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Mystic Lady ~完結編~  作者: DIVER_RYU
第三章『作業後ティータイム』
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『作業後ティータイム』 急

ロッサが海に潜れず、一人海に挑んだ琉。しかし巨大なハルムの襲撃を受けてしまった! 彼を襲ったハルム、セルペスクとは!?

 琉を襲ったハルム、セルペスク。ミノウミウシとイカ、ウミヘビを足したような外見のハルムである。その背中には無数の触手が生えており、近付けばたちまち餌食とされてしまうであろう。おまけにその触手についた吸盤状の物体からは、生物をマヒさせる強力な毒素が分泌されるのだ。


「しかし近付かなければパルトネールが奪えない……やむを得ん!」


 琉は背中と腰に付いた4か所のスクリューを一気に開き、一気に近付いてゆく。襲い掛かる触手をくぐり、パルトネールを巻き取った触手を目指す。ハンディクラッシュを展開して赤く染まった手を構え、琉は突き抜ける。


「返してもらうぜ……トァッ!」


 行く手を阻む触手に、琉は高熱の手刀を浴びせた。切断され、縮みゆく触手を後にし、その目は常に目的地を見据えている。移動するたび、赤く発光する琉の手が独特の軌跡を描いていた。スクリューを回すたび、琉の手はパルトネールへと近付いて行く。

 前後左右から来る触手。琉は体をひねり、回転しながらの手刀で触手を寸断した。焼き切られた触手が、辺りに浮かびあがる。


「あと少し、あと少し……!? しまった、後ろから来たか!!」


 背後から拘束された琉。あと少しという所で、琉は複数の触手によってがんじがらめにされてしまった。このままでは、琉は触手によって八つ裂きにされてしまうであろう。琉の目の前に、セルペクスは取りあげた武器をぶら下げて見せつけた。まるでバカにしているかのようである。


「コイツめ……性格悪すぎだろ常識的に考えて。しかし同時にバカでもあるな、アードラー!」


 琉はパルトネールに向かってそう叫んだ。その声に呼応し、遺跡のガレキの中からアードラーがその姿を現す。


「アードラー・フィンスラッシュ!!」


 すぐさまパルトネールを引き離そうとしたセルペスクであったが時はすでに遅し。アードラーの展開した刃が、セルペスクの触手をバラバラに切り刻んでいた。解放された琉はアードラーの背中に飛び乗り、パルトネールを探す。しかしそのスキを与えまいと、セルペスクの触手はなおも琉を執拗に狙う。


「うっとうしいな、丸焼きにしてやろか! オセルスフラッシャー!!」


 額の単眼から放たれた赤い高熱のエネルギー体が、触手の群れを貫いて飛んでゆく。しかし本体には達しておらず、セルペスクの息の根は止まった様子がない。だが、琉の視界は開けた。絡め取られたパルトネールを見据え、赤く光る手を構え、琉はラングアーマーのスクリューを全て回してアードラーのスピードに上乗せし、

一気に近付くとすれ違い様に触手を焼き切り、振り向くなり手をかざして叫んだ。


「返してもらうぜ、パルトネール!」


 切断された触手の中をすり抜けて、パルトネールが琉の手に向かって飛んで行く。トリガーに指を引っ掛け、回しつつ構える琉。セルペクスの触手はことごとく切られ焼かれ、本体がむき出しの状態にも関わらずまだこちらを狙っている。


「諦めの悪いヤツはな、長生きしないんだぜ?」


 そう言いつつ琉はトリガーパーツのレバーを入れた。セルペクスは残りの触手を全て膨らませ、琉に向ける。アードラーの上に立ちながら敵を見据え、両手で構えたパルトネールの先端は青白く光り、引き金に置かれた指に力が込められた!


「パルトブラスター!」


 反動でのけ反る琉。青白い光弾に体を貫かれ、セルペスクが硬直する。やがて食らった部位から全身に青白いヒビが広がり、触手の一部から触角の先まで残らず粉砕、消滅した。その最期を見届けた琉。アードラーを翻し、カレッタ号へと戻って行ったのであった。

 ラングアーマーを解除し、服を替えて作業室にこもる琉。この日の収穫は、地下室に眠っていた当時の武器達と棺桶であった。


「棺桶から反応があったな……。やはりこれも、ヴァリアブールの眠るモノだったのか?」


 棺桶の内部からはわずかなヴァリアブールの反応が見られる。だがしかし、発見された時点で細胞は弱っており、琉が調べるうちに反応が徐々に消えていった。


「もたなかったか……まぁ良い、世紀の大発見には代わりないぜ。コイツはしばらくの飯代になる、そんなことより他に拾ったモノを磨くかな。ロッサ、ちょっと手伝ってくれ」


「う、うん……」


「ん? どうしたんだいロッサ?」


 拾ったモノを磨きつつ、琉は言った。昨日のことを引きずっているのか、ロッサの表情は依然として重苦しいモノである。


「……昨日の悪夢ならアレだ、こういう作業が結構効くんだぜ。さ、これが終わったらハーブティーでも飲もうか」


 作業に取り掛かる二人。付着物を落とし、真水で洗う、単純作業の繰り返し。何かに没頭するというのは、辛い過去からの脱却には確かに有効だろう。その作業の最中、琉は時折ロッサの胸……だけでなく表情に目をやっていた。彼女が手に取ったのは刃の分離する剣。さっそくブラシをかけるロッサだったが、ワイヤーを軸に伸縮するその刀身に苦戦を強いられていた。ただでさえ浮かない気分での作業である。そうそう上手くいくはずがない。


「……ロッサ、ソイツは任せてくれ。代わりにコイツを頼むよ」


「う、うん……」


 自分のを磨き終わった琉は、ロッサに別なモノを渡した。ロッサがやるよりもずっと早く、琉は作業を終わらせてゆく。途中でワイヤーが切れているものの、剣の刃渡りは60cmほどのモノであった。


「ほぉ、コイツは……。初めて見たぜ、コレは高く売れそうだ! あとは……ロッサ、ソイツが終わったら今日の作業は終わりだぜ。ちょっと拾ったモノを整理して来るから終わったら呼んでくれ」


 そう言いながら拾った剣を振り回す琉。顔も相まって、その挙動は子供そのものであった。やがて飽きたのか、琉はふろしきを取り出すと他のモノを同様に剣を包み始める。そんな彼が拾ったモノの整理をする一方で、ロッサはあることを考えていた。


(海に潜れないし作業もマトモに出来ない。今まで手伝ってもらっていた記憶探しも、怖いと言うだけで打ち切りにした。琉はきっと、口には出さないけど怒ってるんだろうな。もうわたし、この船には……)



 全て作業が終わった後、二人は食堂に向かっていた。手に入ったフレッシュハーブを使い、いかにも楽しみな表情でハーブティーを煎れる琉に対し、ロッサは思いつめた表情を浮かべたままだった。


「出来たぜ~! ……飲むか?」


「あ、う、うん」


「……ロッサ、何か思いつめてるなら言っちまいな。ひょっとして、昨日の悪夢のことで何かあったのかね?」


「うーん、確かにそれなんだけど……」


 ロッサは少しためらった。そしてハーブティーを口にした後、吐き出すように言ったのである。


「単刀直入に言うわ。わたし、この船を降りようと思うの……」


「そうか、カレッタ号を降りたくなったのか……ってえぇッ!? っとあっつつつ!!」


 ロッサの言葉に驚き、思わずカップをひっくり返した琉。熱いハーブティーがぶっかかり、大の男が慌てふためいた。雑巾を持ち出し服を替え、こぼれたハーブティーを拭き始める。何とか収集を付けた琉は改めてハーブティーを注ぎ、ロッサに聞き直した。


「……えぇとつまり、カレッタ号を降りたくなったのね。別に降りたいのなら止めたりはしないよ。明日、拾ったモノを売ったらハイドロに向かおうか。それにしても、どうしてそんなことを思ったんだい?」


「それは……」


 ロッサはカップを置き、うつむいた。そして顔を上げて琉の方を向き、 


「わたし、この船にいても邪魔でしょ? 記憶探しをやめちゃった上に怖いと言うだけで海に潜れなくなって、さっき琉がハルムに襲われても何も出来なくて……。それにわたしのせいでメンシェには目を付けられるし……」


「そんでもってムダ飯を食っている、そんな自分がこの船にいても良いモノか……そう思っていたのか。なるほど、どうりで表情が晴れないワケだぜ。いわゆる自己嫌悪ってヤツかね……」


 琉はハーブティーを啜りつつ言った。さっきこぼしたのが惜しかったのか、カップを両手で大事そうに抱えている。


「なぁ、ロッサ。君は俺のことを、何か勘違いしてないかい?」


「え?」


「確かに今のロッサは動けない。記憶探しはストップし、海に潜ればトラウマの宝庫だしな。この船にいる意味がなくなったように思えるかもしれん。だがね……」


 静かにカップを置く琉。目を閉じ、少し間を置いた後、その青い両目をロッサのに向けて言った。


「俺としては、ロッサにはこのままカレッタ号に乗っていて欲しいな。さっきから聞いていたら何だ、ロッサが邪魔だァ? 自分のためにメンシェに目ぇ付けられるゥ? ムダ飯食いだァ!? ……あのなぁ、俺としてはそんなことより、また一人ぼっちでこのだだっ広い船に乗る方がよっぽど耐えられないぜ! それにね……惚れた女のために働くのが苦になるような“をとこ”がいるかってんだ!! ……あッ!?」


 思わず出て来た言葉。胸の内に秘めていた感情。琉は顔を真っ赤にして顔を覆った。今にも顔全体から火が吹き出て来そうである。


「琉……ありがとう」


 それを見たロッサの顔に、やっと笑顔が戻ったのはいうまでもない。



『航海日誌×月◎日。今日のロッサはずっと思いつめた表情であった。私はずっとそれを、昨日の悪夢について悩んでいるモノなのだと思っていた。しかしそれは半分正解であり、半分見当違いだったのである』


『……まさかあんな形で、人生初の愛の告白をすることになろうとは。しかしそれでロッサの心が多少なりとも救われたのなら幸いである。悪夢ならまだしも、ロッサがあそこまで心遣いの出来るとは思わなかった。むしろ察してやれなかった私の方に、今回は非があったと言っても間違いではないだろう』


連載が遅れて申し訳ありません。実は大学の実習で、3日間の航海に出ていたので御座います。いっそこの日まで休載にした方が良かったのかな……。では、次回予告です。


~次回予告~

記憶探しを打ち切り、遺跡での探索作業のみに力を入れる琉とロッサ。だがそんな折、カズから入った連絡。なんとフルル島に、メンシェ教幹部が集結しつつあるというのだ。果たして、二人のとる行動とは!?

次回『シークレット・スパイダー』

その牙は、真実を暴くためにある!

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