おまけ
_____王都アルデラの王宮にて。
ラルメリアはとある一室で、椅子に腰掛け、『主人』の帰りを待っていた。
王宮内は仕事に追われている人々が忙しなく動き回っており、基本的には賑やかだ。だが、この部屋は常に静寂に包まれている。
一人で住むにはあまりにも広い空間が静けさを増幅させるのか、あるいは主の穏やかな性格がこの部屋に反映されているのかもしれない。
ラルメリアは机の上に紙を広げ、覚えたばかりの魔法陣を書き写していた。その折、浴室へと続く扉が開かれ、一人の少年が部屋に入ってくる。
ラルメリアは素早く立ち上がり、少年、エリアルに掛け寄った。
「陛下、髪はすぐに乾かさなければ風邪をお引きになりますよ!」
「……コレットに乾かしてほしい」
「陛下。私は今職務中なんです。ラルメリアと呼んでいただかなければ困ります」
エリアルは唇を尖らせ、「コレット」ともう一度呟く。ラルメリアは困ったように眉を下げるも、それ以上訂正は求めなかった。
エリアルの肩に掛けられたタオルを手に取る。
「解除魔法」
ラルメリアが呟くと、エリアルの姿が光の膜に包まれた。中性的な顔立ちはそのままに、短く切り揃えられていた髪が長く伸び、体型が丸みを帯び始める。
1分も経たないうちに光は弱くなっていき、一人の少年は、顔立ちに幼さを残した可愛らしい少女に姿を変えた。
「……あの体には慣れないな」
「じきに慣れますわ。慣れていただかないと困りますもの」
不貞腐れているエリアルを椅子に座らせ、ラルメリアはエリアルの髪の毛を丹念に拭き始めた。
「国は代々女性が継ぐことになっているのだろう? 何故わざわざ、あの格好にならなければならないんだ」
「陛下はまだ年若いですから、今の地位を盤石なものにするには男の体の方が何かと都合が良いのですよ」
先代の王が亡くなって早くも5年が経つ。予想外のことであり、王の座を受け継ぐ準備は万全ではなかった。
アルデラの側近は非常に腕が立つが、何かと荒くれ者が多い。彼等のようなプライドの高い者は、自分が認めた者の言うことしか聞かないのだ。
今はまだ先代の女王の影響もあり彼等も大人しくしている。だが一生このままでいられるとも限らない。
そのため部下に舐められないようにする苦肉の策として、ラルメリアはエリアルに変身魔法をかけ、仕事中は男として振る舞わせることにしたのだった。
エリアルは側近の態度を思い出し、ぷるぷると体を震えさせた。
「どうして皆乱暴な言葉遣いをするのだ。丁寧に説明すればちゃんと理解してくれるかもしれないのに」
「仕方ないですわ。それがこの国の伝統なんですもの。陛下もちゃんとメンチを切れるようにしておかなければ駄目ですわ」
「私はあまり、そういうのは得意ではないのだ」
「得意でなくてもしなければ駄目なんです。あなたのお母様は、とても上手にメンチを切っておられたのですよ。それに比べて陛下は昔から喧嘩を売られたら泣いてばかりで_____」
説教の気配を感じ取ったエリアルは、慌てて話題を変える。
「そ、それより、君が召喚した勇者と聖女のことなのだが。ちゃんと二人に事情は説明はしているのだろうな」
長い髪をタオルに押し当てながら、ラルメリアは平然と答える。
「ええ、もちろん」
エリアルは納得がいかない様子だ。
「その割には、あの者達は街を一向に出て行く気配がないのだが」
「お二人にもお二人の考えがあるんでしょう。世界を救うより先に、まずこの国に巣食っている問題を解決しなければならないと考えているんですわ。その証拠に、あの二人のおかげで汚職を暴くことができましたでしょう?」
エリアルは唇を尖らせる。
「それはそうなのだが、私は汚職よりまず先に魔王を倒してほしいのだがな。内政が崩れている今を狙って向こうが攻めてこないとも限らないだろう」
エリアルの言うことももっともだった。長年国務を務めてきたローゼンシュヴァルツ家が失脚したことにより王宮内は立て直しに苦心している。
「今は国内で揉め事を起こしている場合ではないのでは_____」
「エリアル陛下」
ラルメリアは諭すようにエリアルの名を呼んだ。
「ご心配なさる気持ちも分かりますが、ここは私にお任せいただけませんか?」
ラルメリアは小さな体を背後から抱きしめ、耳元に唇を寄せる。
「……あの二人なら、きっと上手くいきますわ」
ここまでお読みくださりありがとうございました!
この話を元にまた長編を書くこともあるかもしれませんが、その際はよろしくお願いします。
ブックマークなどをしてくださると励みになります。
好きなキャラや展開などがあれば、感想に書いていただけると嬉しいです!




