僕の愛しい人は、、、
大人気アイドル『光芒輝』
彼のバックには、いつも双眼鏡が入っている。しかも予備まであるという徹底ぶり。
「彼がそこまでして、見たいものとは何なのだ。」と、知っている者は誰もが思った。
彼が見たいものそれは、彼の太陽。即ち、白夜火輪だ。それ以外のものは、それ以外の者は、彼の眼に映りもしない。
光芒輝は、世界屈指の財閥『光芒財閥』の次男だ。明治時代から続く元華族で、光芒一族の出自をたどるという事は、歴史をたどるという事とほぼ同意義。
そんな名家に生まれたが、光芒輝はどこにでもいる男の子に育った。理由は、彼の両親が息子を自分たちのようにさせたくなかったから。
あの時、あの子に会っていなければ、彼はそのままどこにでもいる男の子に育ったであろう。アイドルにもなっていない。彼は存在していない。今の彼があるのは、彼女のおかげだ。
5歳になったばかりの日。幼き光芒輝は、父親についてきて『白夜邸』で開かれる茶会に来ていた。「お前と同じぐらいの年の娘もいるぞ」と、言われ、どんなの娘か、気になったのだ。
そこで見た光景は、彼の脳裏に焼き付いた。
『自分と同じぐらいの年の娘』とは、あの娘の事なのか?と、疑問に思う雰囲気をあの娘は持っていた。
大人離れした雰囲気も、なにも映さないようなガラス細工のような瞳も、何もせずとも壊れてしまうような体躯も、きめ細やかな白い肌も、風に揺れるきれいな茶髪も、全部、ぜんぶ、ゼンブ、
「今でも鮮明に思い出せるんだよなぁ」
それから彼は死に物狂いで、アイドルになった。彼女に見てもらうために。彼女のためだけに。
アイドルの仕事が安定してきたころに、一曲の歌を出した。作詞、作曲、演出。なにからなにまで自分で作ったラブソング。彼女はこれを聞いてくれたのだろうか。彼はそれを知るすべはない。
僕を見てくれない。