22 部屋の捜索
三人は卓袱台を囲んで向かい合っていた。俺が見守る中、白川は木田恵の母親に向け、静かに語り始めた。
「私の交換条件は、生前の恵さんの事を知るために協力してほしいという事です。さっきお話したように、今日私はお悔やみを伝えてすぐにお暇するつもりでした。でも、元はと言えば恵さんの現況を知りたかったのが連絡を取った理由です」
「どうして……同窓会の話が嘘なら、あなたと恵の間に一体何があったの?」
母親はきつく拳を握り締めたまま、食い入るように白川を見つめた。
「ある出来事が切っ掛けで、私は小学六年生当時の事を調べ始めました。今はまだ不確かな事が多すぎて、知っている事を全て話せません。調査を進めて行く中で言える事は、その事に恵さんの死が深く関わっている可能性があります。
先程お母さんは恵さんの部屋と遺品をそのままにしてあるとおっしゃいました。部屋や遺品の中から、当時を物語る何かヒントになるようなものが見つかるかも知れません。やさがしするみたいで心苦しいですが、どうかお部屋の捜索を認めてもらえませんか?」
「それで恵が不慮の死を遂げた理由に辿り着けるのなら、喜んで協力するわ」
母親は白川の気迫に打ち負かされたように、ふうっと息を吐いて微笑した。
居間の奥の引き戸を開けると、シングルベッドと衣裳箪笥、鏡台のある部屋があり、母親の案内で、更に左にある引き戸を開けた。
「ここが恵の部屋よ。あの子が生まれて間もなく夫と別れたから、ずっと母一人娘一人だったの。わたしは仕事が忙しくて十分に構ってあげられなかった。今頃後悔しても遅いけど」
木田恵の部屋は四畳半ほどの広さで、右隅の壁際に学習机。フックには古ぼけた赤いランドセルが掛けてあった。奥の細長い姿見の隣りには、襟に中学の校章が付いた真新しい制服が掛けられていた。
床の左半分はパイプベッドが占めていて、ピンクの花柄の布団が掛けられていた。
左の壁には、取って付けたように、色褪せた男性アイドルグループのポスターが貼られていた。
「シンプルな部屋でしょう? その壁のアイドルグループも、それほど熱を上げているようにも見えなかった。恵が亡くなってから、あの子の事をもっと知りたいと思って色々と探してみたけど、部屋の中に目ぼしいものは何も見つからなかった。もちろん日記のようなものなんて一つも無かったわ。
わたしがいると気兼ねするだろうから、居間で休んでいるわ。調べが済んだら呼びに来てね」
木田恵の母親は穏やかな笑みを浮かべて、居間の引き戸を閉めた。
「見たところ、本当に目ぼしいものは何も無さそうだな」
俺は無言で部屋の中を眺める白川に言った。
「私は物持ちがいいから、当時のものをまだ捨てずに残していた。木田さんは小学校を卒業してすぐに、当時のものを全て処分したようね。自分でそうしたのか、誰かに言われてそうしたのか分からないけれど。とにかくダメ元で出来る事をやってみましょう。それで何も見つからなかったら、それまでの事よ」
白川は机の引き出しやランドセルの中を調べ始めた。俺は普段目に付かない所を徹底的に調べた。ポスターの裏やマットレスの下、ベッドを持ち上げてカーペットを捲り、下に敷いてあった畳もどかして見てみたが、書き置きのようなものは見つからなかった。
「この部屋には見事に何も無いわ。不自然なくらいにね」
白川は学習椅子にもたれて溜め息をついた。
「木田恵が誰かに命令されて当時のものをまとめて処分していたとすれば、何か命令に逆らえないような弱みを握られていたのかな? いや、考え過ぎかも知れない。ただの断捨離の線もあり得るな」
俺は壁にもたれて腕を組んだ。
「一の考えが正しいとすれば、木田さんが命令されたもの以外に、処分出来なかったものがまだあるかも知れない。お母さんが保管していたものよ。あるかどうか聞いてみましょう」
白川と俺は木田恵の部屋を出て、母親を呼んだ。




