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9・平氏を蹴散らして候

 言うが早いか駆け出していく静。大丈夫か、アレ。


 佐藤家の用意した十騎は継信、忠信兄弟とその配下だった。


「義経殿、我ら、お館様の命により参陣いたします」


 継信達十人は旅装で荷物を担いだ状態だった。まあ、まさか平泉から妖装で出かける訳にも行かんのだからそうなるだろうけど、その横で得意顔の静だけは不穏だった。


「戦の只中だから山賊も少ないだろうが、多少の肩慣らしぐらい居るだろ」


 まあ、コイツの考えることはそのくらいだろうな。


 という事で、僕も旅装に長刀という出で立ちでのんびり戦場を目指すことになった。


 さて、平泉から白河の関までは何のトラブルもなく旅が出来た。


 というのも、静が通る度にこの辺りに居た野盗、山賊の類を潰してまわっていたのだという。相手からしたらどれほど迷惑か分らんが、探鉱の際に出会った山賊連中とOHANASIしていた僕が言うのはあまり説得力がないかもしれない。

 白河の関を越えても比較的静かだった。きっと、山賊連中も一獲千金を夢見てどこぞの豪族にでも帯同してるんだろう。案外、豪族自身が山賊を飼っていたのかもしれないけど。


 全く準備運動にならないと静が不満を口にしているが、こればかりは仕方がない。居ないんだもの。


 まっすぐ兄頼朝の許へと思ったが、今の時点で行くのはどうかと思う状況だった。何より、静が騒がしい。


「戦やっとるぞ!加勢すっぞ!」


 ウロウロしていると戦場を見付けたが、一体誰と誰なのか僕にはわからない。そもそも、現時点でアレが何派の集団なのかも分かっちゃいない。下手に加勢していきなり兄と対立するのもどうかと思う。


 つか、旅装といいながら、脚装で出て来たもんだから着くのが早すぎる。静に案内を任せたのも失敗だったんだろうな。


「まて、アレは誰で、どこに属してるんだ?兄の対立陣営や対抗派閥だったら目も当てられん」


 そう言うと、実は深く調べていない静は拗ねだした。


「良いじゃねぇか、名乗らず加勢してサッと引けば良いんだ」


 いや、そう言う訳にはいかんだろう?


 何とかその場を離れて史実に近い時期まで坂東を見て回りながら時間を潰していた。


「お前ら!何者だ!」


 富士山麓を散策していると武士の一団に出くわした。


「誰でも良いだろうが!お前らこそ名を名乗りやがれ!!」


 体を動かせない狂戦士が苛立ちのまま喧嘩を売った。そうとしか言いようがなかった。


「我は長田入道、お前は何者だ!」


 入道って坊主か?


「ハッ、コイツは弁慶だ。入道とやら、弁慶とどちらが上か力比べして見ろ」


 何で僕に振る。話がオカシイだろ、このバカ!


 第一、相手は見るからに妖装鎧だ。といっても、僕が作った奥州の鎧から比べたらかなり落ちる。防御力はともかく、膂力だけなら旅装ですら勝てるんじゃね?


「ほう?京で一時期噂が有った弁慶というのはお前か?まるで女子だな」


 入道とやらが僕を見る。


「弁慶と名乗ったのは確かだし、五条の橋で騒いだこともあったが、まさか、富士の裾野まで名が知られていたとは恥ずかしい」


 入道がどこの出身かは知らないが、妖装使いとして聞き逃せない情報だったんだろうな。


「ほう?無双の弁慶とやらはなかなかに恥じらい深いらしいな。が、お前が弁慶だというなら、俺の槍を受けてみろ!!」


 そう言って問答無用で槍を振り下ろしてきやがった。危ない奴だ。喜々としてこちらを見て喜んでいる狂戦士もどうかと思うが。


「準備運動は弁慶がやっとけ、後は俺が暴れてやるよ」


 何がやりたいんだこのバカ。


 入道の振り下ろす槍は、当然ながら静や奥州で相手をしていた連中に比べて鈍く遅い。コレが妖装の差って奴なんだろうか。


「フン、まぐれだろ?」


 入道はそういうが、その妖装が弱すぎるだけだとはさすがに言わないでおいた。


 ブンブン槍を振り回しているが、まあ、奥州でそれをやったても笑われるだけかもしれん。あまりに妖装に頼りすぎていて慢心が丸見えだ。


 軽くそれらを避けてひらひら逃げ回る。


「それが弁慶か?それではうわさに聞く牛若ではないか!」


 などと怒鳴りだす入道。


「そうだな、そこのバカに牛若弁慶と言われたこともある」


 と、軽く応じる僕。


「余裕ぶりおって!!」


 渾身の一撃だろう突きが来たが、これでようやく奥州の普通だろうか。


 ヒョイっとそれを避けて長刀を一閃した。


 自信に満ちた顔が宙を舞いながら驚愕へと変わっていく。僕はそれを見ながら、そう言えば、ギロチンに掛かったヨーロッパの研究者が弟子に断頭後に瞬き出来るかどうか見させていたっけなと、まるで場違いな事を考えてしまった。 

 

「入道討ち取ったり~!!」


 バカが叫びながら集団へと突撃かましやがった。どうやら狙いは他にも居る妖装らしいが、まあ、防御の甲斐なく頸や腕が飛び回ってやがる。



 しばらく暴れた静と冷静にそれを弓で支援していた佐藤兄弟。妖装の弓は予想していたが威力がありすぎる。

 昔見た映画の少年は、射た相手の頸を飛ばしていたが、佐藤兄弟のソレは鎧や丸胴などの防具関係なしに貫通してやがる。下手をしたら串刺し状態だ。えげつねぇ~と、開発した僕が言うのは間違っているだろか?



 静が妖装を手当たり次第に倒してしまった事で、集団は壊乱状態となって逃げ散りだした。


「山賊よりマシだったな!!」


 ニコニコしながら何言ってんだ?この狂戦士は。


 どうやらより数の多い集団が接近してきたのでその場を逃げる様にはなれることにした。増援なら面倒だし、この辺りに頼朝軍はいない筈だから、違う源氏軍に会うのも控えたかった。



 はしゃぐ静を小脇に抱えて十分に距離をとったところで立ち止まった。


「もう一戦させろよ。まだ体が訛ってるんだ」


 いや、もう十分だと思うぞ?


 未だ戦いたがる狂戦士を宥めてどうにかやり過ごしていると、投げやりな勝鬨が聞こえて来た。そりゃあそうだろう。騒ぎを聞きつけてきたらナントカ入道が頸を飛ばされてるんだ。敵方ならば一応そうなるよな。



「アレが甲斐源氏、武田の軍勢だ」


 などと得意げに言う静。しかし、調べて来たのは佐藤家の者だ。静ではない。


「どうやら川を挟んで向こうは平氏の軍勢らしいな」


 しばらく武田軍の周囲で動きを見ていたら川の向こうに陣取る赤旗軍団に巡り合った。


「よし、夜襲だ、夜襲!」


 静がまた暴れたそうにして夜になるとそんな事を言いだした。


「待て待て、相手は何万も居るだろ、単騎で飛び込んでどうする」


 そう止めたが、まあ、あまり意味は無かった。


「だから、お前も付いて来ればいいし、佐藤は来るぞ」


 いや、お前が来いと言ってるだけだろ?


「待て、武田方の準備も出来ないうちにそんな事をやって何の意味があるんだ?」


 僕としては、これはたぶん富士川だから何も無くとも平氏軍が退くと知っている。


「ンなモノは連中の準備が無いのが悪い!ホラ行くぞ!!」


 止めるのも聞かずに駆け出す静。すなおに付き従う佐藤集団。


「分かったよ!」


 結局、付いて行く僕。


「オラオラ、弁慶さまのお通りだ!!」


 頼むからそう言う事言うな。


 結局、万単位のはずの平氏軍は四、五千も居ただろうか。あまりに士気が低く僕たちが乱入しただけで壊乱して逃げ去ってしまった。忘れ物にちょっと火をつけてみたが、やったことといえばそのくらいだった。

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