修行と勇者
「修行させてください!」
俺は、バリー師匠に頭をさげた。
師匠もそんな俺の覚悟を認めてくれたのか、自分に付いてくるように言った。
そんなバリー師匠に続いて、俺は奥の部屋に入った。
入った部屋は広い和室部屋だった。
板張りや畳の床のつくりがいかにも稽古場といった感じを思わせた。
中には、高そうな掛け軸や壺もあり雰囲気だけでは修行する部屋として申し分ない。
「まずは体力づくりからじゃな」
バリー師匠は、俺の身体をマジマジと見ていた。
体力づくりか修行っぽいな。
ただ、俺は運動が苦手だ。
しかも、典型的な運動音痴でもある。
体育は五段階評価で万年『2』。
部活は、しんどくなそうという理由で、卓球部を選らんでいた。
だから、ちょっと緊張するな。
「とりあえず、腕立て・腹筋・背筋・スクワットを50回ずつ。これを1セットとして4セットじゃな」
「いきなりそれは、ハード過ぎやしませんか!?」
「何を言うておる。こんなもの序の口じゃぞ」
(これが序の口だって……?)
俺が所属していた卓球部では、先の1セットを行えば上出来くらいだった。
そんなレベルの俺が4セットも出来るだろうか。
だが、やるしかない。
早速、俺はメニューを始めた。
何とか、休憩を挟みながら言われたメニューをこなすことが出来た。
2周目からすでに身体に限界が出てきていた。
腕立てでは身体を支えられなくなり、腹筋では起き上がれなくなってきた。
それでも、負けるものかと何とか最後までやりきることができた。
筋トレとは、こんな辛いもので、だが達成感のあるものだと俺は異世界で知ることになった。
「さあ、次はランニングじゃぞ。ついて参れ」
俺は、筋トレメニューを終えて床でヒイヒイ言っていたが、ビリー師匠は気にせず外へ向かっていった。
(あの人、かなりスパルタだ!!)
俺は何とか立ち上がり、ビリー師匠に続く。
正直、スパルタタイプなど苦手だが、アドレナリンが出ているのか不思議と気にならなかった。
外に出ると、ビリー師匠は早速ランニングコースを説明した。
家の周りを周回するようなコースで1周200mくらいはあった。
「これを今日は20周じゃ。さあ、走れ」
「30周もですか!?」
「つべこべ言うな。とっとと走らんかい!」
ビリー師匠に言われて、俺はすぐに走り出す。
ランニングだって、俺は得意ではない。
卓球部の時も3km走れば、喝采が起きていた。
俺は、1時間以上の時間をかけ、何とか完走することができた。
走り終えたころには、すでに足の感覚が麻痺していて座り込むともう起き上がることができなかった。
地面に倒れ込んだ俺に、ビリー師匠は近づいてきた。
「今までのトレーニングによって、お主の筋線維は徹底的に破断された。この後、適切な休養と栄養を摂ることで、お主の筋肉は強化される。これでお主の身体のベースを作るのだ」
「はい、師匠!」
こうやって、筋トレを続けていけば俺は普通の冒険者としてやっていけそうな気がした。
武器がハリセンしか持てないのが手痛いとこだが。
「さあ、次の練習に移るぞ」
「何をするんですか?師匠」
「今からは、ひたすらツッコミの練習をするぞ」
「ツッコミの練習……?」
なんだか、良くない方向に向かっていきそうな気がした。
それとも、ツッコミスキルに関するものだろうか。
「まあ、見ておれ」
ビリー師匠は、静かに気を溜め始めた。
はあああ、という掛け声とともにビリー師匠の筋肉が膨れ上がっていくのが分かった。
これが、鍛え抜かれた肉体の局地なのか……!
「スキル『身体強化』!!」
「あれ?今普通にスキルを使いませんでしたか?」
俺が不思議に思っていると、力を溜め終わった師匠は掛け声と共に右腕を一気に彼方へと振り払った。
「なんでやねん!!!」
勢いよく放たれたバリー師匠の右手は空を切り、そして衝撃波を生み出した。
衝撃波はもの凄い勢いで飛んでいき、彼方にあった木々をまっすぐへし折った。
そして、バリー師匠はこちらを向いて言った。
「これが鍛え抜かれたツッコミじゃ」
(どんなツッコミだ!!威力高すぎだろぉぉ!!)
「驚いたか?これがツッコミを極めるということじゃ」
「ツッコミ関係あるんですか?!ほとんど、身体強化スキルによるものなんじゃ……」
「何を言う。この技はツッコミスキルによって強化されたタダの通常攻撃じゃ。つまり、ツッコミスキルとは、ツッコミによって技の威力を上げるスキルじゃ。」
要するにツッコミと共に攻撃することで単なる攻撃も強化できるということか。
俺は、ツッコミスキルが思った以上に、無茶苦茶だったことに驚きを隠しきれない。
これなら、俺の通常攻撃でもモンスターとまともに戦えるかもしれない。
俺は心臓の鼓動が早くなっているのを感じた。
やっと、ツッコミ勇者としての力を発揮できるかもしれないのだ。
(ここでツッコミスキルをマスターして、俺は最強の通常攻撃を手に入れる!)
「では、まずツッコミの素振り1000回からだ」
「ツッコミの素振り1000回ですか?!」
「いいから、早く始めなさい!」
バリー師匠に喝を入れられた。
ここは、つべこべ言わずに師匠に言われたことをやるしかない。
それで、さっきのツッコミを出せるようになるんだ!
それから、俺はひたすらツッコミを行った。
「なんでやねん!!なんでやねん!!」
ただひたすらとツッコミを続けた。
100回まで、割とすぐに達成した。
まだまだ余裕があった。
「なんでやねん!!なんでやねん!!」
まだまだ、ツッコミを続ける。
200回を超えたあたりから、数が曖昧になってきた。
自分が今、正確に何回ツッコんだか分からない。
それでも、まだツッコミを続ける。
「なんでやねん!!なんでやねん!!」
さらにまだツッコミを続ける。
すると次第に、なんでやねんという言葉が分からなくなってきた。
なんでやねんはどうしてなんでやねんというのだろう?
そもそも、ツッコミってなんだっけ?
俺は色々と分からなくなってきた。
それでも、俺はツッコミを続けた。
「なんでやねん!!なんでやねん!!」
いよいよ、頭がおかしくなってきた。
数は800回を超えたくらいだろうか。
それすらも考えられなくなってきた。
そして俺は、ついに倒れた。
身体が疲労で限界を迎えたようだった。
元々、運動が苦手な俺だ。
過剰なトレーニングは良くなかったかもしれない。
俺は薄れゆく意識の中で、ただ一つ思う。
「なんでやねんって何だっけ?」




