73話:すべて不明
アレクは犯人捜査を自身の護衛騎士に命じた上で、教師にはアクアポリス警備隊への捜査協力の要請を依頼した。警備隊というのは、前世でいうところの警察に当たる組織だ。教師は快諾し、養護教諭と共に部屋を出て行った。護衛の騎士は、それぞれの持ち場に戻って行く。
こうしてアレクと私だけになると、彼は私が休むベッドのそばに椅子を置き、そこで今回の出来事について話し始めた。
「ホテルの部屋にキートンと戻り、着替えを行った。キートンは宮廷音楽家、僕は執事に仮装だ。共に手間はそこまでかからない。丁度、着替えを終えた時、ホテルのスタッフが訪ねてきた。キートン宛の言付けを伝えに来たんだ」
それはアデラからで、二人きりの時間が欲しいので、早めにロビーへ来て欲しいという内容だった。それを聞いたキートンは頬を高揚させ、アレクに「一足先にホテルを出てもいいかな?」と尋ねた。アレクは「勿論!」と即答したという。
校外学習の最中、二人は仲良く行動していた。もしもそういう気持ちがあるなら、応援したい気持ちだった。こうしてキートンは一足先にアレクを置いて、ホテルを出た。
「え、でもアレク、この部屋にもホテルのスタッフが訪ねて来たのよ。でもスタッフはアデラに対し、一足先にキートンが迎えに来ていると伝えているわ」
「クリスティ、君からアデラを引き離すため、犯人が仕掛けた罠だろう」
「……!」
この言葉で私は確信することになる。こんなことをしでかした犯人が誰であるかを。
「キートンとアデラは、どっちがどっちを呼び出したかなんて、気にしていなかっただろう。お互いに気になっている状況だからね。だからロビーで落ち合い、ソファに座り話していたが、僕が合流すると『二人でアクアポリス・カーニバルを見て回ってもいいかな?』と聞かれ、快諾したんだ。二人を応援したい気持ちもある。それに僕だって、クリスティと二人になれたら、嬉しいからね」
そしてキートンとアデラがホテルから出て行くと、入れ替わるように私がロビーに現れた。二人の護衛騎士も連れている。アレクは私だと信じた。
「アレクの前に現れた“偽の私”は、本来、私がするはずのメイドの仮装をしていたのですね?」
「そうなんだよ。事前に見せてもらっていたメイドの衣装を着ている。背格好もクリスティと同じ。騙されかけたが……。違和感を覚えた」
それは積極的に腕を組もうとしたり、手をつなごうとしたりしたことだ。こんな風に軽々しい行動を普段の私はしない。まずそこに疑問を覚える。
しかも仮面が事前に見せてもらったものと違い、フルフェイスのもの。ただサプライズで変えたのかとも思った。でもその仮面はゴールドや模造宝石が沢山あしらわれ、かなり派手。私がこれを選んだことも、なんだかいつもと違うと感じる。とはいえ、校外学習という非日常にいるのだ。普段選ばないような仮面を敢えて選んだ可能性もあった。
ただ、フルフェイスの仮面だと話すことができない。勿論、外せばいいのだろうが、会話の度に外すなんて非現実的だ。
せっかく一緒に散策できるのに。敢えて会話を封じるフルフェイスの仮面を選んだことも解せなかった。しかも仮面の凹凸や装飾により、唯一見える瞳でさえ、見えにくい状態。
「そこで二人きりになりたいフリをして、細い路地に入り込んだ。そこで何者なのか、問いただした。すると驚いた。短剣を持っていたんだ。それを取り出し……無言で僕を牽制したんだ」
王太子であるアレクを脅すなんて! 大胆不敵過ぎる。
「剣を持ち出すのは想定外だった。だからと言って、いきなりレディに暴力で訴えることは……できない。言葉で説得できないか。その迷いのせいで、逃走を許すことになった。だが重要なのは、クリスティはどうなっているか?だ。その身は無事なのか。心配になった」
そこでアレクは近衛騎士に女の追跡を任せ、自身は急ぎ私が滞在するホテルへ戻った。
「僕が女と一緒にいた時間は五分未満だ。だがクリスティの着るはずだったメイド服を着ていたことを思うと、事件が発生してそれなりに時間が経っている。しかも部屋にクリスティがいる保証はない。かなり焦ることになった」
アレクは部屋に私がいない事態も想定し、とても心配した。だが私は部屋にいた。バスルームのバスタブの中に転がっていたのだ。それを発見し、助け出し、現在に至っている。
「結局、殿下は犯人の声も聞いていない、顔も見てないのですね」
「残念ながらそうなる。さっき近衛騎士にも確認したけど、今はアクアポリス・カーニバルで、とても人出が多い。しかもみんな仮装をしている。メイド服の仮装をしている人も多く、結局捕らえることができなかった」
「それは仕方ないと思います。ただ、実は私の部屋に来た時、犯人は黒いローブを着て、フードを被り、カラスの仮面をつけていました。素顔なんて見る間もなく、誰か勘違いして部屋を訪ねて来たと思ったぐらいで……。急に薬品を染み込ませた布で口を覆われた時は、何が起きているか理解できませんでした。そして気を失うことになってしまい……。私も犯人の声を聞いておらず、顔を見ていないのです」
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『婚約破棄を言い放つ令息の母親に転生!
でも安心してください。
軌道修正してハピエンにいたします!』
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併読いただいていた読者様、ぜひお楽しみくださいませ。
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