結界守
朝食を食べ終え外に出る。
爽やかな風が吹いていて気持ちがいい。
「ごちそうさまでした」
涼多たちは名月たちに頭を下げる。
「そう畏まっていると、これからの生活、身が持たないのだ……」
「そうっスよ!」
そう言われても……だ。
その時――。
「蛍、朝からいないと思ったら、ここにいたのね」
春が小走りでやって来た。
「春さん、おは――」
挨拶をしようとするより先に蛍が口を開く。
「お姉ちゃん、誰だっけ?」
(え?)
涼多たちが困惑していると「お気になさらず」と言った目を向けられる。
名月たちも、気にした様子はない。
何か事情があるようだが、無闇に踏み込んではいけない気がした。
春は、少し目を伏せる。
「……私は春、あなたの姉よ」
「…………あ、そうだったね」
少しの間があった後、蛍はそう答えた。
それがあまりに軽い口調だったので、涼多たちは驚いた。
春は蛍の手を取り、涼多たちに向き直る。
「すみませんが、私たちはこれで……」
悲し気な笑顔でそう言うと、手を振りながら去って行った。
◇◇◇
来るときは誰もいなかった道だが、今は多くの妖怪や神々が行き交っている。
とはいえ、涼多たちには違いがよく分からないのだが。
「間違われて目くじら立てる者はそうそういないのだ。数え方も『人』で構わないのだ、神のあたしが許すのだ」
「え、名月って神様だったの?朝顔の化身かなんかだと思っていたよ」
奏の言葉に、名月はニッと笑う。
「随分前に廃村になってしまったが、ある村で産土神をしていたのだぞ」
「……やっぱり、今からでも『様』ってつけたほうが――」
「却下なのだ!!」
二人のやり取りを横目で見ながらふと前を見ると、昔、歴史の教科書で見た木造灯台のような建物があった。
十メートルほどの高さがあり、灯火部分が淡く光を放っている。
「名月さん、あの建物は何ですか?」
「あたしたち、結界守の職場、結界台なのだ。ほら、入口の扉に――」
叶望の質問に、名月は『結界守』と書かれた扉を指差し言った。
「ここ以外にも遠く離れた場所に幾つか町がありまして、それぞれが町全体を覆うように結界を張っているんスよ。危険な生物も多いっスから」
目を凝らして空を見ると、うっすらと透明の膜ようなものが見える。
こうしてみると、巨大なシャボン玉の中にでもいるようだ。
「虫が料理に入らないように食卓カバーをかけるのと同じなのだ」
「前々から思ってたんスが、名月さんの例えって軽くないっスか?」
「むっ、分かりやすくていいと思うのだ」
蕉鹿は「どういうものかと言うと――」と続けた。
「ルテさん、薄氷さん、名月さん、ボクの四人で交代しながら、この町全体に結界を張り続けてるっス」
「あの中に結界を張れる装置があるから、そこに力を流し続けるお仕事なのだ」
結界、張る、装置、力を流す……とは?
あまり、よくわからないが、ハードな仕事だというのはわかった。
「約一ヶ月間、籠りっきりになるっス。その後、数日は体が怠いっス。ルテさん、交代した次の日にあんな騒動があってホント災難っスよね」
「今頃、家で熟睡していると思うのだ。でも、この結界がある限り外部から厄介なモノが入って来ることはないのだ!」
(…………ん?)
思わず、顎に手を当てる。
名月の言葉に、何処か引っかかるものを覚えたが「次の場所に向かうのだ」と言われ、歩いているうちに忘れてしまった。




