復讐の剣
家からは海が見えていた。
いつも海岸に行っては海を見ていて、その向こうに何があるんだろうと考えていた。
「痛っ。」
後ろから頭を叩かれた。
後ろを見ると悪戯好きな兄の笑う顔。
「ケンはまた海を見ていたんだね。」
「俺は海が好きなんだ、兄貴は好きじゃない?」
兄は笑っていた。
「海はそんなにな、俺は兵士になりたい。」
「兵士になったら死ぬかもしれないよ。」
「大丈夫さ、俺は家族が腹いっぱい食べられるように稼ぎたいんだよ。」
兄の満面の笑顔を見て俺は自分が幸せだと思った。
夢が覚めるまでは。
強烈な打撃音。
嵐のような激しい力にその場は包まれていた。
地獄のようなその力に頭を打たれ、身体が舞い上がっていた。
衝撃と血の味、耳がよく聞こえない。
きーんと音が鳴り、口を空けても何も声が聞こえない。
身体が木へと打ち付けられ、自分が何故ここにいるのかを思い出した。
さっきまで自分が自分じゃなかったような。
自分が見ているのに自分では考えていなかった。
ケンは長い夢を見ていた。
幸せな夢だったと思う。
目を閉じると飢えて死んでいた両親、自分を守る為に死んだ兄の顔が浮かび上がる。
現実は地獄だ。
失うものは何もない。
ふと顔を上げると味方だった、自分と同じ鎧を着た兵士が子供に振り回されるおもちゃの人形のように舞っていたのが見えた。
ざまあみろ。
洗脳された角付は自分だけ、他は家族が処刑されないように来たものと、国のために好きで来た上役の兵士。
上役の兵士が首を上に吹き飛ばされ、身体を何かに打たれ、踊っていた。
家族の為に来ている連中も本当の事を知らない。
いくら自分が働いても家族に金は払われないし、人質だからといって守られない。
すでに死んでいるかもしれない、家族を守るために戦場に立つなんて本当に可哀想だ。
死んでいく仲間を見ながら、身体の状態を確認する。
自分の意思を失わせていた頭の金属の角は、半ばで折れていた。
鎧は壊れていたが、運よく手足はあるし、重傷もない。
本当に運がいい。
これは運命だ。
運命は俺に家族の仇を取れといっている。
笑いが止まらない。
高らかに大笑いしていた。
「絶対に殺してやる。」
ハイターと別れた後。
セイヴと帰り道を移動していたら、血まみれの男がいた。
見覚えのある破損のある黒色鎧に、頭に折れた角。
全体的にぼろぼろだが、目はぎらぎらとしていた。
角付は大体が頭のおかしい訓練を受けている
ヤバいやつじゃん。
「で、君はノースラージの兵士なんだね。」
「はい、特殊工作隊のケンです。」
「捕虜になってもいいの?国の為に死んでやるってタイプじゃない?国に家族は?」
「家族は死にました。家族を殺した国に復讐するためなら、何でもします。国なんてクソ食らえです。自白剤だろうが、洗脳だろうがなんでも大丈夫です。」
「そうなんだ~、君は失うものが無いタイプなんだね。」
後ろに下がってセイヴに小声で耳打ちする。
目は男から離さない。
「どうすんのこれ。どうするべき。」
「連れて帰るしかないでしょ。」
「ですよね、ごめんケンくんの両手拘束させてもらってもいいかな?」
「お願いします。」
従順に差し出された手に深くため息をついた。
戦車バレたら殺しにかかってくるんじゃないこれ。
部屋の奥に立派な大きなデスク。
前には大きな応接用の二組のソファ。
そのソファで上司とケイは向かい合って座っていた。
「君はとてもいい仕事をしてくれたよ。」
笑いかける上司の顔に、愛想笑いを返す。
「ありがとうございます、運が良かっただけです。」
「彼はかなり協力的だ。自白剤だろうがなんだろうが進んで何でもしてくれる。」
「国が家族の仇らしくてやる気にあふれているみたいですよ。」
「そうなんだよ、だから彼の協力もあって、かねてより考えられてきた作戦が君主体で進行予定になっている。」
「はい?」
何言ってるんだこのオッサン。
「責任重大な仕事だが、君なら無事やってくれると思っているよ。」
「重大な仕事とは。」
「協力者のケンくんと君たちの少数精鋭で潜入し、敵首脳部の暗殺をしてもらう。」
「ええ?」
「ええ?」
思わず本音が出てしまった。
上司が訝しげに眉をひそめる。
「いえいえ、ええと相槌を言いました。」
聞いてない。
ありえない。
まじかよ。
「健闘を期待してるよ。」
上司がにっこりと笑っていた。
悪魔のように見えた。
まじでありえんだろう。
上司と別れて深くため息をついた。
ケンを連れ帰って、本当に良かったのだろうか。
取り調べから彼は
兵舎の応接室。
机の上には真新しい黒色の鎧が置かれていた。
ノースラージの例の鎧とそっくり同じ見た目で、中身は別物、ここではノースラージと違って人は基本消耗品ではない。
「つまりは、君の案内で僕らが数人で潜入して、将軍を暗殺するってこと。」
こちらの嫌そうな顔とは対照的にケンは満面の笑みを浮かべていた。
「願ったり叶ったりじゃあないですか、おまけで何人か殺してもいいですか?口封じとかいろいろ必要ですし、死んだほうがいい奴ばっかりなんで。」
「前向き過ぎる答えでちょっと怖いな、それはいいんだけど、国に潜入しての暗殺だって分かってるのか?」
「分かってますよ、その為にこちらに来たので。」
「暗殺失敗したら、いや成功しても死ぬかもしれないの分かっているのか?」
「自分、復讐さえできたら死んでもいいので大丈夫です。にしてもこれ良いものですね、使うのが楽しみです。」
ケンは新しくもらった机上の鎧を手に持ち、嬉しそうに眺めていた。
新品なのに、わざわざ使い古したように汚してある。
「それにやっと夢が叶う。」
どこか遠くを見るケンの顔を見て、本当に彼を信じていいのか心配になった。




