14話:距離が、距離が近い!
アレクからのお祝いを込めた手の甲へのキス!
これにはさすがに心臓が爆発しそうだ。
震える声で「アレク王太子殿下もおめでとうございます」と伝えることになる。一方のアレクは私の声が震えていたので、緊張していると思ったのだろうか。自身の父親でもある国王について、いろいろ小話を聞かせてくれる。
王妃のことを大好き過ぎて、新婚の頃は彼女の私室でしばらく執務をしていたこと。猟犬の名前に王妃の名前をつけたことで、使用人が困ったこと(迂闊に犬の名前を呼べない!)など、国王がなかなかに人間味溢れる方であることが分かった。
そこで楽団の演奏が止まり、皆がホールの中央に注目する。そこへ母親をエスコートした父親が登場。開会の挨拶が行われた。
最初のダンスは、社交界デビューとなる令嬢令息たちによる一斉ダンスだ。
当然、エスコートされている私は、アレクとダンスすることになる。
「ではクリスティ。君と僕の初めてのダンス。お願いしても?」
魅了魔法が発動するのでは?と思うぐらいの爽やかな笑顔と言葉に、一瞬、自分の立場を忘れそうになる。だが過去二回の断頭台の記憶を思い出す。この笑顔に騙されてはいけない。アレクは……私を断頭台送りにする張本人なのだから……!
そんな気持ちとは裏腹に、始まるアレクとのダンス。
どう見ても王子様のアレクとダンスする自分は……プリンセス映画の二人みたいだ。
悔しいがそれはゲームと同じで非常に素敵なもの。
曲が終わってしまったことが悔しくてならない。
「クリスティ。君との初めてのダンス、一生忘れないよ」
碧い瞳を輝かせ、そんなことを言われては、いろいろとガードが緩んでしまう。
通常は手を軽くのせてのエスコートなのに。
手だけではなく、肩も抱かれ、ホールの端へと移動していた。
歩みを止めた時。ようやく気付いた。
アレクとの距離が、距離が近い!と思ったら
ぐいっと私とアレクを引きはがすように割り込んだ人物がいる。
な、何者!?
驚いて振り返ると、タキシードに仮面の男性がいる。
この世界、戦争の英雄など一部の人間は、仮面舞踏会ではなくても、仮面をつけることが許されていた。つまり顔に傷があり、それを隠したい――そんな場合だ。その男性も、ダークブラウンの前髪の下から頬の半分が隠れるような、白い仮面をつけていた。
無言のそのタキシードに仮面の男性は、スッと一輪の赤い薔薇と共にハンカチを差し出す。
見るとハンカチには我が家の紋章と私のイニシャル!
どうやらハンカチを落としていたようだ。
「ありがとうございます!」
受け取るとその男性は口元に微笑みを浮かべ、なんと!
私に手を差し出している。
つまりはダンスをしましょう――ということ。
これには驚くが、ハンカチを拾ってもらっているのだ。
断るのは失礼だろう。
アレクもそれは分かっているようだ。私からハンカチと薔薇を受け取り、彼にその場を譲ることになる。
そしてそのタキシードに仮面の男性とダンスすることになった。
「あ、あの、お名前をお聞きしても?」
だが彼、まるで前世のトランプマンのように何も話さない!
いや、もしかすると……。
仮面をつけているのだ。兵士……ではないだろう。騎士の可能性もある。そうなると戦争で舌を失った可能性も考えられた。ならば無言なのも仕方ない。
そのまま彼とダンスをして、再びアレクの元へ戻ることになる。
私を待つ間、アレクは薔薇の茎をとり、髪に飾られるようにしてくれていた。
薔薇を髪につけ、ハンカチをしまい、再度、アレクとダンスをすることに。
ダンスをすると、アレクの素晴らしさについ、骨抜きになってしまう。
気づけばアレクとまた距離が近くなっている。
と思ったら!
再びあのタキシードに仮面の男性が登場!
今度は手に飲み物を持っており、ジンジャーエールを渡してくれた。
不思議だった。
舞踏会の最中、アレクとの距離が縮まると、すかさずそこに現れるタキシードに仮面の謎の男性。
おかげでアレクにくらっとなりそうになるのを踏みとどまることになり、非常に助かっている。
が、しかし!
この人は……誰なんです?
結局、彼が誰なのか分からない。
さらに給仕の男性から声を掛けられる。
「アイゼン辺境伯からの伝言です。『明日は月曜日、学校もある。そろそろ帰ろう。エントランスホールで待っている』とのことです」
社交界デビューを果たし、大人の仲間入りをしても、学生であることに変わりはない。
こうして私は父親と母親と合流し、屋敷へ帰ることになる。
アレクはなんだか物足りないようだが、明日の学校のことを考えると、どうにもできない。「また僕とダンスをしてくださいね」と最後は締め括ることになった。
ちゃんと父親が手配してくれていたようだ。エントランスには我が家の紋章がついた馬車が待っていた。アレクに見送られ、両親と共に馬車へ乗り込む。
父親は初めての舞踏会はどうだったかと尋ね、私はアレクとのダンスのこと、そして謎のタキシードに仮面の男性について話すことになる。
すると。
父親が笑いを噛み殺しているように見える。
そこで「まさか!」と思う。
タキシードに仮面の謎の男性。その顎のラインを思い出す。そして父親を見た私は――。
お、お父様……!
あなたがタキシードに仮面の男性の、正体だったんですかー!
お読みいただき、ありがとうございます!
活動報告で書いた通り、昨日、7月4日に奇跡が起きました……!
目次のタイトル下の筆者名をクリックすると、活動報告が閲覧できます。
URLは長いのですが、記載しておきますね。
【感謝】読者様、ありがとうございます!
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