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儂には運が向いている。この時点ではそれは間違いないことであった。
聖都シュワイデンの城壁の外へ出ると、そこから道は二つに別れる。
1つはジャルディヤ帝国へと繋がる道。その途中には幾つか分岐点があり、その他の小国家や霊峰へと伸びている。
そしてもう1つは聖都のすぐ隣り、コーラルの森へと繋がる道だ。
ここは聖書にて、神シャルマンがシュワイデンに降り立った後、この森を訪れ、そこに住んでいたコーラルの森の民と交流したと言われている。
コーラルの森の民はシャルマンの為に社を造り、彼が去った後にそこへシャルマンを模した石像を置いた。
このシャルマンの社は今なおコーラルの森の中で信者たちに大切に保護され、また教会の信仰が集まる拠点の1つともなっているのだ。
儂は本当に運が良い。
魔力欠乏症を発症し、聖国の首都であるシュワイデンへ運ばれたのは、経緯は如何にしても幸運としかいいようがなかった。
儂が求める古代遺跡は、まさにそこにあるからである。
「おいおい、ほんまにこんなとこにあるんかいな?オレ未だに信じられへんねやけど」
ドルレイの問いかけを無視して歩みを進める。
儂には時間がない。
こうしている間にも我が魔力は着実に減少しているのだ。
それに古代遺跡攻略、それをこの少人数で為すには莫大な魔力が必要になる。
「あぁ、俺を信じろ。お前にこれまで味わったことのないスリル、ロマン、夢を提供してやる
」
「む……まぁ、それはめちゃくちゃ楽しみなんやけどなぁ。……まぁ細かいことはええか」
ドルレイは良くも悪くも単純な男だ。
儂と前回組んでいた頃には歳のせいかもう少し慎重さも身に付けていたが、この頃のドルレイは本当にテキトーな男である。
だが、こやつが本当にこの時代でも聖都に身を潜めていたのは二つ目の大きな幸運であった。
できればジャンクのヤツもいれば完璧なのだが、今は帝国へ向かう暇などない。
あまり欲をかいても仕方ないしな。前例もある。
野生の生き物というのは、凄まじく魔力に敏感だ。
自分より魔力の強い相手には、数少ない例外を除いてまず敵対することはない。
それに比べて人間のなんと愚かなことか。
高い知能と引き換えに魔力を察知することもできず(訓練した者を除けば)、相手との力量も計らずに己を貫く。
本能に忠実に生きる動物の方が余程好感が持てるというものだ。
コーラルの森、シャルマンの社までの道は不気味な程に静かであった。
原因は儂であることは確実だ。
普段なら聞こえる鳥の囀りすら聞こえぬ状況に、しかしドルレイは何も感じていない様子。
「みんな、お前にビビってるようやな」
そう言って儂にニッと笑いかけるドルレイ。
そうだった。コイツも本能に生きる男であったな。
中程から石造りに変わった林道は、長い間歩いていると足が痛くなる。
石と石の間に苔が生えた道は、些か歴史を感じさせた。
「着いたで」
ドルレイが近くの小岩に腰を降ろす。
その表情はニヤニヤと好奇心に満ちた様を崩さず、儂をじっと捉えていた。
シャルマンの社は、ひどく古びていた。
数本の短い木柱の上に、腐りかけた木製の屋根が取り付けられている。
嘘か本当か、この社は建てられた当時から何も改修もなしに建っているらしい。
そんなことはどうでもよいがな。
大きさは大人一人が腰を屈めて漸く入れる程に小さく、その奥には一体の男性の石像が安置されている。
1本の杖を右手に持ち、遠くを見つめるその男の名はシャルマン。
後世に神と呼ばれた人間だ。
社の周りは小さな広場のようになっており、そこには数人の信者の姿が見受けられた。彼らはみな社の方へ頭を垂れ、熱心に祈りを捧げているようである。
儂はそのまま社の広場を突っ切り、道なき森の中を進み始めた。
「ちょ、おいッ!どこいくねん!?」
後ろから慌てて走ってきたドルレイが儂の横に追い付く。
「目的地はもう少し先だ」
「いや、だってコーラルの森にはもうなんもないで?」
「森の民の村」
「は?」
「そこへ向かう」
「いやだから、は?そんなもんどこにも…っておい!」
儂は歩くペースを上げた。
道なき道を進むこと数十分、儂はとある2本の大木の前で立ち止まる。
もはや周囲には木しか存在しない。鬱蒼とした森の中である。
「もーほんまお前そろそろ説明せぇよ。オレもう帰るで?」
「見ろ。この2本の木。おかしいと思わないか?」
「は?……いや、普通やろ。強いて言うなら他の木よりなんか綺麗な気も……せんこともないけど」
儂は2本を見上げる。
目に魔力を集めれば、その木と木の上の方では枝が絡まりあい、見ようによっては「門」のように見える。
「よく見ておけよ。ドルレイ、お前は今から歴史的大発見者の仲間入りだ」
眉を潜めるドルレイを尻目に、儂は魔力を喉へと集め、大気に震わせて言葉を紡いだ。
『悠久の時の音が鳴くとき、汝らはその役目を果たす』
瞬間、ぐにゃりと曲がる景色。
「おっ?おっ??おおおぅっ!?」
それらは次第に色を変え、形を変え、そしてゆったりとある景色を創り出す。
「ほぇ〜……こりゃ、たまげたわ」
そこには木の幹にへばりつくようにして造られた家屋の建ち並ぶ、古代人の村があった。




