23 同好会開始
「部屋に手掛かりになるようなものは何もありませんでした。恵さんに関するもので、お母さんが保管しているものは他に何かありませんか?」
白川が尋ねると、木田恵の母親は鏡台のある部屋に向かい、収納付きベッドの引き出しを開けた。
「ここにあるのは恵の小学校の卒業式までのアルバムと通知表。それと図工の作品が幾つかあるだけ。あとは箪笥の引き出しに、服がそのまま残っているわ」
「無理を承知でお願いします。アルバムの写真をスマートフォンに記録しても構いませんか? 少しでも当時一緒にいたクラスメイトの事が知りたいんです。恵さんの死の真相が明らかになったら、必ずお母さんにお知らせして、目の前でデータを消去すると約束しますので」
白川は母親の二の腕をつかんで訴えた。
「ふふっ、今日はあなたの気迫に押されっぱなしね。わたしは恵の死が理解出来なくて、ずっと悔しくて悲しくてやりきれなかった。でも、他の皆があの子を忘れた頃にあなたがやって来て、恵の事を知りたいと言ってくれた。わたしはそれが嬉しいの。だから、このアルバムをしばらくあなたに預けるわ。あなたの役に立つかどうか分からないけれど」
木田恵の母親は優しい笑顔を浮かべて、アルバムを白川に手渡した。
「ありがとうございます」
白川はアルバムをしっかりと両手で抱き締めて言った。
「佐藤君? あなたもしっかりと白川さんを支えてあげてね。結果を気長に待っているわ」
木田恵の母親は付け足すように、俺の肩を軽く叩いて言った。
お互いの連絡先を交換した後、俺と白川は帰途についた。電車の車窓から景色を眺めると、空には夕闇が迫っていた。
「明後日から本格的に同好会の活動を始めましょう。一応、担任の先生に自由に使える空き教室がないか聞いてみるわ。放課後、学校で出来る事は学校でやって、必要があれば週末私の家に集合するという事で、どう?」
閑散とした列車の座席に、並んで座っていた白川が言った。俺は断る理由も無く頷いた。
「預かってもらってたブリキの箱や卒業アルバムが入った紙袋は明後日の朝に持って来てね。一は月曜から毎日、私の家に迎えに来る約束だから」
白川はにんまりと笑って言った。
月曜日の昼休み。俺は再びクラスメイト(主に男子生徒)からの痛い視線を浴びながら、白川と屋上へ向かった。
「一のお弁当は、お母さんが作っているの?」
先日と同じように、高架水槽の陰にレジャーシートを敷いた白川が俺に尋ねた。
「ああ。中学の時から変わり映えしないものだけど」
白川は自分の弁当箱を出して食べ始めた。俺も向かいに座って食べ始める。
「迷惑じゃなければ、いつもおかずが余るから一の分も作ってあげるけど、どう?」
白川は黙々と食べながら目も合さずに言った。
「嬉しいけど、申し訳ない気もするな。余ると言っても、お金も手間もかかるだろう?」
俺が正直な気持ちを言うと、白川は溜め息をついて言った。
「一は鈍いわね。私が作ってあげたいと思ってるの。私の手作り弁当を食べたいの? 食べたくないの? どっち?!」
「食べたい!」
「OK。それじゃあ明日から用意するから、お母さんに伝えておいてね。それと、担任の先生が静かな空き教室を手配してくれたわ。同好会の名前は『自習同好会』。早速、放課後から活動開始よ。今日は今までの調査のおさらいと今後の方針について話しましょう」




