36話:究極の選択
日曜日。
今日は昼間から父親の誕生日パーティーだ。
この日を迎えるまでの数日。
ようやくアレクが元に戻った。
無理に話すのを止め、おしゃべりはデュークに譲ったのだ。
それを見た私は安堵することになる。
やはりなんだかアレクが切実そうに感じてしまい、それは……放っておけなかったからだ。
ということでアレクが通常状態に戻ることで、憂いも晴れた。
そして迎えた父親の誕生日パーティー。
会場は屋敷の庭園で、天幕がいくつも用意されている。
その天幕では沢山の料理が提供されるのだ。
しかも!
バーベキューで肉を焼いているかと思えば、なんとクロケット(コロッケ)までその場で揚げる。出来立て、アツアツの料理が立食形式で楽しめる趣向だった。
招待客が続々庭園に集まり、開始時刻が迫る。
シルバーグレーのフロックコート姿の父親と明るい若草色のドレスを着た母親は、招待客の挨拶に忙しく追われていた。
そこでオーケストラが演奏を始め、父親が会場の中央に向け、母親と共に歩き出す。
いよいよ誕生日パーティーが開始となる。
皆、グラスを手に乾杯の時を待つ。
「本日はわたしの誕生日のために、わざわざお集まりいただき、とてもありがたく思います。今年も無事、年を重ねることができました。この喜びを皆様と分かち合い、そしてアイゼン辺境伯領で暮らす皆様の幸福を願い、乾杯させていただきます」
そこで一呼吸置いた父親は、グラスを高々と掲げる。
「乾杯」
「乾杯!」
拍手とオーケストラの演奏と共に、パーティーが始まる。
父親が母親と最初のダンスを披露。それが終わると、一斉にダンスが始まる。その後はもう、ダンスをするも良し。食事を楽しむ良し。おしゃべりするも良し。
そこはもう自由!
何よりこの日は屋敷の敷地の様々な場所が開放されていた。
乗馬場も開放され、仔馬とのふれあいもできるので、子供をつれた招待客も大満足。
迷路庭園でも遊べるようになっており、カップルの招待客が次々に吸い込まれていく。
天気もいい。美味しい料理もあれば、娯楽もあった。
コバルトブルーのフロックコート姿のアレク、ワイン色のフロックコートを着たデューク、そしてラベンダーアイス色のドレス姿の私は料理を楽しみ、順番にダンスをして、そして――。
「クリスティはもう何度も遊んだから、迷うことはないんだよな?」
「それは……そうね。でもね、デューク様。それも子供の頃の話よ。それに手入れの際に、順路を変えることもあると聞いたわ。絶対に迷わず出口まで行けるかと言うと……自信がないわ」
「ならいいや。ゴールまでの道順が完璧に分かっているのに、入ってもつまらないだろう? でも覚えていない上に、順路も変わっているなら……挑戦してみよう、迷路庭園!」
デュークの提案でアレクと三人、迷路庭園に入ることにした。少し離れてアレクの護衛騎士もついてくる。
入ってしばらくは、他の大勢の招待客も一緒だった。だがこの庭園はとても広く、気づけば周囲にいた招待客の数も減っている。
「よっと。この物見の塔から少し様子を見てみますか」
物見の塔は迷子になった時、自分がどこにいるか確認できるよう、要所要所に設けられている。高さ三メートル程の櫓のようなもので、階段を上り切ったスペースから、周囲を見渡すことができた。
大勢で上ることはできない。定員は一名。デュークが階段を上り始めた時。
「クリスティ」
アレクが突然、私の手を取り、走り出した。
「!?」
これには驚くが、アレクが止まる気配はない。
「おーい、殿下、クリスティ!」
後方からデュークの声が聞こえるが、アレクは走るのを止めない。
「ア、アレク王太子殿下、どうされたのですか!?」
問いかけに答えることなく、そのまま小走りで迷路を進み……。
小さな噴水があるスペースに出た。
そこでようやくアレクが走るのを止める。
息が上がる私の背を撫で「急に、ごめん。クリスティ」とアレクは言いながら、周囲を窺う。完全に護衛の騎士まで撒いたようだ。
「どうしたのですか、急に……?」
「クリスティと、どうしても二人きりになりたくて」
「!?」
「デュークが来てからずっと、クリスティと二人きりになるチャンスがなかった。その機会が訪れると、デュークが現れるから……」
そう言われてみると、確かにそうかもしれないと気が付く。
「まるでデュークに、クリスティとの仲を邪魔されているように感じてしまった。その一方でクリスティは、デュークと楽しそうに過ごしていたよね……」
「え……?」
突然のアレクのこの指摘には、驚くしかない。
デュークと楽しく過ごす……?
いつもアレクがそばにいたと思うのに。
「師匠への誕生日プレゼント。王都から取り寄せていたけど、もしかすると間に合わないかもしれないとなった。そこで街で何かいい物がないか、探していたら……。日曜日。クリスティとデュークがデートをしているのを見た」
「あれはデートではないわ、アレク王太子殿下!」
「でも香水屋で……キスをしそうだったじゃないか」
「!?」
「クリスティは……デュークのことが好きなの?」
衝撃的だった。
今、私は究極の分かれ道に立たされている。
もしここで私がデュークを好きだと言えば、アレクは私を諦めてくれるの?
もし諦めてくれるなら、断頭台から遠ざかることができる。
アレクと婚約しなければ、私はヒロインを階段から突き落とすこともない。
それに父親はデュークを気に入っている。
息子のように可愛がっていた。
何よりデュークは王都より、この場所が合っている気がする。
自然の中で生きることに抵抗感がない。
気さくで人懐っこく、性格も明るい。
もし私がデュークと結婚し、彼がアイゼン辺境伯を継げば……。
アレクはヒロインと何の障害もなくゴールインできるはず。
みんなハッピーエンドになれる。
あまりの自分の心音の大きさに、ビックリしていた。
落ち着いて。
深呼吸をして、私。
何度か深呼吸を繰り返し、そして口を開く。
「私は……」
お読みいただき、ありがとうございます!
「私は……」の続き、明日まで待てない……
と思ってくださる読者様がいると信じ。
夜にも更新しますね☆彡






















































