侵略の影
いつもの不機嫌な上司の顔。
毎朝の朝礼の時間。
今日もおっさんは話が長い。
前半の話はあやふやになっていた。
どうでもいいと思ってしまうと、話が頭に入ってこない。
何故か眠くなってしまう。
「死体の発見場所はノースラージ連邦方面の峠道、夜勤の巡回兵が不審物を見つけ、不審物が逃走した先にて多数の死体を発見した。ハイター前へ、詳しい話を頼む。」
上司に呼ばれハイターが前に出る。
「はい、報告します。私が昨日巡回中、ノースラージ国境へ向かう外路上にて、前方へ大型馬車の様なの大きい衝角をもつ不審物を発見、逃走され馬にて追いましたが追い付けず、追跡中峠方向より多数の爆発音、峠到着時多数の死体を発見、一人残らず死亡を確認、鎧や所持品に身元判別のつくものはありませんでした。なお不審物の独特な走行跡も途中でなくなっており、所在不明です。」
「報告ありがとう、下がってくれ。」
はいっとハイターが列に戻る。
この忠犬が。
「一人残らず死亡していたということは、自害の可能性があるということだ。所属が分からないようにしているということは、所属が分かれば都合の悪い作戦行動にあったということだ。こういう命を顧みない狂信者の類、義理を欠いた国はほぼノースラージ連邦で間違いないだろう。これから宣戦布告、あるいは侵攻の証拠をつかみ次第戦争となる。君たち兵士の奮戦を期待している。これからも巡回強化よろしく頼む、以上朝礼おわり、解散。」
はああっと大きくため息が出た。
そりゃあもう本当は分かっていました。
あんな暗い色の揃いの鎧をつけた戦闘集団が、こちらの国の名乗りに対して無言で近付いて来るということは。
所属がわからなくとも、規模の大きい集団かつある程度資金力があり、この国に対して敵意を持ち、名乗りや弁明もない。
国家レベルの山賊、テロリスト集団。
戦争で負けても、国の代表が交代しても、復讐に燃え上がり、結局周りに迷惑をかけ続ける。
王が独裁者だからか、はたまた宗教のせいか。
この国が前に戦争で勝ったときにちゃんと解決してくれたら、こんな苦労はなかった。
「大丈夫?寝れてない?」
「いや寝れてる、ちょっと考え事してた。いつも眠そうにしてて申し訳ない。」
セイヴに心配をかけてしまった。
本当に睡眠障害があるのかもしれない。
昨日の夜更かしもあるかもしれないけれど。
「今日はどんな業務内容だっけ?」
「また話を全く聞いてないよね。」
「申し訳ない、頼りにしています。」
自分は抜けているから、セイヴが勤務の相棒で本当によかった。
「今日は別のとこと合同でさっき説明にあった場所の調査と巡回。」
「別のとこ?」
「ハイターのところのバディと一緒に。」
「ああ、あそこと。」
めんどくさい。
本当によりによってあの堅物なんて。
木々のしげる深い森。
峠道には未だに死体が放置してあった。
現場保存でその場は警戒態勢を維持されていたが、死体の腐臭がひどい。
「本当にくさい、死んだら死んだで迷惑。」
「不謹慎だ、そんな事言うもんじゃない。」
「ノースラージのクソ共に不謹慎もクソもない。」
「ノースラージかどうかまだ確定ではないし、彼らも不幸のあった一般市民かもしれない。」
背後からハイターの正論とその相方の会話が聞こえてくる。
この悪臭には悪態もつきたくなる。
ハイターの相方に同意したくなる。
あらためて死体を確認したところ、揃いの鎧と衣服に所属がわかるものはない。
皆同じように痩せ細り、無駄な肉が無い以上に身長も低めで、筋肉はあるが頬もこけており、普段から満足のいく食事を与えられていないように見えた。
鎧も最新の魔導鎧というわけではなく、魔力を流せば硬化する程度のもの。
「どう思う?」
「ノースラージの恵まれない生まれの兵士ね。」
間髪入れずのセイヴの答え。
わかるでしょといいたげだった。
「たまにある、ノースラージの謎の潜入工作員、野盗、人攫いと同じ特徴だもんな。」
まさにそれなのだろうけれど。
手足欠損や致命傷のない兵士も軒並み死んでいる。
自決のルールがあるのだろう。
死人に口無し、証拠隠滅のために死んでいる。
「じゃあ彼らを仕留めたのは誰だと思う?」
私ですと言えたらどんなに楽か。
「正体不明の召喚獣、ゴーレムかな。」
「こないだの寮を壊した愉快犯が、私たちの国の正義の為に戦った。」
「正義なんて大げさな。」
「ハイター、あれはどう動いたんだったっけ?」
「我々の前に現れた際、向きを反対に変えて逃亡しました。」
ハイターの方を見ると相方の姿が見えない。
「私たちの前からは即座に逃げて、正体不明の兵士を確認して即座に攻撃した。」
「あれは我々の味方側だと言うことですか?」
「敵ならあなたはもう死んでいたかもしれない。」
「そう簡単には、」
「魔導鎧を紙のように引きちぎる攻撃を、目の前で不意にうけて無事ならいいけれど。」
「それはそうかもしれませんが。」
「味方だと決めつけてもいけないものでしょうけれど、あなた達には攻撃をしなかった。」
「わかりました。見つけても、丁寧に対応します。」
「そういえば、あなたの相方姿が見えないようね。」
「はい、ってあいつどこに、すいません探してきます。」
ハイターが逃げるように速やかに走って行く。
それを見送ってから、セイヴはこちらを見た。
「これで良かったんでしょ。」
「何がかな?」
何を知っているとも思うが、セイヴは勘がいい。
いつも考えていることを見透かされている気がする。
しかし言うわけにはいかない。
「件の召喚獣は、最近出るようになった。そういえばあなた召喚獣は出るようになったの?」
「僕の召喚獣はまだ分からないままなんだよ。」
「まだなんですね、私は新たに召喚獣を呼べるようになった者が今回の事件を起こしたと考えています。誰かは分かりませんが。」
真っ直ぐにこちらを見ながらセイヴは言った。
勘のいい子は嫌いだよ。
絶対俺が犯人と思っているだろこれ。
「本当に誰かな、全然分からない。」
「どこかの誰かさんが、寮の銅像の清掃やらされているときに、いつか像をばらばらにしてやるって言っていたような気がする。」
「そんな事言っていたかな、全く覚えてないな。」
ふと見上げた空は、雲一つなく綺麗な真っ青だった。




