番人なんて胡散臭い
「ワシは森の番人じゃ」
と、どこからともなく現れたジイさん。目の前のただの老人からは到底想像できぬ威厳を放ちながら、堂々と自己紹介する。
――だが、正直『番人』といえば、身長2メートル以上の大男やオーガのようなモンスターを思い浮かべるのが普通だろう。
そもそも番人って何だよ!
それでも、何か不穏な空気が漂うこの森で、ひとまず話を聞いてみることにした。
「すいません、俺たちは旅の一行なんですが、急にモンスターに襲われまして。ここの森に詳しいんですか?」
その横では、空気を読めないロアが心配そうに声をかける。
「おじいちゃん!こんなところにいたら、危険だよ!?」
「さっさと立ち去れ」
老人は、静かにそう呟いた。
共鳴するかのように、木々が騒めき出す。
「何ですかコレ」
不安そうなリリスを庇うように、ヴェーノが前に出る。
「森の裁きを受けよ」
老人の迫力が増していく。さらに木々が揺らめき出す。
それは、森の怒りを代弁しているかにも見えた。
「どうなっている?コイツが本当に森の番人なのか」
「私も聞いたことありません」
チラリと見た御者のおじさんも知らないようだ。
「汝ら、我が森に土足で踏み入る愚か者どもめ」
何が来る。
あまりの緊張感と恐怖に膝から崩れ落ちそうだ。
逃げように、逃げ場がない。
馬がやられた今、人の足で逃げるにしても限界がある。
もはや、空間が捻じ曲がっているようなとてつもないエネルギーを感じる。
「待ってくれ!誤解だ。俺たちは…」
最後の足掻きに弁明をしようとした俺だが、全く収まる気配がない。
死を覚悟する。
しかし、ジイさんはニヤリと笑うと、急に口調を変えた。
「というのは、冗談じゃ」
一瞬、森の中は静寂に包まれる。まるで何も起きなかったかのように、時間が止まったようだ。
「「「……??」」」と、誰もが困惑する。
すると、ジイさんはその場で深々と頭を下げ、土下座を始めた。
「すまんかった!わしの勘違いだったんじゃ。裏の畑を耕しておったら、急に足音が聞こえてな、モンスターが出たかと思い、つい飛び蹴りを喰らわしてもうたんじゃ。本当にすまんかったのう!!
何だ。どういうことか。
まだ理解が追いつかない。
「ワシは、この森で暮らして40年近くになるがたまにモンスターが出て退治しておってな。今回は隼人ちりしてしまったようじゃな」
てへっと舌を出す老人。
「っておい!さっきまでと全然キャラが違うじゃあねえか!!」
俺は鋭いツッコミを入れる。
「だってのぉ、久しぶりに人に会ったもんで、気まずくなって、どうしていいか分からんようになってしもうたんじゃ!もうこうなったらヤケクソじゃ〜ってなっての!」
めちゃくちゃだ。完全に巻き込まれてる、こっちが。
「そもそも、見たら分かるだろうが!どう見ても馬車だ!」
「いやあ……ワシ、馬車のモンスターかと思ったんじゃ。最近のは進化しとるからのう。ほっほっほ」
「ふざけてんのか!!全っ然反省してねえな!!」
駄目だ。この調子で相手していたら、こっちの頭がおかしくなりそうだ。
そして、ここまで黙っていた御者のおじさんが、ついにキレた。
「ふざけんなよ!ジジイィ!!」
「俺の飯のタネになんてことしてくれやがる!!」
老人は、ロアが治療している馬を見た。
「馬のことは、何と詫びればいいことか…。おーい、馬よ!元気か!まだ死んではないよな!」
「お前が死ね!!!ジジイィィ!!」
人が変わったかのように、おじさんは老人に掴み掛かった。
よく分からないが、これは一安心でいいのか。
俺は、緊張で汗びっしょりになっていた。
そんなやり取りをしているうちに、ロアが馬の治療を終えたようだった。
御者のおじさんは、老人に掴みかかっているが、これでひとまずは難を逃れたかと思ったのが。
「ダメよ」
黙っていたヴェーノがレイピアを抜き去った。
「お前は、リリスちゃんを悲しませたの。死んで償ってもらうわ」




