↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
10/18

10・兄に会いし候ゑど

 富士川の平氏軍陣で暴れた後、僕らは武田軍に見つからないように少し離れたところへと退いた。


「さすがにやり過ぎだったな」


 僕がそう言うと静は不満そうだった。


「張り合いが無さすぎる。なんだありゃあ」


 そうは言っても仕方がないだろう。西国は飢饉だったそうだし。まあ、飢饉で弱った今日の平氏政権に反旗を翻した坂東集団の独立欲がナントカ王の令旨と結びついた結果というのが、僕たちが見て来た坂東の状況だった。


「西国は飢饉なんだ、食い扶持も無しに集められたところで、誰も戦おうとはしないだろう」


 そう言ってみたが、静は不満顔だった。


「義経殿、どうやら兄君はこれより東方の黄瀬川沿いに陣を敷いている様です」


 それを聞いた静が顔をしかめる。


「ひとつ東の川か。随分後方じゃねぇか」


 そう言っているが仕方ないのではなかろうか。


「今回の戦は武田の戦だ。兄たちはただ加勢に来ただけ。まさか、他者の戦功を奪う訳にも行かんだろう」


 そう宥めておいたが、僕の前世知識を信じるならば、頼朝は前線に出ることなく後方に居た。本人が臆病とかそう言うのではなく、きっとお飾りだったから戦功を積み上げられても困るからではないかと思う。なにせ、この後に源平合戦の主力を指揮する源範頼や義経はその戦功がもとで失脚、謀殺の憂き目にあっているんだ。単なる頼朝の嫉妬心などという矮小な話ではない。頼朝を担いだ連中がそうしたのだとしか考えられない。


 まあ、記憶はともかくとして今世の頼朝に会いに行くとしようではないか。




「怪しい奴め。源氏を騙って近寄ろうなど許されるものではないわ!」


 頼朝の陣の前で取次を頼んだら偉い人が出てきてそんな事を言いだした。


「あんだぁ?ゲスが。奥州からはるばる九郎が駆けつけたというに、この扱いはどういうことだ?この野郎!」


 静はその偉いのに食って掛かっている。


「その様な言、どうやって信じる。証拠を出せ!」


 また新たに出て来た偉いのがさらに話を混ぜ返す。


「証拠?なんだそりゃあ。九郎本人が兄に会いに来たんだ、それ以外の証拠がどこにあるんだ?あぁ?」


 静も負けずに騒いでいる。まあ、こういうのをやらせれば元気なんだよな、コイツ。


「ええい!帰れ帰れ!」


 相手がとうとうそう言いだす。まあ、この時点で源氏がさらに増えて勢力が覆りでもすれば大変だもんな。神輿は軽い方が良いに決まってる。


「騒がしい、何事か!」


 また一人現れた。


 偉い人の一人が経緯を説明している。


「ん?年の頃から九郎で間違いなかろう。そなたか?」


 なるほど、コレが頼朝か。軽い神輿という評価は誤りみたいだな。


「はい、九郎にございます」


 静がそう言って頭を下げる。


「なるほど、母親似とは聞いていたが、その様だな」


 涙の対面などというモノは無く、淡々と双方のすり合わせが行われている。


 なあ、静、何でお前は僕より義経や源氏に詳しいんだ?


「そうかそうか。これより二人で上洛しようぞ!」


「ハハ、喜んで!」


 喜々として応える静。


「なりませんぞ!此度の戦、武田がモノにて我らの行く手にひかえておりますれば、そう易々と通しはしませんぞ」


 偉い人その一が頼朝を窘める。


「うむ。しかし、京の平氏を排除せんことには我らの勝機は無いのだぞ」


 そう言う頼朝。


「しかし、坂東内にすら平氏方が居る現状。まずは坂東を固めるべきかと」


 偉い人その二もそう言っている。


「確かに、それもそうだな」


 頼朝、神輿ではないし案外聞き分けが良さそうな人だ。が、その目はどう見ても狂気に染まっている。いや、憎悪というべきか?


 頼朝との対面を果たした僕たちは頼朝軍に付き従う事と相成った。


「おい、アイツの目を見たか?」


 陣を後にして静が僕にそう聞いて来た。僕はそれに頷く。


「見たよ。狂気、さもなければ憎悪って感じだな」


 そう、軽い神輿説を考えていた僕の予想はどうやら完全な外れといってよさそうだ。アレは素で僕たちを憎悪していてもおかしくはない。そんな感じだ。


「今にも食って掛かりそうな感じだった。行動を見せないだけで、すぐにでも俺を殺したいって感じだったぞあれは」


 そこまでか?


 いや、静が言うんならそうなんだろう。自分と並び立つものなど居ては困る。そう言う事なんだろうな。


 頼朝軍は陣屋前での進言通りに坂東の平定を優先するらしく後退することが決まった。


 当然だが、それから僕たちの出番はない。坂東平定に僕たちが関わっては大変と考えたのだろうな。


「やる事ねぇぞ」


 静がうるさい。


「やる事ねぇからちょっと帰ってくる」


 いつの頃からか脚装を使って奥州に帰ると出かけることが多くなった。


「なら、僕も一度帰ろう」


 ある日、そう声を掛けると乗り気で脚装を渡してきやがった。


「父親ならたまには子供の姿も見ないとな!」


 そんな殊勝な事を言いながら、文字通り飛ぶような勢いで奥州へと帰った。


 一日二日の帰郷で何が出来るという訳でもないが、装術師たちと旅装や妖装を実際に使ってみての改善点などの意見交換をしたり、新たに製作された妖装の点検や不具合修正など、やろうと思えばいくらでもやることがあった。


 それから時を見て月に一度程度、奥州へ帰る日を作って妖装の改良をやってみたり、引き連れて来た十騎の妖装の改良部品や保守部品を運んだりと暇なようで暇の少ない日々を送ることになった。


 ただ、毎回静が付いて来たかというと、時折ふらっといなくなることもあった。どうせどこかで山賊や野武士を傷めつけてるんだろうが、あえて聞かないでおくことにしている。聞いて下手に豪族滅ぼしていたと知るのも怖いしな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。