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埋もれた声明文 ~陰キャでぼっちな俺が、なぜか学校一の美少女に呼び出された~  作者: シッポキャット


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21/94

21 弔問

 (ひな)びた住宅街の細い道を、少し前を歩く白川(しろかわ)の背中を眺めながら付いて行った。路地の突き当りを右に折れると、用水路を(また)いだ先に、二階建ての集合住宅(ハイツ)が見えた。


(みどり)ハイツ102号室。一階の真ん中の部屋。(はじめ)は基本的に見守ってくれていればいいけど、私は山本梓(やまもとあずさ)だから間違えないでね」

白川は(ささや)くように言った。


 ドアブザーを鳴らすと、返事の(あと)にドアが開いて、中から(おだ)やかな表情をした女性が姿を現した。恐らく電話に応じた木田恵(きだめぐみ)の母親なのだろう。

「あなたが山本さんで、そちらがお友だちの佐藤君ね。今日は遠い所まで来てくれてありがとう。狭い部屋だけど遠慮無く上がって」


 ドアと同じ幅の三和土(たたき)で靴を脱ぎ、白川の後に続いて廊下に足を踏み入れた。

左側に洗面台とユニットバス。奥に小ぢんまりとした居間があり、左(すみ)の奥まったスペースに小さな仏壇があった。


「普段(めぐみ)の写真は仕舞ってあるんだけど、昔の面影(おもかげ)を思い出してほしくて出して来たの。今日は来てくれて本当にありがとう」

木田恵の母親は少し離れた場所で腰を下ろし、白川の横顔をじっと見つめていた。


 白川は一礼して、木田恵の遺影に視線を合わせた。火をつけた線香を香炉(こうろ)にそっと寝かせて置いた。静かに両手を合わせて、しっかりと自分の思いを伝えている様子だった。


 白川はおもむろに腰を上げ後ろに下がった。俺は白川の作法をそのまま真似(まね)て、木田恵に線香を上げた。もちろん顔も合わせた事が無い赤の他人だったが、もし()()()の自作自演の報復の犠牲になっていたとしたら同情したくなる。

 俺は真相の究明を心に誓って、静かに手を合わせた。


「今日は無理を言って押しかけて来て、本当にすみませんでした」

白川は正座したまま、母親に深くお辞儀をして言った。俺も合わせるように頭を下げた。


 木田恵の母親は、立ち上がって玄関へ向かおうとした白川を呼び止めた。

「あなたは、本当は(めぐみ)と同じクラスにいた()()さんでしょう? すごく印象的な子だったから、よく覚えているわ」

白川は振り向きもせず、無言で上がり(かまち)に座って靴を履いた。


「あなたが(めぐみ)の不幸を知って、ここへ来てくれた事は素直に(うれ)しい。でも、なぜ嘘の名前を使ってやって来たの? 何か理由があるんじゃないの?

 恵は何の書き置きも残さず、学校の屋上から転落して死んでいた。真新しい制服や文房具を買って、中学入学を楽しみにしていたのに。あの子の死因が事故か自殺か(いま)だに分からないのよ。お願い、何か知っていたらわたしに教えてほしいの。お願い! 白川さん!」

木田恵の母親は白川の背中に(すが)りついて、泣き崩れていた。


 白川は心を落ち着かせるようにゆっくりと深呼吸をした後、振り向いて言った。

「今日は(めぐみ)さんの不幸を知って、素直に(とむら)いに来ただけなんです。確かに偽名(ぎめい)を使い、同窓会の企画というのも出鱈目(でたらめ)な嘘でしたが」


「取り乱してごめんなさいね。でも、本当にどうしてそんな嘘を?」

母親は少し落ち着きを取り戻し、(そで)で涙を拭いた。  


(めぐみ)さんの遺品は残っていますか?」

白川は母親の問いには答えず、逆に問い返した。


「部屋も遺品も、ずっとあの子がいなくなった日のままよ。毎日欠かさず掃除はしているけど」


「私の交換条件を受けていただけるのなら、話せる範囲で嘘をついた理由を打ち明けます」

白川はそう言った後、俺と目で合図を交わした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] タイトルからの予想に反して、血生臭さのする連続事件で、ミステリ好きとしては高まります笑
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