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除けて通せ酒の酔い

 ヴェーノと酒場へと降りる。


 相変わらず、他の冒険者たちは俺のことを目の敵にしているようだった。

 俺が来た途端に敵意をむき出しにしてきた。

 だが、今日は隣にはヴェーノ先生がいらっしゃる。

 もし、どこかの冒険者がこちらにガンを飛ばしでもしたら、すぐにヴェーノ先生がお相手するだろう。

 そう思い、ヴェーノ先生の方を見ると。


「何なの?この臭いは……」


 ヴェーノは、鼻をつまんで嫌そうな顔をしていた。

 どうやら、この酒場の酒の臭いを言っているみたいだ。

 さきほど、俺が部屋を借りるために来た時は、時間的にもまだ冒険者もいなかったが、今は多くの冒険者が酒場で食事をしている。

 いつものように、この空間は息が詰まりそうなくらい酒臭い。

 俺は、まだ3回目なので少しは慣れてきたが、初めてのヴェーノには耐えられなかったみたいだ。


「酒が苦手なのか?」

「そういうわけじゃないわ。ただ、慣れていないだけよ!」


 ヴェーノは強がっているようだったが、この感じだと酒はかなり苦手なようだ。

 年齢は俺よりも年上だと思っていたが、年上だからといっても酒が平気というわけじゃないんだな。

 まあ、俺より年下で大丈夫なやつもいるんだが。

 それは、種族が違うか。

 なんにせよ、酒の苦手なヴェーノが可愛らしく見えた。


 俺は、いつも通りマスターに料理を注文する。


「今日は、銅貨10枚だ」

「マスター、昨日までは銅貨6枚じゃなかったか?」


 俺は、マスターに不服を言う。

 すると、マスターはギロリと俺を睨んだ。

 

「あん?俺に文句があるのかい?」


 カウンター越しだが、マスターの口調は強めで圧も感じられた。

 どういうわけか、マスターはいつもに増して機嫌が悪いみたいだ。


(まさか、変な誤解をされているのか?)


 それに周りの冒険者の目も気になる。

 今日はヴェーノを連れてきたことで、また変な噂でも流れてるんじゃないだろうか。

 これ以上同業から恨みを買うのは避けたいな。

 なんとか、上手く誤解を解く方法が見つかればいいんだが……。


 俺はヴェーノと同じ席に着く。

 別々の席に座るかと思ったのでこれは意外だった。

 だが、積極的に話しかけてこようとすることは無かった。

 そして、黙ったまま食事を始める。


 今日も肉が美味しいかった。

 そこで、ヴェーノのことが気になってちら見する。

 ヴェーノは、貴族であると聞いていたので、この酒場の味が合うか疑問に思ったのだ。

 表情を伺っても普通だ。

 文句を言うことなく、上品に食べていた。

 ほんの少しだけ見たつもりだったのだが、すぐにヴェーノに気づかれた。


「何かしら?」

「いや、普通に食うんだなと思って。こんなの豚の餌ね。とか言い出すんじゃないかと思って」

「そうね。あなたみたいな家畜と一緒に食べるなんて不快だわ」

「じゃあ、他の席に行けよ!!」


 俺が叫ぶが、ヴェーノは全く動じない。

 本当に連れないというか愛想のない女だ。

 そこで、俺はずっと気になっていたことを聞いてみることにした。


「ヴェーノって、本当にリリスのことが好きだよな。どういうとこが好きなんだ?」

「可愛いから」

「それだけ!?」

「可愛さは正義よ。あと、うるさいから話しかけないでくれる?あなたと話すことも別に無いの」

「……」


 そこで会話は終わる。

 それ以上、ヴェーノは話そうとはしなかった。

 俺も、変にヴェーノから怒りを買いたくないので黙り込む。

 このままずっと無言で食事を続けようと思っていると、ヴェーノが突然口を開いた。


「そうだわ、あなたに話があった」

「あったんかい!!」

「黙って聞きなさい。あなた、あの女神の秘密何か知らない?」

「秘密??」


(急に話があるというので何かと思えば、ロアのことか)


 ヴェーノはロアのことが好きではない。

 もちろん、俺のこともだが。

 前に、ロアは何か嘘をついていると俺に言った。

 確かに、俺もロアが何かを隠しているような気がしたがそれが何かは分かっていない。

 なので、正直に答えた。


「知らないな」

「やっぱり、使えないわね」

「うるせえ!」


 駄目だ。

 どう頑張ってもヴェーノと仲良くできる気がしない。

 この女は、俺のことを見下し過ぎだ。

 実際に勝てそうなとこなんて無いんだが……。

 そして、今度こそヴェーノは話さなくなった。

 

 無言のまま食事を続けていると、急にヴェーノの方が静かになった。

 もう終わったのかと思うと、その手が止まっていた。

 もうお腹が満たされたのだろうか。

 食事は、半分以上も手を付けていなかった。

 俺は不思議に思いつつも、自分の分を食べきった。


「悪い、待たせたな。もう行こうか」


 一応、俺が終わるのを待っていてくれたのかと思い詫びを入れる。

 そして、部屋に帰るため食器を持って立ち上がろうとすると。


「私が持っていくわ」


 先に立ち上がったヴェーノが自分の分と俺の食べ終わった食器を持って、カウンターに返しに行った。


「ありがとう……」


 ヴェーノの急な親切に困惑を覚える。

 いきなりどうしたんだろうというのだろうか。

 俺は、驚きでしばらく立ち上がることができなかった。


 酒場に出て、2階へ上がる。

 いつものように、一番奥の部屋前までやってくる。

 鍵を使って部屋に入ろうとすると、先に動いたヴェーノが部屋の扉を開けた。

 そして、しばらく部屋の扉を開けたまま立っていた。

 先に入れということらしい。

 俺は、そのヴェーノの対応にわけが分からなくなる。


「ど、どうした……?」

「先に入って」

「ああ、ありがとう?」


 なんだか、炭鉱のカナリアにされている気分だったが、ヴェーノから不思議とそんな感じがしない。

 それどころか優しさすら感じる。

 さっきから、どういう風の吹き回しなんだろう。

 絶対に裏がありそうな気がして、俺は気味が悪い思いがした。

 ヴェーノは、ベッドを見ると何かを思いついたかのように手を叩いた。


「そうだ。レイジは、こっち側で寝ていいわよ。私はこのスペースで寝るから」


 そう言ったヴェーノのスペースは、さきほど俺に提示した人一人分くらいしかない狭いスペースだ。

 これでは、寝返りを打てばヴェーノは、ベッドから落ちてしまう。


「おい、ヴェーノ、さっきからどうしたんだ……?」


 ヴェーノは、様子が明らかに変だ。

 いつもは、俺に敵意を向けてくるはずなのに、今は優しさしかない。

 こんなの絶対におかしい。

 俺の仲間の女聖騎士が、こんなに優しいわけがない!!

 一体何の冗談なんだと思っていると。


 ヒック


 急に、しゃっくりのような音が聞こえた。


「え??」


 今度はなんだと思って、ヴェーノの方を見てみるとみたことないくらい顔が赤く染めあがっていた。

 そして、ヴェーノはまたしゃっくりをした。

 これはまさか……!


(酔っぱらってる!?)


 嘘だろ。

 酒を一滴も飲んでいないのに、こんなに酔っぱらうなんて!

 しかし、聞いたことがある。

 飲酒した人間の呼気によって酔っぱらうこともあると……。

 確かに、酒場は非常に酒臭い空間だ。

 ヴェーノは、あの空気を吸っていて酔いが回ったのかもしれない。

 にわかに信じられないことだったが、現実に起こっているのだからどうしようもない。

 俺は、今夜この酔っぱらった毒姫と一晩を過ごさなければならないのだ。


「俺の、安眠が……」


 俺は頭を抱えてうなだれた。


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