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未来からの神父

「争いをやめろ」


 低くそれでいって力の籠った声が聞こえた。

 声の方を見ると、1人の神父がそこにいた。

 すでに全員の治療を終えたのか、シュワちゃん神父がこちらに向かってきていた。

 しかし、その雰囲気には、得も言われぬ殺気を漂わせていた。


(なんだこれ!神父の放つオーラじゃないだろ!)


 俺は、内心でつっこむがあまりの気迫に怖気づいてしまっていた。

 今すぐにでも逃げ出したいくらいだ。

 だが、そんな恐ろしい大男に対して全く動じていない女たちもいた。


「どうしたんですか?神父さま?」


 リリスは、シュワちゃん神父の殺気に気づいていないのか、それとも単純に何もわかっていないのかいつも通りの様子だった。

 さすが、魔王の娘なだけある。

 そして、もう一人。


「何?私と遣り合おうって言うの?見た目だけは強そうだけど、勝てないと思うわよ?」


 あざけるようにシュワちゃん神父を挑発する毒姫だ。

 体格を考えてみても自分より大きな男に物怖じしないのそれだけ実力に自信があるからなのか。


「争いをやめろと言ったんだ!」


 シュワちゃん神父が怒るように言った。

 その気迫に俺は、思わず身じろいでしまう。

 まるで、シュワちゃん神父が膨れ上がっていくようだ。


「うるさいわね。あなたから先に始末してあげるわ!」


 毒姫は臆することなくレイピアを構えた。

 切っ先は真っすぐとシュワちゃん神父を向いている。

 対するシュワちゃん神父も、静かに背負っていたメイスを抜き放った。

 そして、両手でメイスを構え、ヘッドの部分を毒姫の方に向けた。

 その構えはまるでスナイパーライフルを構える傭兵のようだった。

 一体これから二人はどんな戦いを繰り広げるというんだ。

 俺は、一触即発の状態に息を呑んだ。

 やがて、シュワちゃん神父は毒姫に向けてメイスを発砲した。

 正確に言うなら、メイスの先から銃弾を発射したのだ。


「……!」


 広場に、重たい発砲音が響き渡った。


「やっぱり、ショットガンじゃねえか!」


 それに、不意打ちとはなかなか姑息な手だ。

 俺は毒姫を気の毒に思う。

 あれでは、無傷では済まされないだろう。

 最悪の場合、即死だ。

 元々、この世界に銃というものが存在していたのかは分からないが、鎧の硬度だけで防げるものには思えなかった。


 だが、打たれた毒姫に目立った外傷は見られなかった。

 存在していたのは彼女の足元から少し離れた地面に残った、焦げた後だけだ。

 そして、毒姫はレイピアを振り切った後のようだった。

 どうやら、毒姫は剣で弾丸を防いだらしい。

 とても信じられない話だが、この女騎士なら当然のことのようにも感じてしまう。

 俺には、一瞬の出来事すぎて何が起こったのか全く視認できなかった。


(この女、やっぱりどんでもない化け物だな……)


「これはお返しよ」


 毒姫は一瞬でシュワちゃん神父までの間合いを詰めると、神父のメイスめがけて突きを繰り出した。

 毒姫から放たれた凄まじい一突きは、シュワちゃん神父のメイスを粉々に砕け散らせると、さらにその先にあったシュワちゃん神父の右肩までも貫いた。

 そして、その勢いは消えることなく、シュワちゃん神父を遠方に吹っ飛ばした。


「なんかとんでもない、戦いが始まったんだけど……!」


 俺は、悠然と立ち尽くしたままだった。

 目の前で突然、神父がショットガンを撃ったかと思うと、撃たれた女騎士は銃弾を剣で防いだ。

 そして撃たれた女騎士が一瞬で神父まで詰め寄ったかと思うと、ショットガンから神父の肩まで、剣で一突きした。

 ここまでの闘いがあまりも一瞬の出来事だった。

 本当に戦いが起こっているのか認識自体ままならない。

 そもそも、二人が戦う必要があったのか疑問だ。

 こんなことする意味が本当にあったのだろうか。


「レイジさま……」

「どうしたリリス?」


 リリスが震える声で話しかけてきた。

 二人の戦闘を間近で見て、恐怖を感じたのかしれない。

 それほどにお互いの殺気は殺伐としていた。

 俺はリリスの気持ちが痛いほどよく分かり同情する。

 震えるリリスを抱きしめようかと思ったところで、


「…………あの、メイスかっこいいですね!」

「そこかよ!!」


 リリスは、目をキラキラさせて言った。

 この震えは単なる武者震いだった。

 俺は、子供ならではの無邪気さなのか何なのか、リリスのメンタルが羨ましくなった。


「さて、次はあなたの番ね。ゴミ虫」


 シュワちゃん神父に強力な突きを放った毒姫がゆっくりと、俺に向きを変えた。

 その目は、獲物を捕らえる狩人の目をしていた。

 まさか、ここで俺に来るとは思っていなかった。

 あんな突きを俺が食らえば、簡単に腕の一つはもげてしまうだろう。


「待て、俺はもう戦闘する意思はない。この子はとある事情で、一緒にいるだけだ。だから、毒姫には渡せない。諦めてくれないか?」

「無理な相談ね。その子は置いていってもらうわ」

「なんで、そこまでリリスにこだわる?!」

「そ、それは……」


 先ほどから、リリスへの執着はなんなんだ。

 リリスの正体に気づいているわけでもなさそうだし、リリスにこだわる意味が分からない。

 毒姫はその理由をまだ明かそうとはしなかった。


「というか、シュワちゃん神父は大丈夫なのか……」

「それなら問題ないわ」

「今度は即答かよ。何で、そんなことが言える?」

「今の突きは結構威力を込めたんだけど、手応えが全く無かったもの」


 そんなバカな。

 素人目に見ても、毒姫の突きはかなりのものだった。

 あれで、手応えがないとはどういうことなんだ。

 毒姫が嘘言っているのか。

 俺が疑問に思っていると、


「なかなかいい腕を持っているな」


 シュワちゃん神父の声が聞こえてきた。

 驚いて振り返ると、まるで何事もなかったかのようにシュワちゃん神父は平然と立っていた。

 毒姫に貫かれた肩の傷は綺麗さっぱり無くなっていた。

 まるで、最初から何も起こっていなかったかのようだ。

 それには、さすがの毒姫も動揺していた。


「まさか、無傷とはね」

「少々修復に時間がかかってしまったよ。全く派手にやってくれたもんだ」 

「修復したって……!やっぱり、ターミネーターじゃねえか!」


 この神父、ターミネーターだ。

 なんでこの異世界にそんな奴がいるのか分からないが、ここまで特徴が同じなら間違いない。

 毒姫もシュワちゃん神父が人間ではないことに気づいたようで、


「ただ者ではないと思ったけど、人間ですら無かったとはわね」

「フッ、そんなことはどうでもいい。私は、今ただの神父だ」


 明らかにただの神父じゃないんだが。

 俺は、ツッコミながら様子を見守る。

 この二人を止めに入っても、自分の身が危ないだけだ。

 これから更に殺し合いを続けるというのなら、即刻この場を立ち去りたい。


「で、まだやるつもり?」

「何か勘違いをしているようだが、私は誰とも戦うつもりはない」

「攻撃しておいて、よく言うわね」

「地面をよく見ろ」


 シュワちゃん神父が先ほどまで毒姫が立っていた付近の地面を指さした。

 俺たちは揃って、差された地面の方を確認する。

 すると、黒焦げになった地面にきらりと光る玉が見受けられた。

 先ほど、メイスから撃たれたと思っていたものは、銃弾では無かったらしい。

 俺は、少し焦げついた玉を拾う。


「なんだこれ……?」

「飴だ。お前たちが喧嘩しそうだったからな。飴でも舐めて落ち着かせようとしただけだ」

「だからって、あんな風に発射したら危ないだろ!」

「おや?君も飴が欲しいのか?」


 シュワちゃん神父が銃口をこちらに向けてきた。

 そのサングラス奥にある目は、赤い光を灯していた。


「あ、いや、すいません……」


 俺は、すぐに頭を下げた。

 あんな威力の飴玉を俺が食らえば、きっとひとたまりもない。

 それを脅しに使うとは。

 めちゃくちゃだ、この神父。


「争いはよくないことだ。お前たち仲良くするんだ」

「はい!シュワちゃん神父!」


 シュワちゃん神父の近くにいたリリスがニコニコ顔で手を挙げた。

 まるで、先生に諭された小学生のようだった。

 リリスは、どれだけシュワちゃん神父のことが好きなんだ……。

 餌付けでもされているのかと心配になる。


「ああ、その心意気だ」


 シュワちゃん神父は、リリスの頭を優しく撫でた。

 そして、飴玉を一つあげた。


「ちょっ、ちょっと……!」


 それを見ていた毒姫が何か言おうとしていたが、途中で止めた。

 相当、リリスに関心があるみたいだ。


「では、私はこれで失礼するよ。負傷者の治療も終わったんでね」

「また会えますか!?シュワちゃん神父」


 リリスはシュワちゃん神父との別れが寂しいのか、神父にそう問いかける。

 それに対してシュワちゃん神父は、右手の親指を立てると静かに言った。


「I’ll be back」

「最後まで、ターミネーターじゃねえか!」


 シュワちゃん神父は颯爽と教会へ帰っていった。

 出来れば、もう二度と会いたくはない。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 神父が面白すぎる! [一言] 毒姫はもしかしてショタコンなのですか?早く続きを読みたいです。
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