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引き立て役の女をやめて、恋をします。

 ジャイアン先輩は、たくさんの人達にいつも囲まれていた。博人君も、ずっと誰かと一緒で、遠くからでしか彼をを見ることがなかった。学校でも、私達の教室へ来なかった。だから可憐さんと博人君のクラスに行った。


 博人君は、いろんな人に囲まれていた。博人君は、直人先輩の友人達と話をしている。その他にも、たくさんの女の子達と話をしたそうにしうている。


「可憐さん、行こう」


 可憐さんも何か思うところがあったらしく、素直に私の言うことを聞いてくれた。


「おい、待てよ。順子」


 可憐さんが足を止める。


「えっ、博人さん、順子を呼び捨てしているの?」

「あっ!」


 博人君が、シマッタと言う顔をする。普段博人君はみんながいる時は私のことを「下田さん」と呼んでいる。

「そうよ。順子ちゃん、私達は、順子ちゃんの親友よ。可憐ちゃんも、私も、順子ちゃんの恋を応援しているよ」

美奈ちゃんが、微笑んだ。直人先輩が亡くなってから、始めて見せた微笑み。

「で、順子は、ケンタと博人さんどっち選ぶの?」

 もちろん可憐さんのことも「鈴木さん」と呼ぶ。


「ああ、いいだろう。俺は、順子が好きだから、呼び捨てにするんだよ」


 博人君が、ブスっとそっぽを見て言った。葬式などで博人君は疲れが溜まって、まともな思考じゃないかもしれない。


「なっ、なんて!? なんで? 順子、博人さんが、順子のことを好きって、知っていたの!?」


 可憐さんの顔が怖い。


「う、うん」


 違うと言いたかった。知らないと嘘を言えればよかった。でも私には、嘘なんて言えなかった。


「もう、順子まで、私をバカにするの! もう嫌! もう全部、嫌!」


 可憐さんは怒って叫んで涙を流した。


「可憐さん」

「もう、私のこと、ほっといて!」


 可憐さんが走り去った。


「なんで、あんなこと言うの!」


 動揺していて、博人君に怒鳴った。


「仕方ないだろう。俺は、お前が好きなんだ。俺は、後悔したくないんだ。順子、兄貴にちゃんと告白してないから、ずっと不安そうにしている。兄貴の彼女より、最悪な顔をしている」


(なにを言うの!)


「俺は、ちゃんと言える時に、言う。俺は順子が好きだ!」


 顔に血が登る。周りの生徒達が、ザワめく。恥ずかしくなって、教室へ走った。


「順子」


 ケンタがなにか言いたそうだった。もうクラスの人達は、私と博人君のことを知っていた。


「順子ちゃん」


 美奈ちゃんは疲れ切った顔をしていたけれど私のことを心配してくれていた。


「美奈ちゃん」


 美奈ちゃんに抱き付く。


「順子ちゃん」


 どうしていいか分からない。直人先輩を失ったばかりなのに。


「順子ちゃん、おいで。可憐ちゃんと、話そう」


 二年の先輩が私を呼びにきた。私と美奈ちゃんは、その日の午後の授業をサボった。私達はあの臭いトイレで会話をした。最初は、誰も話さなかった。先輩達も一緒にいた。


「順子ちゃん、博人君のこと好きなの?」


 先輩の一人が聞いた。


「分からないの……」


 本当に、分からなかった。


「そう。直人先輩は?」


 先輩のことを聞かれて、目から涙が出た。

「順子、本当のこと言っていいよ。順子、まだ先輩のこと好きなんだね」


 可憐さんが聞いた。

「わ、私は、」


直人先輩が好きと、前にみんなに言った。でも「私は、直人先輩が好き。ううん、好きだった。でもこの気持ちを、先輩に言ってなくて、伝えてなくて苦しいの」涙が流れた。


「そうだったんだ」


 可憐さんと美奈ちゃんが私に抱き付く。


「順子は、自分の気持ちを貯めすぎて、パンクしそうなんだよ。博人さんは、それに気付いたんだよ」


 可憐さんが、私の背中を撫でた。


「ねえ、順子。もし、博人さんのことが好きだったら、私に遠慮なんてしないで、博人さんに告白するのよ」

可憐さんの顔を見た。可憐さんの顔がいつもよりもっと優しくて綺麗だった。


「そうよ。順子ちゃん、私達は、順子ちゃんの親友よ。可憐ちゃんも、私も、順子ちゃんの恋を応援しているよ」


 美奈ちゃんが微笑んだ。直人先輩が亡くなってから、始めて見せた微笑み。


「で、順子は、ケンタと博人さんどっち選ぶの?」


 可憐さんの質問で、涙が止まった。


「そうよ。ケンタなんて、もうずっと順子のことを目で追っているんじゃない」


「そうだね。ケンタ君、入学式の時から順子ちゃんのこと見ていて、もうこの学校でケンタ君が順子ちゃんを好きって知らない人いないんじゃない」

「えっ!? 嘘!」


「もう、順子って、この学校で有名人だよ」


「そ、それは、可憐さんと美奈ちゃんのせいで……」

「もう、分かってない。順子は、順子で目立ってんの」

「で、でも、私は、引き立て役の女で……」

「はあ? 引き立て役の女って? 意味分からない」


 可憐さんが聞いた。


「そうそう。今年の一年生。お前達、勝手に目立って、私達、滅茶苦茶、頭にきていたんだからね」


 二年の先輩が言った。


「引き立て役の女って、何か分からないけど、順子ちゃん。順子ちゃんの素敵な恋をしてね」


 美奈ちゃんが、微笑んで言った。


「そうだよ。博人さんもケンタも、ずっと順子のことを心配しているよ。ゆっくりでいいから、ちゃんと考えるのよ。もう、モテモテで羨ましい。よし、私は博人さん以上のいい男を見つけるね」


 可憐さんが、例の発言をした。


「うん。可憐さんだったら、大丈夫よ」


 可憐さんは高飛車だけれど絶対いい人を見つけよ。


 中学一年生。まだ幼かった。初恋の人を亡くした。きちんと自分の気持ちを伝えていれば……と、何度も後悔した。もし告白していたら、気持ちの整理がきちんと出来たと思う。


 自分は、『引き立て役の女』と言って、恋に臆病になっていただから、引き立て役の女を辞める。博人君とケンタは、私を見てくれた。今度はヒロインになりたい。二人への気持ちはまだ分からないけど、私は今度はきちんと告白しよう。


『直人先輩。ありがとう』


 先輩に恋して、よかった。初めて知った恋。私の幼い初恋。引き立て役の女を辞めます。


(完結)

 最後まで読んでくださり、ありがとうございます。この作品は数年前にiらんどにツイッター小説で掲載していました。iらんどの方で続きをと言うリクエストをたくさんいただきましたが他にも書きたい作品がありますのでここで終わらせていただきます。

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