『シークレット・スパイダー』 序
~前回までのあらすじ~
ロッサの悪夢は、エリアγに散らばったヴァリアブールの細胞の見せたモノであった。記憶を取り戻すための最大の鍵、それはヴァリアブールの細胞片をロッサに取り込むことだったのだ。しかし悪夢を見せられたことによりロッサの精神は耐え切れなくなり、記憶探しを打ち切ることとなってしまう。オマケに船を降りると言い出したのだが、琉は愛の告白の混ざった説得により彼女を引き留めたのであった。
ハロゲニアに滞在して4日目。琉はクロリア島にある、ラング基地に足を運んでいた。発掘品の売買は主に基地の中にて行われるからだ。
「ほぉー、これは珍しい剣だな」
「しかし随分とジャラジャラとした武器だねぃ」
琉の持ち込んだ発掘品の中でも、分離する剣と棺桶は特に高い値段で取引されることとなった。売り上げの一部は基地に還元されることになるのだが、それでも大金には変わりない。大量のチャリン硬貨の入った(この世界に紙幣はない)箱をふろしきに包み、笑いの止まらぬ琉は悠々とカレッタ号に戻って行く、その帰り道のことである。
「まさか4日で元が取れるとは思わなかったぜ。んじゃ、燃料の補給だけ済ませたらハイドロに帰ってちょっとのんびりしようかな……。最近はメンシェも派手なことをやらなくなったみたいだし! っってえぇーーッ!?」
バイク形態のアードラーを飛ばし、カレッタ号のある港に向かっていた琉。しかし船の手前まで来た途端、アードラーのタイヤが急に速度を落としたのである。バランスを崩し、琉は派手に転倒してしまった。
「アガッ(痛ッ)!? っとあぁッ、せっかく稼いだ銭が、銭がァッ!!」
恥も外聞もなく地面に這いつくばり、必死の形相で貨幣を回収する琉。幸い海には落ちていない。○斗百烈拳を思わせる驚異的な、まさに目にも止まらぬ早業で金を拾い集める琉。そのため、自身に迫る危機には全く気付く様子がなかったのであった。
「……なぁ、コイツ本当に彩田琉之助なのか?」
「いや、確かにコイツだ。サポートメカのナンバープレート見てみろよ。コイツに間違いない! ……はずなんだが」
「まさか……我々をあれほど苦しめて来た異端者が、こんな守銭奴な小物なはずがないだろう!?」
傍らでそれを見るローブの3人組。素顔を隠す仮面の奥に呆れた表情を浮かべながら何度も手配書と見比べていた。
「あわわわ、一枚足りない! それもよりにもよって10万チャリン、10万チャリンは何処だァァーッ!?」
10万チャリンは、この世界の最高額貨幣である。因みにこの世界の一般市民の月収は平均5万チャリン、そうそうお目にかかれないシロモノである。眼の色変えて探すのも当然のことであろう。
「あ、丁度良い所にいた! この辺でさ、10万チャリン見なかっ……アァァーッ、お前らァーッ!!」
「ようやく気付いたか彩田琉之助!!」
目があった途端に身構える琉。が、何処かおかしい。それもそのはず、手に持ったチャリン箱をしっかりと抱え直しつつ後ろにかばい、
「よくも盗りやがったな! 俺が命がけでセルペスクと戦って手に入れた金なんだぞ、1チャリンたりとも渡してなるもんか! 早く返せ!!」
「崇高な使命のために活動する我々が、たかが金のために動くと思ったか!」
「何だと!? よ~く考えろ、お金は大事だぞ!! ってそれ、エアハッカー!? てことはアードラー止めたのはお前らか!!」
琉は、3人組のうちの一人がアンテナの付いたリモコン状のアイテムを所持していることに気付いたのである。
「気付くのが遅すぎるわ! しかし気付いた所でどうにもなるまい、やれ!!」
琉はふろしきを取り出すと、ロープのようにして箱を縛り始めた。その最中にも関わらず、敵のナイフが彼を襲う。しゃがみ、跳び、コンテナの側面を駆け回り、琉は攻撃をかわしつつ箱を硬く縛り上げると、力の限り投げ上げた。箱はカレッタ号の甲板に着地、琉は金の確保に成功したのである。
体勢を立て直し、二人を睨みつつパルトネールを取り出した琉。だがその様子を見たメンシェ教徒の一人が不敵に笑い、エアハッカーのスイッチを入れたのである。
「熱ッ!? アギジャベ、キッチリ対応してやがったのか!」
エアハッカーによってパルトネールは高熱を発し、操作が効かなくなった。
「当然だ、我々のことを舐めてもらっては困る。大人しく死ぬが良い」
「……ほほぅ。こちらが対応してないとでも思ってたかい?」
拳銃を向ける二人。引き金が引かれ、あわれ金の亡者は銃弾の餌食に……なるかと思われた。
「ハァッ!!」
掛け声と共に両腕を振る琉。途端に銃弾はパリィ! という音と共に地面にたたき落とされた。腕を止めた彼の腕に握られていたモノ、それは袖に仕込んでいた、伸縮式のトンファーだったのである。琉はトンファーを回転させ、銃弾を防いだのであった!
「何……だと……!?」
「ほらほらどうした、ボヤッとしてたらこちらから行くぜ、トァァーッ!!」
両手に持ったトンファーを再び回し、琉はメンシェ教徒達に飛び掛かった。慌ててナイフを取り出し、二人のメンシェ教徒が斬りかかる。琉はその二人の刃をかわして跳び上がり、エアハッカーを持った教徒に蹴りかかった。
「ぬわッ!? き、貴様……!!」
蹴られた敵はエアハッカーを懐に仕舞い込み、ナイフを取り出し振りかざす。だが刃は二つのトンファーによって受け止められ、琉の脚が相手の腹部を襲った。吹き飛ばされるメンシェ教徒を尻目に、琉は残り二人を相手取る。襲い来るナイフを弾き飛ばし、トンファーの先端が鳩尾を捉えた。そして琉は、最後の一人をキッと睨みつける。ナイフをかわし、トンファーを打ちつけ、ダウンした敵のフードを片手で掴んだ。あとは打ちつけるのみとなった時、彼の目に光り輝く何かが映り込んだ。
「最後にこれだけは言っておこう。泥棒扱いして悪かった」
それだけ言うと琉は首筋を打ち、気絶させた。そして背を屈め、足元に落ちていたモノを拾い上げる。それは紛れもなく、彼が必死になって探していたモノであった。
「あったァーーーーーッ!!」
たちまち琉の歓喜の声を上がった。素早く硬貨をポケットに放り込み、琉は3人を抱えて近くの倉庫に放り込んだ、のだが……
(げ、エアハッカーを解除しないとアードラーもパルトネールも使えなくなるぞ。何処に入れてんだ? つうか誰が持ってたっけ?)
琉はとりあえず目の前にいるメンシェ教徒のローブの中をガサガサと漁った。しかしナイフと銃しか出て来ない。仕方ないので二人目を漁る。
「何が悲しゅうて、男の服の中なんざ漁らんとイカンのさ……あった! コイツは貰って行くぜ」
エアハッカーを奪い取り、琉は倉庫を出た。とりあえずそのまま握りつぶそうとした琉だったが、すぐに手を緩めた。何せ今持ってるのは相手の切り札とも言える武器であり、それも無傷な状態である。ここで壊したら貴重なサンプルが失われることになるだろう。
「良く見りゃスイッチ少ないな……。“S”と“T”が押し込んである、どう見ても“サポートメカ”と“トライデント”の略だぜ。……って、側面に“ON/OFF”があるじゃねぇか!」
琉は“ON/OFF”に指をかけ、切り替えた。しかし安心は出来ない。落ちているパルトネールに歩み寄り、そっと手をかざした。
「……来い、パルトネール」
パルトネールはたちまち琉の手に吸いつくように飛び着いて来た。若干の余熱があるものの、エアハッカーの呪縛からは解放されたようである。
次に琉はアードラーに向かった。ハンドルを持ち、何とか立て直してアクセルをかけてみる。ブルン、という音が鳴り響き、アードラーのエンジンがかかり始めた。とりあえず琉はそれに跨り、軽く走ってみたが何の異常も見られない。そこで一端降り、パルトネールを取り出して音声コードを入力してみることにした。
「チェィンジ・マリンアードラー!」
するとアードラーはその場で海に向かって走り出し、岸壁を飛び出した所でたちまちバイク形態から元のトビエイを思わせる形態に変形したのである。
「よし、異常なしだ。戻れ!」
アードラーは海中に潜り、カレッタ号の船底に戻って行った。それを見届けた琉はカレッタ号の階段を展開、船内へと帰還した。
「……ということがあってな、これが話に出て来たエアハッカーだ」
「これが? ……アンテナ以外は全然形が違うじゃない」
カレッタ号の食堂にて。琉はテーブルにエアハッカーを出し、コーヒー片手にロッサと話していた。
「アイツらに加担する技術者がいるのは間違いないだろう、この前のは罠として使ったみたいだが今回のは武器として使用しやすいように作られたようだ。しかしアイツらまた急に襲って来やがったぜ、やっぱ明日には帰ろうか……ん?」
琉の懐から突如鳴り響く音色。携帯電話に着信が入ったのだ。『桜咲和雅』、画面にはそう出ている・
「カズ? ……何か仕入れたな、こりゃ……ハイサイ!」
「琉、情報だ。今、ハロゲニアだったよな?」
「あぁ、そうだが……何があった」
カズの声がいつも以上に張りつめていて硬い。オマケに普段より声が押さえ目ときた。危険な情報が入った、琉の直感がそう言っている。
「デカい声じゃ言えないが……ハロゲニアにメンシェ教徒が集まっている。それも更に言えば、メンシェに手を貸していると噂される業界人やら知識人がまでもそこに向かっているとのことだ」
「こりゃ強烈な情報をありがとよ……。しかし何があるって言うんだ?」
「元メンシェ教徒の情報によれば、だ。どうやらメンシェの重鎮は定期的に会議を開いているらしい。今回はどうもフルル島の地下教会に集まっているそうだ。明日開くらしく、ついでに言えば場所も特定出来ている、地図情報を送っておこう。とりあえずそこにだけは近付くな、良いね!」
「……了解。気を付けるぜ」
琉は携帯電話を切った。ふと見ると、ロッサの表情まで緊張に震えている。いくら小さい声でもここは食堂の中。嫌でも聞こえて来るのだろう。
「なるほど、今日の襲撃は邪魔者の排除だったというワケか。会議前に、自分を脅かす存在を消しておく……単純な話だぜ。逃げるなら今日中だ、しかし気になることがある」
「気になること?」
ロッサは琉に聞いた。どうやら琉、何かを企んでいる様子なのだ。
「ロッサ、コレはヤツらの実態と目的を暴くまたとない機会なんだ。更に君を嫌う理由もな。だからどうにか潜り込みたいが、今回ばかりは教徒を総動員だろう。仮に見つかったなら確実に闇へと葬られる、どうにかならんモノか……」
「だったら、良い考えがある!」
「ロッサ? ……良いだろう、言ってみなさい」
久々のメンシェ教徒で御座います。しかし相変わらず噛ませ臭ぇ連中だなw




