第11話 ゼウスとハデス
茜、蒼、アテナ、ニケの4人が部屋を出ていった後、ゼウスは玉座の背もたれに凭れ掛かり、大きく息を吐きだした。
「珍しいな。お前がそこまで他人に気を許すなんて。」
ゼウスの座る玉座の後ろから届いた低い声にゼウスは振り返らずとも分かった。
「・・・ハデスか。」
ゼウスの兄にして、冥界の王。
ゼウスは兄を冥界と言う闇に押し込めてしまったことを後ろめたく思っていた。
ゼウスが名前を呼ぶと後ろにある柱の陰から一人の男が出てきた。
男の姿はゼウスのように煌びやかなものではなく神にしては地味なもなのだった。
周りにまとう空気も神々しさとはかけ放たれた陰鬱とした負のオーラのようにも思えた。
「あれが、アレスを弾き飛ばすほどの力を秘めているのか。」
ハデスの呟きはゼウスにあてた問いでもなければ確認でもなかった。
ハデスはアレスと親しい者の内の一人だった。
多くの神に嫌われているアレスだが、ハデスの王国、冥界はアレスが始めた戦争のおかげで大きくなったのだ。
「もともとあいつらには力をつけて貰わなければならなかったのだろ。良かったではないか、向こうから言い出してくれるなんて。」
嬉々とした声にゼウスは顔を顰めた。
「・・・それでも成長するまでは待つつもりだった。」
「事態は切迫しておるぞ。悠長なことは言っておれんだろ。お前が選んだ道だ。」
お互いの位置からは顔は見えない。
だが、兄弟ゆえか、何を考えているか分かるときがあった。
ゼウスが初めて、この計画についてハデスに話した時、ハデスは何も言わず、ゼウスの計画に賛同した。
今ゼウスがハデスから感じているのは悲しみや怒りが混ざったようなものだった。
「・・・ああ、そうだな。だが可能な限りあいつらには未来を与えてやりたい。」
「それは、罪滅ぼしか?」
「・・・・・・。」
ゼウスはハデスの問いに答えなかった。
「まぁ、いい。私は私のやるべきことを為すだけだ。」
ゼウスにハデスの気持ちが分かるようにゼウスの気持ちもハデスは分かった。
そう言ったあと背後から気配は遠ざかっていた。
「・・・罪滅ぼしなどする資格もない。」
ゼウス以外誰もいない部屋でぽつりと言ったゼウスの後悔をにじませた声は夜の闇に吸い込まれるように消えていった。
昼間見た、茜たちを包む光、その内側で微かに感じた神気。
周りにいた者も、アテナでさえも気づかないほどの微かなもの。
だが、それは彼らの今後が混迷を極めることを物語っているようなものだ。
(どうか、彼らの物語が幸多きものであることを—————)
そんな身勝手な自分の内の願いにゼウスは苦笑した。
自らの手で彼らの幸せを摘み取ってなお彼らを利用しようとしているというのに
・・・。
「それでも、私は願ってしまうのだろうな。あいつらの幸せを———————」




