました。男性用の仮面もございます。支配人からの手配です。アクアポリス・カーニバルをお楽しみくださいと」
アレクがハッとした表情になるが、すぐに応じる。
「ありがとうございます。助かります」
アレクは衣装の入った籠を受け取り、従業員は扉を閉めて去って行く。
籠の中を見ながら、アレクが私のところへ近づくので、ベッドから起き上がる。
もう元気なのだし、これから外出するのだから、起き上がった形だ。
「クリスティ、立ち眩みとかはない? 平気?」
「ご心配をおかけしました。でも大丈夫ですよ。それよりも仮装の衣装とは、何でしょうか?」
アレクが手にしている籠を覗き込み「あ!」と声が出る。
つば広のとんがり三角帽子。濃い紫のローブ。それにショートブーツもある。
「これで魔女に変装できますね!」
「そうだね。アイマスクの仮面も、ローブとお揃いで素敵だよ。よかったね、クリスティ」
「はい! 殿下のアイマスクもシンプルですが、一番これが似合うと思います!」
こうしてアレクがバスルームに行っている間に、予備で持参していたワンピースに着替え、そしてローブを羽織り、三角帽子を被る。さらにアイマスクの仮面をつけ、完成だった。
バスルームで自身も白のアイマスクをつけたアレクが出て来た。
執事姿でアイマスクの仮面。
似合っていると思います!
素敵だった。
「クリスティ、なんて可愛らしい魔女の姿なんだろう! 箒を持たせたいけれど、人混みの中で邪魔になるからね。これで我慢しよう。では改めて。アクアポリス・カーニバルに行こう!」
差し出されたアレクの手に、自分の手を重ねる。
部屋を出ると、安堵した様子の近衛騎士二人が、私に頭を下げてくれた。
二人だって悪くない。悪いのは暴走特急のポンネットだから!
ロビーにいた教師に外出することを伝えると「その元気があってよかった、気を付けて」と見送ってくれた。気を引き締め、眼光鋭くなった護衛の騎士もついて来てくれている。
この後、失った時間を取り戻すように。
アレクと二人、アクアポリス・カーニバルを楽しむことができた!
お読みいただき、ありがとうございます!
【第二章完】加速する恋の三角関係
『森でおじいさんを拾った魔女です
~ここからどうやって溺愛展開に!?』
https://ncode.syosetu.com/n4187jj/
読み進めていくと謎が解け
じわじわと溺愛展開に向け、物語が動いています。
人型になれる使い魔もワイルド系イケメンで
まさに二人の素敵メンズの間で、主人公が少しずつ恋に目覚め……
キュンとするような三角関係を楽しめます。
特に13話はレミオロメンの『粉雪』を聴きながら読みたくなる
切なくキュンなお話になっています。
ぜひご覧くださいませ~
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