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忘刻の魔術師  作者: 鳶 修吾
プロローグ : 老魔導師
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初投稿となります。

プライベートが忙しく、また気分屋なため定期的な更新は無理ですが、楽しんで書いていければと思ってます。

拙い文章ですが、どうぞ生暖かく見守って下さるとありがたいです。笑

 あらゆるものを浄化する澄みきった空気。白き神樹フィロソフィアの群生するその深き森は、古きより〈神の森〉と呼ばれ神聖視されてきた。

 そこに住む生命はみな魔力を持たない。代わりに持つのは神力と呼ばれる神聖なチカラ。魔と対を成すそれは魔族・魔獣と同じく魔力をその身に宿す人間にとっても等しく害を成す。

 しかし、その神秘的な領域に古来から人々は憧れた。己が身を削りながら資材を運び、積み上げ、その時代時代で屈指の実力を誇った彫刻家たちが文字通り命を散らしながら精巧な彫刻を施す。そうして約三世紀を費やして人間が完成させたのがグラナンド神殿であった。

 神の森の最も奥に建てられたグラナンド神殿の内部には巨大な白大理石の石盤が置かれ、そこには神代の頃からの偉業を達成し人の世に名を遺した英雄・大賢者たちの名が刻まれている。

 ここに名を刻まれるということは、それ即ちあらゆる名声・富を超越した誉であった。






 神樹フィロソフィアの葉の間から降り注ぐ陽光は白く大地を照らし、まるでそこが現世ではないかのような錯覚を覚えさせる。

 時折見かける小動物や鳥の類はどれも皆白か灰色の毛や鱗を持ち、なるほど神の使いと古代人が呼んだのも頷ける。

 普段は人気の全くないその森の中を、一人の老人がゆったりとした足取りで進んでいた。

 彼は古びていながらも高級品であることが察せられる藍色のローブを纏い、先端に澄んだ紅の宝玉が填められた鉄製のロッドを杖代わりに使っていた。

 力強く大地を踏み締める足とスッと背筋の伸びた肉体からはそれほどの老いは感じられないが、短く切り揃えられた白髪と皺と細かい傷が無数に走った表情からは幾多もの修羅場を潜り抜けてきた歴戦の老兵の威圧が感じられた。

 とは言っても老人であることに変わりはない。魔を拒絶する神の森の神気に当てられた彼の額からは冷や汗が流れ、その顔の皺の溝を伝って落ちていく。

 常人ならば疲労困憊で座り込んでしまうような状況下でも、彼の異様に爛々と輝かせた瞳は常に前を向き、その歩みはとどまることはなかった。






 どれほど歩いただろうか。老人ーー魔術師ローラン・フィレンスは既に息絶え絶えとなっていた。

 歩くペースは加速度的に落ちていってはいるが、しかし彼の眼から異様な光は消えない。

 そして、ついにローランは大きく息を吐いた。目の前には巨大かつ荘厳な建造物が聳え立っていた。

 覚悟なき者を通さぬ、と言われるその正面入り口の左右には最強の代名詞たる二匹のドラゴン像が堂々と構えている。

 ローランは額の汗を拭い、もう一度小さく息を吐くと、先程よりもゆったりとしたペースで足を進めた。

 一歩近付く度に重力が増したかのように大きく強くなる威圧感。

 真っ直ぐに正面入口を目指す彼を鋭く観察するように、入口両脇に構えたドラゴン像ら四つの瞳がローランの姿を追う。



 中へ足を踏み入れると、数秒前ーー入口から建物内に一歩踏み入るその瞬間最大になった圧力が一気に消失した。

 が、彼はそんなことも意に介さず、それよか先程よりもずんずんと神殿内部を進む。

 顔色は明らかに悪化しており、唇は紫に変色してきているが、瞳の輝きは一段と強くなっているように感じられた。

 そして、彼はある巨大な石盤の前で立ち止まる。

 そこには左端上より順に、大量の人間の名前が刻まれていた。

 この世界に住むモノなら一度は必ず名を聞いたことのある英雄の名前。

 世間一般に知られることのないあらゆる禁術に手を染め、神の領域へと足を踏み入れてその身を滅ぼした太古の大魔導師の名前。

 この世の仕組みを根底から覆すシステムを考案し、人々の生活水準を劇的に引き上げた大賢者の名前。

 そして、先の大戦で魔王を滅ぼし、世界に平和をもたらした勇者の名前……。


 忌々しげに石盤を見つめ続けるローランの瞳には、勇者の名前の二つ下に刻まれた名前が映っていた。



 クロア・ダルディエ



 この石盤に刻まれているのは何も人間の名前だけではない。

 過去数人ではあるが、人間に与した魔族や亜人の名も刻まれている。

 クロア・ダルディエはその数少ない魔族でありながら、勇者パーティーの魔術師を務め、後に大魔導師の称号を授けられた天才魔術師の名であった。


 と、世間一般には思われている。

 しかし、ローランの持論は異なる。



「儂が勇者パーティーへ入っていれば、そこに刻まれているのはクロア、貴様ではない。必ずや儂であっただろう」



 ローブと同じ藍色の瞳の奥には黒い憎しみの焔があった。

 しかし、それを相手にぶつけることは不可能であった。


 石盤に刻まれる名前は、死者のみである。


この物語の世界観で、説明しておいた方がよいと思う箇所を1つだけ。

この世界では魔族=敵ではなく、あくまで魔族は人間から派生した亜人の1つでドワーフやエルフと同列です。

この世界における人間・亜人共通の敵対者としては「妖魔」という存在がおり、それを統べるモノが魔王と呼ばれています。

亜人に対する人間からの差別は多少なりとも存在しますが、時代の変遷と共になくなりつつある、といった感じです。

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