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51. 親しい友と恋心

「フリオニール。フィオナ孃は今、何をしてるんだい?」


「……何故、俺に聞く」


「だって、恋人だろ。それに、魔力で相手の居所も探れそうだし……、何をしているかも分かるんじゃない?」


「……お前は、魔導士を何だと思っている」


「うーん、これと決めたら一直線、脇目も振らずに獲物を追う猟犬? かなぁ。探すのも得意そうだし……。も、もちろん! 優秀なのは認めてるよ」


「ふーん。では、お前には優秀な女魔導士を紹介してやる。四六時中、しっかりと愛されるがいい」


「うわっ、まじで! 本当に分かるんだ!」




 魔導士の評価に不埒(ふらち)な発言が混じる人物は、王太子のレオンハルトだ。


 王国の魔導士たちを束ねる身として発言内容には許せないものがあるが、国主となる存在に逆らう気はない。

 ……というよりは、訂正するのが面倒くさい。的を得ている部分もあるからだ。



(ふん、フィオナの居場所を探って何が悪い……。心配しているだけじゃないか)



 執務室内で、側近としていつものように補佐をこなすフリオニールは、傍目(はため)には平常心を保っている。

 しかし、幼馴染みであるレオンハルトには分かるらしい。フリオニールの集中力が欠けているのが。それが先程の「魔導士は猟犬」発言に繋がっている。




 レオンハルトは、執務机の上に山積する書類を片付けることよりも、王宮を賑わせている噂の当事者に話を聞くことにしたようだ。

 官吏(かんり)たちを退出させると、室内にはさらに気楽な雰囲気が漂い始める。


「でもホッとしたよ。こうした会話ができるのも、フィオナが無事だったからだ。魔導士長の指輪を使いこなすなんて誰にでもできることじゃないしさ」


「……そうだな。それには同意見だ」


「だろ!」



 レオンハルトは続いて、もしもの話だと前置きし、フリオニールに問いかけた。



「今回のことでフィオナが命を落とした場合、蘇らせることができたのか? ほら、……アルスカイザー家の秘術を使って、とか」


「できないな。お前も知っている通り、あれは一度きりしか使えん。お前の命を蘇らせるためだけの秘術だ。他の者には使えない」


「王族限定ではないと聞いているよ。愛情を優先させて使ってしまうこともあるんじゃない?」


「……。そうならないために、アルスカイザー家を継ぐ者は、感情を制御する訓練を積む。継ぐことが決まった時、まだ子どもだった俺には、お前という試練が課せられた。……身に覚えがあるはずだ。昔から俺の気に障ることを何度も仕掛けてきやがって」




 アルスカイザー家当主の歴史を(さかのぼ)れば訓練内容は実に多様だ。個人差があるためと理解してはいるが、フリオニールに課せられたのは、何故か「レオンハルトと一緒に過ごす」ことだった。



 フリオニールとレオンハルトは歳も近く、後継者に選ばれる以前から幼馴染みといえる関係だった。勉強の合間に、遊びや喧嘩もする間柄ではあったが、フリオニールが後継者に選ばれてからは、現在の二人のように、日中は一緒に過ごすようになったのだ。

 たまに、レアン公爵家のジークフリードやクーザー侯爵家のディーンとも交流するので、「いつも二人」というわけではないが、二人だけの時間が格段に増えた。



 そうなると、無邪気な笑顔の下に本音を隠し、子どもながらに王族としての才覚を発揮していたレオンハルトは、フリオニールに悪戯を仕掛けてくるようになった。


 特に、レオンハルトの天使のような見た目から繰り出される悪戯は判断が難しく、フリオニールは幾度となく騙された。悪戯は些細なものだし、賢さが増した今と比べると他愛もないものだが、繰り返されるとそれなりに腹も立つ。

 驚いたり泣いたりしても相手を悦ばすだけなので、吹き荒れる感情は内に潜め、やり返す策を練る毎日を過ごしていた。


 訓練らしい訓練はなかったが、それなりの成果は得られたのかもしれない、と思う。



 フリオニールは、何事にも感情を揺らさず、妖しい魅力で如才なく受け流せる魔導士へ……。レオンハルトは、生来の腹黒さが増し、猜疑心と策略に長けた王太子へと……。


 ……貴族社会を牽引する二人の立場上、必要な資質であろう。



 レオンハルトに認められた今では、側近として、また腹を割って話せる親友として絶対的な信頼関係を築いているが、それまでの道程(みちのり)は苦難の連続だった……と、フリオニールは懐かしく振り返る。




「そうだった! 思い出したよ。不思議な色合いの瞳が涙に潤む様は、特に可愛かった。でも私だって、お前にやり返されて散々泣かされたんだ。……忘れたとは言わせない。お互い様だろ。……それに、話を逸らそうとしても駄目だから。否定しないんだな、フィオナのこと。恋人って言っても」



 レオンハルトの言葉に、フリオニールが少しだけ動揺する。


 噂好きの貴族たちが、王宮のそこかしこで騒ぎ立てている内容は、「フリオニールに恋人がいる」というものだ。

 静生宮の窓からフィオナが転落したという事実よりも、フリオニールとフィオナの事故後の様子から推測した2人の関係が、今、王宮中を賑わせている。



「……お前には譲らないと決めたから、否定しないだけだ」


「あれ? 私が気に入っているの気づいてて、手に入れようとしてるの? フリオらしくないねぇ」


 レオンハルトが眉をひそめる。しかし、怒ったような素振りはない。



「俺は自分のために、フィオナを守ると決めた。お前のために生かされている俺に、生きる意味を教えてくれる。……フィオナのような女は初めてだ」


 フリオニールは思い出したように苦笑した。



「魔を宿した俺を人間に戻してくれる、そんな凄い女なのに、……俺が側にいても上の空だし、逃げだしたりもする不可解なやつだ。俺よりもウォルスやストラスが側にいる方が嬉しそうなのは悔しいが、俺を見てくれと願ってしまう。……フィオナのために生きたいと思った。俺の命が尽きるまで、傍で見ていたいんだ」


「ふーん、そうか……。王国一の忠臣が聞いて呆れる。そんなに気に入ったんだ。フリオニールに望まれる女性なんて、正直、現れないと思ってた。でも……あるんだね。希望が持てるよ」



 私にもあるかな、と明るく口にするレオンハルトに、フリオニールは確認するように問いかけた。



「お前はいいのか? フィオナを気に入ってるんだろ」


「……それ聞くの? 勘弁してよ。私がどんなに頑張っても敵わない。フィオナはきっと、フリオニールを選ぶさ」


「……すまん」


「謝ることない。フリオニールとフィオナの出会いは運命だ。ウォルスには視えていると思うよ。フリオたちの未来が」



 レオンハルトは清々しく言い切った。王太子の自分のために、命を削ってまで仕えてくれるフリオニールには負い目がある。そんなフリオニールの人生に寄り添える女性が現れたのだ。親友として心から応援したいと思う。



「……ところで、ウォルスは?」


「フィオナと一緒にいる」


「……もしかして監視? さすがに、引いちゃうんだけど。……で、フィオナはどこで何してるか教えてもらえる」


「逢美宮で、マーベライト伯爵令嬢と会っている」 


「えっ! ネックレスを奪ったっていう令嬢じゃないか」


 レオンハルトは驚きの声を上げた。

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