第60話 ミカエルと姉弟
蒼は茜と別れて1人天使たちが集まる場所に来ていた。
天使たちの先頭にいるミカエルの前に蒼は立っていた。
「ミカエル、天界を止めてくれるよね。」
「・・・なんで殺した?」
ミカエルは蒼が天使に『死』を命令したことに怒っていた。
けれども蒼は、茜を狙った天使がいたこと、それを防げなかったことに怒りを覚えていた。
「僕は警告してたよ。お姉ちゃんに敵意向けた馬鹿は殺すよって。それでも止めなかったのはそっちだ。殺されたくなければ命令してでも止めればよかった。」
「・・・・・・」
「止めてくれるよね。」
蒼は最初と同じ言葉を繰り返す。
それでもミカエルは応えなかった。
「・・・蒼。」
状態が膠着してしまったところに魔界の最終意思を確認しに行っていた茜が来て、蒼の横に降り立った。
「お姉ちゃん。どうして来たの?」
茜は蒼には答えず、ミカエルを見て言う。
「初めまして、ではないよね、ミカエル様。」
その茜の言葉に茜が記憶を取り戻したことを蒼は悟った。
「!!思い出したの?」
「うん、この間力を暴走させたときに全部。」
「そう、思い出しちゃったんだ・・・」
「ごめんね。」
蒼が必死に隠そうとしていたこと、それを知っている茜は謝ることしか出来なかった。
知らない振りをすれば蒼を傷つけることは無かった。
だけど、茜にはどうしてもミカエルに言いたいことが出来てしまったのだ。
「お姉ちゃんは悪くない。悪いのは全部この人だ。」
お姉ちゃんは悪くない、原因は全てミカエルにあると、蒼は訴える。
これ以上話すことは余計に蒼を傷つけると判断した茜は、話を変えた。
「ミカエル様。魔界は上位君主全員が戦いを止めることを約束した。だから天界も戦いを止めて。」
茜が魔界で説得し漸くこれでゼウスの願いを叶えられると、その想いで必死にミカエルに訴えるがミカエルは聞く耳を持っていなかった。
「悪魔の言葉など信用できるか。あいつらの首でもなければ信用に足らん。」
茜にだって許せないことはある。
蒼を傷つけられたら勿論許せないし、家族を悪く言われるのだって許せない。
自分を娘として扱ってくれるルシファー、心配してくれるマモン、助けてくれるサタン、護ってくれるベリアル、友達になってくれたベルゼブル、レヴィアタン、アスモデウス、ベルフェゴール。
自分を認めてくれた人たちが侮辱されることは自分が侮辱されることよりも許せなかった。
「なら、天界は四大天使全員の首を用意できるの?」
無意識のうちに言っていた。
ミカエルの肩が一瞬揺れたのは気のせいではないだろう。
だが、ミカエルはすぐに我を取り戻していた。
「出来るはずがないだろ。」
そのミカエルの答えに茜も当然だと思った。
だからこそ、自分の言葉を、悪魔が戦いを止めるということを信じて欲しかった。
「だから、悪魔の言葉が信用できないなら私の言葉を信じて。」
「貴方も同じ穴の狢ではないか。あいつの血を引いているのだから。」
茜が言い返そうと口を開く前に蒼が行動に移していた。
「ミカエル、お姉ちゃんを馬鹿にすることは僕が赦さない。」
蒼はミカエルの腰から剣を抜きミカエルに向かって突き刺した。
鮮血が散る。
剣先はミカエルの喉元一歩手前で止まっている。
「・・・っ、どうして、お姉ちゃん・・・」
ポツポツと剣を握る茜の右手から血が流れ落ちる。
「・・・僕はお姉ちゃんを護りたかっただけなのに・・・お姉ちゃんを傷つけた
こいつが許せなかっただけなのに・・・」
蒼は泣いてはいなかったが今にも泣きだしそうだった。
蒼の手から力が抜け、剣が抜け落ちる。
「分かってるよ。御免ね、いつも蒼を傷つけてばかりで。護るって約束したのに。」
強がりで普段は他人の前で弱さを見せない蒼が茜にだけはいつも見せてくれていた。
そして茜はいつも蒼の頭を撫でてあげていた。
今も、怪我をしていない左の手で撫でていた。
「お姉ちゃんは悪くない。悪いのは——————」
「それでもミカエル様がいたから蒼と会えた。それにミカエル様は本当にお母さんを愛してくれた。」
蒼が最後まで言う前に茜が口を開いた。
けれども、それは蒼の満足のいく回答ではなかった。
「・・・僕は、お母さんを、知らない。」
そして、それは茜も知っていた。
「うん、知ってる。だから、私はミカエル様を恨まない。ここから先は蒼とミカエル様の問題。だけど、その前にこの問題を解決しないと。」
「・・・お姉ちゃんは、優しすぎるよ。・・・・ミカエル、僕は貴方が嫌いだ。・・・それでも、僕はお姉ちゃんとの約束を守らないといけない。だから、最終警告だ。今すぐ、天界を止めろ!!貴方が貴方の家族を護りたいなら今すぐ!!」
蒼の本気に触れ、ミカエルは逆らえなかった。
天界の時のように命令されたわけでもなく、ただ逆らうという選択肢がミカエルの中に出てこなかった。
「・・・っ、分かった。・・・天界を止めよう。」
一瞬怯んでいたけれど、それでもすぐに持ち直していた。
最後は自分の意思で答えていた。
「ありがとう、ミカエル様。」
茜がお礼を言うと、蒼は引っ張るように茜の手を引いた。
「お姉ちゃん、行こう!!ゼウスが待ってるよ。」
茜と蒼は8枚の羽を広げ飛び上がった。




