48話:私の本心
ジュリアスに気持ちを伝えられてしまった。
しかも婚約を前提にした交際をしたいと言われた。
一目惚れってすごいわね。
ううん。違うかな。
これは乙女ゲームの力も働いているのかな?
ともかく宝物庫見学を終えると、昼食となり、それはアレク以外のメンバーが揃っていただくことになる。食後、ジュリアスは離れに戻り、デュークは「久々に親父に手紙でも書くか」と言っていた。
私は部屋でジュリアスの告白について考えることになる。
何度考えても、ジュリアスの告白と婚約を受け入れる――これが最善に思えた。私が断頭台送りにならないで済む。ヒロインとアレクも無事に結ばれると。
「ジュリアスの告白を受け入れる。彼の婚約者になると決めた」
声に出し、気持ちを固める。
これを……父親に話そう。
この後のティータイムで。
◇
そして迎えたティータイム。
喫茶室へ向かうと、テーブルには、メーベリーのチョコレート、スイーツサロンの焼き菓子、マダムポワールのメロンのシャルロットケーキ、ローズ・ガーデンのマカロンと薔薇の砂糖菓子など、私が大好きなスイーツが並ぶ。
そこへ白シャツに明るいグレーのセットアップを着た父親がやって来た。
「クリスティが好きだというスイーツを揃えた。せっかくなので、まずは食べなさい」
そこで父親は合図をメイドに送る。
するとメイドはアイスグレープフルーツティーを出してくれた。
「ありがとうございます! お父様!」
まずはアイスグレープフルーツティーを飲む。
これはさっぱりしてごくごく飲める。
というか、今さらだけど、自分が緊張していたことに気が付いた。
ジュリアスの気持ちを受け入れ、婚約すると決め、それを父親に伝える。
そのことに、とても重圧を感じていた。
一旦、忘れよう。
今は父親がせっかく用意してくれたスイーツを味わうことにした。
しばしスイーツと飲み物に集中。その間は父親もスイーツの話しかしない。
しばらくはザ・ティータイムを過ごし、一息ついたところで本題に入った。
「お父様、昨晩、ジュリアスと庭園で何を話したのか。そして今日、宝物庫でジュリアス第二王子殿下に何を告げられたのか。全て話すつもりです」
「そうか。では話してみなさい」
「はい」
こうして私は全てを洗いざらい父親に話すことになる。
全部を聞き終えた父親は大きく息を吐く。
その上で尋ねた。
「クリスティもウィンフィールド第二王子殿下のことが好きなのかい? 初対面の彼に対し、クリスティはいきなり婚約者を探していると打ち明けた。間接的ではあるが、ウィンフィールド第二王子殿下のような人がタイプだと話していたが、あれが本心なのか?」
本心なのか。
そう問われると辛い。
私は……ただ生きたいとだけ考えていた。二度の断頭台で命を散らしたことを知り、三度目はそうはならないと誓ったのだ。そのための断罪回避行動をとった。
結果的に母親が生き、父親も私を愛し、二度のループでは見たことがない平和な時間が流れた。私はこのループ三度目で人生を全うしたい。断頭台により途中退出するのはイヤだった。
生きたい。
そのためだったら本心ではなくてもいいと決めた。
ジュリアスを選ぶことが、私の生存とみんなの幸せになると。
だから揺らぐ必要はない。
貴族の令嬢に生まれたのだ。
本心を偽り、上辺だけの言葉を並べることぐらい、社交辞令の一つとして身に着けている。
だから答えればいい。
「ええ、お父様。ジュリアス第二王子殿下のことが好きです。本心ですよ」と。
それなのに、声が……出ない。
そんな私を見て、父親は困った顔で話を続ける。
「ウィンフィールド第二王子殿下と結ばれれば、マンチェイス国に行くことになる。王都の比ではない。遠い。だからつい、クリスティとウィンフィールド第二王子殿下の邪魔をしようとしてしまった。牧場にクリスティを連れていなかったのも、これが理由だ。だがクリスティが心からウィンフィールド第二王子殿下を望むなら、止めはなしない。どうなんだい、クリスティ?」
私は……。
心からジュリアス第二王子殿下を望む?
私が心から望むのは……。
――「お会いできて光栄です。アイゼン辺境伯令嬢。アレク・ウィル・ミルトンです」
断頭台に私を送る悪魔なのに、アレクは大天使のような笑顔で私の前に現れた。
――「話し続けて喉を傷めるといけない。よかったらもらって」
最初から私を気遣い、宮廷医が作ったキャンディーをくれた。
――「一人で食べるより、二人の方が美味しくなるだろう?」
学校で朝食を食べることを提案して、私を驚かせた。
――「ありがとう、クリスティ。……もしかして、見惚れてくれたのかな?」
そんなことを言って、素敵な上半身裸のまま、扉ドンなんかをして!
――「おめでとう。これで君も大人の仲間入りだね」
社交界デビューした私に、お祝いを込めた手の甲へのキスをしてくれた。
――「クリスティ。君との初めてのダンス、一生忘れないよ」
輝くような笑顔でそう言って、私をドキドキさせた。
――「クリスティ、良かったら一緒に勉強しない?」
テストの時は餌付けされてしまったが、アレクはいろいろと勉強を教えてくれた。おかげでテストの成績はバッチリだった。
――「良かったら一緒に昼食を食べよう」
オリエンテーリングでは上級生とも、学院のみんなとも仲良くなれるよう、気配りをしていた。
――「これも濡れているけど、僕の体温で少しは暖かいと思う。よかったら」
自身の体が冷え切っているのに、突然の雷雨ではジャケットを脱ぎ、私を温めようとしてくれた。
――「迷子になった僕を、クリスティ。君が助けてくれた」
アレクとは初めましてではなかった。幼い頃、迷子の彼と出会っていたのだ。
――「思い出してもらえただけで、僕は嬉しいよ」
彼に贈られた宝石を髪飾りにして大切にしたと知ると、アレクは心底嬉しそうに微笑んだ。
そして――。