素晴らしき鎧
魔導鎧と呼ばれるものがある。
魔力が伝わりやすいミスリル鉱石を使って、装備者の魔力で性能を上げ、それぞれの魔力に呼応して変形する。
夢の様にかっこいい最高装備だと思っていました。
フルプレートの全身鎧なんて男の子の夢だと思っていた時期が私にもありました。
この世界では誰もが魔法を使う。
鍛えれば誰でも簡単に人を殺せる。
後ろからの不意打ちなんて食らったら、簡単に死ねてしまう。
それを防げる画期的な魔導鎧。
魔力を遮断し、剣撃も当然防げる。
それだけの装甲があるのだから、重いし、密閉性から暑いし、身体能力を魔力で上げれるが、魔力にも限りがある。
ち
「暑いよ〜、しんどいよ〜」
そんなフルアーマーで街を巡回なんて拷問。
思わず声に出る。
最高の武装で犯罪者を威圧し、なおかつ安全に働ける。
これさえあれば、後ろから破壊魔法をかけられようが安心さ。
偉大な像を破壊した犯人を、当の本人が捕まえようとしている無駄な職務内容
「みんな不安になるから、変な弱音やめなよ」
「ぬぉっほ、後ろおるんかい!」
自分の鎧の音でわからなかった。
振り向くと鎧同士ぶつかる。
真後ろにセイヴがいた。
「一般の国民も近くにいるんだよ、私達だけじゃないんだからさ」
「いやいやすぐ真後ろから、」
いいかけてやめる。
周りの視線が痛い。
国の兵士が、市民の前でふざけあっている。
そうとしか見えないよな。
「とりあえず移動しよう」
特徴から噂、個人特定、上司からの叱責の流れは避けたい。
早歩きでその場を離れる。
隣をガシャガシャと鎧の音。
隣を見るとセイヴと目が合う。
鎧の音、聞こえるよな。
そもそも、巡回しても犯人いないのにさ。
新しい魔法を得ても、バレそうで使えないし。
全部自分が悪いんだけどね。
今日からしばらく巡回業務ばかりだ。
演習はないから、きつい、きたない、飢餓の三重苦はない。
夜はちゃんと屋根のあるところで寝られる。
ありがたい勤務だ。
ケイは寮のベッドで横になっていた。
新しい力を試すのだ。
ゲームをする感覚で、正面に画面を浮かべた。
今日は外に戦車を出しておいた。
高速で走れる軽戦車だ。
レオパルト、コンパクトでスマートな形状。
機関砲塔装備の可愛らしい戦車は草木とカモフラージュネットで隠蔽してある。
それを車体上から見下ろしていた。
画面に映る戦車を前進させる。
戦車のライトで
ふぉーんとエンジン音を上げ、戦車が地面を跳ねる。
右に曲がればドリフトする。
なんて素晴らしいんだ。
速い、速すぎる。
そしてこの操作性。
おっと。
戦車が曲がり損ねて木にぶつかる。
ばきばきに木が倒れた。
戦車にも少しダメージが入ってる。
やってしまった。
やる気なくなるな。
直るのかなこれ。
戦車を格納する。
画面が格納庫へ切り替わる。
ここは実際に入れないはずのゲーム同様の画面。
他にティーガーが入ってる。
弾が高くて買えない。
魔力で買えるがなかなか回復が間に合わない。
使いすぎると普段遣いに困るし、あっ直った。
修理も魔力消費、魔力をゲーム内課金状態。
今まで溜まっていたゲーム内通貨はつかってしまっている。
気軽に使えそうな弱くて安い戦車を使うべきなのだろうけれど、好きな戦車をつかいたい。
レオパルト再出撃する。
選択により同じ場所に戦車配置。
画面上、戦車の前に馬に乗った巡回兵がいた。
顔は分からないが所属は同じと鎧で分かる。
やばいやばいやばい。
急速旋回、急発進。
砂煙を巻き上げ、戦車を走らせた。
最高時速60キロだ。
追いつけるわけがない。
背後にカメラを回すと、追いかけようとしているのは見えた。
戦車なのに車のような速度で走るこの軽快さ。
最高じゃないか。
街を離れる方へ道沿いを移動していた。
幸いにも道先に人はいなかった。
いれば最悪ひいてしまうかもしれない。
追手を引き離して冷静になってきた。
さすがに無関係な人間をミンチに変えるのは、罪悪感で目覚めが悪くなる。
走り屋が夜の峠でドリフトしている時、対向車はヘッドライトで分かって避けられるなんて言うが、言っているだけだ。
自分の命を軽くみるような連中が他人の命について深く考えるわけがない。
視界の悪い森の峠にはいり、車体を安定してコントロールできるまで速度を落とした。
この先はしばらく何もないはずだった。
峠をしばらく走っていると向こうに複数の人影があった。
戦車のエンジン音は向こうにも聞こえている。
普通に走ってきているのだから、向こうがこちらに気付いていないはずがない。
抜剣し警戒態勢を取られた。
こちらもすぐ逃げられるよう、場合によれば突撃もできるよう距離を空けて戦車を停める。
スピーカーあるかな。
「こちらはイーストランド正規軍、だ」
いけたいけた。
国名を名乗り続きどうしようか一瞬考える。
正規所属部隊名なんて言えるわけがないし、咄嗟に何も思いつかない。
見慣れない、暗い色のマントで鎧は見えない。
兜で顔も見えないし、どこの所属かも分からない。
互いに頷き合うとこちらへじりじりと近付いて来る。
鎧の発光、活性化、戦闘体勢に入ってる。
待て待て待てどうするこれ。
味方か、それとも撃退したほうがいいのか。
そもそも後ろから味方が近付いて来ている。
このまま撤退し、これが敵なら味方に被害が出る。
ああもういい。
「こちらはイーストランド、そのまま名乗りなく近付くならば敵対勢力と判断し攻撃します」
相手は止まらない。
はい全速前進。
機関砲で不意打ちして、助走をつけ轢き殺そう。
キャタピラが
土砂を巻き上げ。
どぱぱぱぱっと機関砲掃射で前面道路上の人影をまとめて薙ぎ払う。
魔法鎧を活性化しようが関係ない。
対戦車用の弾で貫けないわけがないのだ。
よっしゃゃーー。
破壊の風景、吹き飛ぶ人影に戦果思わず興奮してしまった。
高速での突撃。
人体に戦車で乗り上げ、戦車が跳ねる。
前面装甲でぶつかった者ははね飛ばし、圧倒的な重量差を発揮した。
1人2人3人と続け様に道路上の人影を轢き、通り過ぎる。
道から横へ、数人斜面に転がり逃れた方へ砲塔を向け、更に機関砲を掃射する。
砲弾が暗がりの中、木々を土砂を巻き上げた。
仕留めたかは分からないが、森の中斜面を探すことは現状できはしない。
車体を急旋回させ来た道を念のためもう一度轢きなおした。
万が一敵が生きていれば、ここへ前進中の巡回兵へ危害が及ぶかもしれないし、戦車の情報が巡回兵へ伝わるかもしれない。
後は巡回兵が身元を調べてくれるだろう。
咄嗟に判断してしまったが、殺した兵士が間違いなく敵であることを祈る。
念のため戦車をその先へしばらく前進させたが、他に兵は見当たらなかった。
この方角、この先にあるノースラージ連邦国はろくでもない国だ。
不可侵条約を結んだ後で騙し討ちに侵略戦争を仕掛けるような、全く信頼のできない常識が通用しない国なのだ。
ノースラージの人全てが悪いわけではないだろうが、騙される前に殺したほうが良いのではないかと偏見を感じてしまっている。
戦車を格納し格納庫の画面を閉じた。
とりあえず今日はこれで終わりにしよう




